高橋知秋
禍話リライト「傷を」

禍話リライト「傷を」

高橋知秋

 ”強がってる奴の方に来る”話をしますよ。

*

 九州のどこかに、バックグラウンドはよくわからないものの、見るからに「これは”隔離施設”だろう…」とわかる廃墟があるという。
 一番の特徴として、ところどころに”窓のない部屋”があるそうだ。他の場所も明らかに普通ではなく、”一定の目的”の存在を一目で感じさせるつくりをしているらしい。
 霊感の強い人がその廃屋に行くと、とにかくイヤ~な気持ちになる。歴史の教科書やドキュメンタリー番組などで映像や名称だけは見たことがある、様々な「収容施設」とはこんな場所なのかもしれない…というようなことを否応なく感じさせられ、ひたすら陰鬱な気分になる。ああ、こういうのって本当に良くないんだな…としみじみ思わされる…そんな廃屋があるのだそうだ。

 ある日。
 ヤンチャな若者たちの一団がその廃屋に肝試しにやってきた。
 オーディオを改造した車に乗って、ダンスミュージックを爆音で流しながら。

 目的地の近くに着き車を停めるや否や、グループの中にいた女の子が
「あたし、こういうの全然興味ないから車ん中でタバコ喫ってても良い?」
 と訊いてきた。まあ、ひとりふたりいなかったところで肝試しに支障が生じるわけでもない。
「そっか。興味無いなら仕方ねえか」
「ぜんぜん良いよ~。車のエンジンかけておくね」
 エンジンをかけっぱなしにした車の中に彼女をひとり待たせて、残りのメンバーで廃屋に向かった。

 しばらく歩くと、いかにも異様な建造物が見えてきた。しかし一方で、背後からは車から漏れ出るリズムの重低音がずっと聞こえている。
「あんまり雰囲気出ねえな…」
 誰かがそんなことを言う。メンバーの間に苦笑が広がる。

 ひとたび廃屋の中に入ると、ヤンチャ盛りの彼らも一発で雰囲気に圧されてしまった。
 特に噂に聞いていた、”窓のない部屋”。当然だがそこには一切光が差さず、真っ暗になっていて、明らかに異様だ。
 そうした”普通じゃない場所”があちこちにある歪んだ環境が、とても物々しい雰囲気を醸し出している。
「うわあ…すげえなこりゃ」
「こんなところに来たらさあ、病んでない人だって病んじゃうよね」
「そういえばここ、病気になった人を入れておくんじゃなくて、逆に普通の人をここに入れておかしくするって目的で使われてた、みたいな噂もあったよな…あれも本当なのかもな」
「怖いね…」
 しかしそんなシリアスな話をしている間も、廃屋の外からはリズムの重低音が聞こえてくる。
「…まあ、あれがちょっとね…」
「…なんか、興を削がれるよなあ…」
 再びメンバーの間に苦笑が広がる。

「…あらかた見て回ったしさ、そろそろ帰らない?それに…あんな爆音で音楽かけっぱなしなのも良くないし」
「そだね、戻ろ戻ろ」
「けっこう面白かったね」
 そんな会話を交わしながら廃屋を出て、リズムの重低音が聞こえる方へと戻っていく。

 さて帰ろう、と車のドアを開けた。

 興味がないから、という理由で車に一人で待っていた女の子が、備え付けの工具箱から取り出した工具の尖った部分で、自らの手首を切り付けている。
 何回も、何回も。

 大騒ぎになった。その子の彼氏が思わず大声で怒鳴りつける。
「お前何やってるんだよ!」
 彼女は真顔でこう答えた。

「ためらい傷つけてるの」

 その様子を見て、その場にいた全員が同じことを思った。
(ああ、これダメだ…)
 どうしようもないことが直感的に分かってしまったので、素直に救急車を呼ぶことにした。
 後から話を聞いても、彼女にはその時の記憶が全く無かった、という。

 この件以降、彼らは心霊スポットに一切行かなくなったそうだ。

 …ちなみに、この件で手首に結構目立つ傷跡が残ってしまった女の子はどうしたのかというと、その傷跡の上にタトゥーを入れて、これで解決、としたそうな。


◇この文章は猟奇ユニット・FEAR飯のツイキャス放送「禍話」にて語られた怪談に、筆者独自の編集や聞き取りからの解釈に基づいた補完表現、及び構成を加えて文章化したものです。
語り手:かぁなっき
出典:"震!禍話 第九夜"(https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/451244468)より
禍話 公式twitter https://twitter.com/magabanasi