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【第30章】中小企業が飛躍するために必要なパワーの活用

本章では、資源依存理論(resource dependence theory※以下、RDT)を取り上げる。RDTは1970年代後半に生まれた三大組織理論の1つと位置づけられており、企業・組織のパワーに注目するのが最大の特徴だ。企業のパワーはビジネスに様々な影響を及ぼす。しかし、パワーメカニズムを正面から解き明かす経営理論は少ない中で、例外がRDTなのだ。



企業パワーとは

PDTにおけるパワーとは「他社と比べてどちらが強い交渉力をもちうるか」といった相対的な力関係のことを意味する。企業は顧客、取引先、投資元、投資先、提携相手、政府機関など様々な外部プレーヤーとやり取りを行う。このやり取りの総称を「リソース」と呼び、リソースの交換関係が、相対的な知から関係を生む。
企業同士が交換する「リソース」の具体的な例としては以下のようなものが挙げられる。
1.材料・部品・技術などのリソース
この世の大部分の企業は材料・部品・技術・人材などを少なからず外部から調達している。それらは全てリソースと言える。そのリソースの依存度がポイントとなる。
2.金銭的リソース
企業は自社製品・サービスを顧客に売り、対価として金銭報酬をもらって売り上げを上げている。したがって売り先が特定の顧客に限定されると金銭的リソースが特定顧客に依存している状態となる
3.情報リソース
ビジネスでは情報も重要なリソースとなる。したがって情報を特定のプレーヤーに依存すれば、相手のパワーは強まり、依存する側のパワーは相対的に弱くなる。日本では商社・広告代理店に情報・人的ネットワークが集中する傾向にある。
4.正当性リソース
RDTでは正当性もリソースと捉えられる。例えば、スタートアップ企業は大企業と取引をしてサービスを導入できると、ホームページ上に導入実績を乗せて正当性を強調できる。

パワーの弱い企業が、依存しすぎないようにとるべき戦術

ここからがRDTの中心命題になる。企業は周囲の様々な企業と様々なバランスの依存関係をもつ。そして、関係の中で企業は依存度の高い相手から「強い制約」を受ける。依存度がたかければ、相手の相対的なパワーが強くなる。結果、パワーの弱い企業は思うような交渉、金額設定、契約が出来ず、苦しむことになる。RDTではこれを外部抑圧と呼ぶ。 このような外部抑圧を抑制する戦術は大きく3つある。
1.外圧の軽減
外部抑圧を抑える最も単純な手段は、特定企業からの依存度を下げることだ。新たな取引先の開拓が出来れば、想定的なパワーを高めることができる。また、同様に会社の規模が大きくなれば相対的に抑圧が小さくなる。 2.抑圧の取り込み
これは依存度の高い相手企業の役員を自社の社外取締役などに迎え入れることを指す。潜在的に外部抑圧をかけうる相手企業の見方をつけ、抑圧を弱める戦術だ。日本では系列銀行や大口取引先から役員を受け入れる企業は多いが、RDT視点では外部抑圧を軽減する戦術と解釈も出来る。
3.抑圧の吸収
これは高い依存度によって外部抑圧があるなら、むしろ依存する産業にいる企業自体を買収して、パワー事吸収してしまおうという戦術である。

資源依存を脱却し、飛躍する下請け企業

日本企業の99%中小企業である。その多くは、大企業の「下請け」している。元受けー下請けの関係は、戦後キャッチアップ型で成功してきた日本経済では、それなりに機能してきた。しかし、現在は元受けが大きな環境変化に飲み込まれており、下請けはその影響を受け依存度が大きいうえに苦しむ状況になっている。しかし、そのような状況から抜け出し相対的なパワーを回復して飛躍している中小企業も出てきている。
1.由紀精密
由紀精密はそもそも公衆電話製造の下請けだった。しかし、需要を激減したことをきっかけに、航空宇宙展に出展し、それを契機に航空宇宙産業に販路を広げたのである。まさに、「抑圧の軽減」である。現在はロールスロイスやJAXAと取引実績で得た正当性で、更なる飛躍を実現している。
2.本多プラス
本多プラスは応援用メガホンをつくるなど、プラスチック成型の下請け業者だった。しかし、現状脱却するため、3代目の代表が東京の青山にデザインセンターを設立した。この戦術で一番興味深いのは取引先を購買担当からマーケティング担当に変えたことだ。これにより、契約を締結する金額が一桁変わるようになったのだ。まさに「抑圧の取り込み」である。

上記のような中小企業の躍進があ、日本経済の躍進には不可欠である。

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