禍話リライト「多重放送」
電話してきましてね、あいつが。「どぉも!Kでぇす!」って。…そんな奴じゃないんですけど。
*
こっくりさんの話を集めているKさんが収集した話。つまりはこれも、こっくりさんの話である。
…ただ、こっくりさんを”やった”話、ではない。
とある高校で起きた出来事。
その学校では暑い時期になると、昼休みに放送部が「怪談ラジオ」的な企画をやるのが、毎年の”なんとなくの習慣”になっていたそうだ。
…とはいえ、その実態は図書室にある”学校の怪談”系の本に載っているような話を、たまに多少の小芝居も交えて語るような、非常に簡素なものだった。そもそも学校の放送でやる企画なので、刺激の強い話を流せるわけもない。正直に言ってしまえば、そこまで面白いものでもなかったという。
スピーカーから、どこかで聞いたような怖い話が流れる。生徒はそれを、お弁当を食べながらなんとなく聞き流す―その程度の存在だった。
ある夏の日の昼休み、いつものように「怪談ラジオ」が始まった。
二人の放送部員が、当たり障りのない怪談を小芝居を交えながら朗読する声が流れ出す。
…だが、その日は少し違った。
放送部員たちが語る怪談の後ろからも声がするのだ。
その声はおそらく少女のもので、「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください…」と、繰り返し言っている。
皆、いま怪談を朗読している二人以外に女子部員がいて、怪談を読む後ろでこっくりさんをしている様子を演じているのだろう、と思った。既に述べてきたように、多少の小芝居―例えば怪談の中のセリフを女子部員がそれっぽく読み上げるような、ちょっとした演出が挟み込まれることはあったが、ここまでちゃんと「仕掛けて」来たことはそれまでなかったという。
「今日なんか随分と気が利いてるね」
「へぇ、なかなかやるじゃん」
生徒は皆そんなことを言いながら放送に耳を傾ける。
しかし、放送を聞いているうちに、次第にこの演出が不自然に思えてくる。というのも、放送部員が語っている怪談が「旧校舎に幽霊が出る」というようなもので、こっくりさんと全く関係がない内容なのだ。
二人の少女が夜の旧校舎に入って…というような展開の後ろで、少女の声が「こっくりさん、こっくりさん、いらしゃいましたらどうぞおいでください」などと繰り返している。それでいて怪談にはこっくりさんはいつまで経っても登場しない。
最初は褒めていた生徒たちも、
「なにこれ…全然関係ないよね?」
「いやぁ…雰囲気は良いけど、ねえ…」
なんてツッコミを入れながら聞いていたそうだ。
「お、こっくりさんがいらっしゃったみたいだぞ」
教室の中で、誰かがそんな風に言った。
よく聴くと、先程まで「どうぞおいでください」の繰り返しだった背後の声が、こっくりさんに対して何やら質問をする内容に変わっている。
「こっくりさん、こっくりさん、あなたの名前は何ですか」
時を同じくして、放送部員が語っているメインの怪談の方も見せ場に差し掛かっていた。物語の中で二人の少女が、旧校舎の壁に書かれた文字に気付き、壁に何か書いてあるよー、何かな?と言いながら、壁に書いてある文字を読み上げる。
次の瞬間、背後で少女が読み上げたこっくりさんの回答と、放送部員が語る怪談の中で読み上げられた壁の文字が、シンクロした。
あ さ だ
この展開に教室は大いに湧いた。
「うわ何これ!」
「すげえテクニックじゃん!」
「これはなかなか怖くない?」
「いやオレ結構びっくりしたわ」
…それきり一切、音が流れなくなった。
最初は演出で長めの余韻を取っているのかと思っていたという。しかし、通常ならある「いかがでしたか」というような締めの挨拶もなく、いつまで経ってもただただ無音が続く。
皆が訝しみ始めた、その時。
「うわああああああああ!」
「ぎゃああああああああ!」
ものすごい悲鳴が流れ出し、その背後では何かが倒れるような音まで聞こえ始めた。困惑しつつ、これも演出なのか…?と思いながら聴く。
「おい!お前らどうしたんだ!」
部員を案ずる誰かの怒鳴り声が入り、ぶつり、と音が切れた。
…ん?
放送室は職員室の近くにある。
つまり最後に聞こえた声は、今の悲鳴を聞いた先生たちが職員室から放送部員の様子を見に行った声だ。
そこで、あっ、これ演出じゃないんだ、と初めて理解した。
学校中がざわつき出す中、職員室や放送室から一番近い教室で昼食を食べていた生徒たちは、教室を飛び出して放送室の前へと見物に向かった。
果たして、放送部員たちは顔をぐちゃぐちゃにして大泣きしており、先生たちに必死に縋りついていた。
「知らない人たちがいた!」
放送部員は泣き叫びながらそう訴える。
そこではじめて、部員をなだめている先生たちも、野次馬の生徒たちも、その場に放送部員が二人しかいないことに気付いた。さっきまで小芝居を交えながら怪談を朗読していた、二人だけ。
「えっ、お前ら…、後ろでなんか…」
先生が若干動揺しながら放送部員に尋ねるように話しかける。放送部員はその言葉を遮るように叫んだ。
「振り返ったら後ろに全然知らない女の子が二人いた!」
一人の先生が急いで放送室を確認したが、そこにはもう誰もいなかったという。
その出来事がきっかけになり、放送部は解散してしまった。
他の生徒たちも怖がって放送室に近づきたがらないので、掃除の通知や完全下校時刻の通知などといった必要性の高い放送の類は、しばらく先生たちが交代で担当することになった。
やがて一、二年経って、そんな事件があったことを知らない新入生が放送部を発足させるまで、その学校には放送部が存在しない状態がしばらく続いたのだという。
◇この文章は猟奇ユニット・FEAR飯のツイキャス放送「禍話」にて語られた怪談に、筆者独自の編集や聞き取りからの解釈に基づいた補完表現、及び構成を加えて文章化したものです。
語り手:かぁなっき
聴き手:加藤よしき
出典:"禍話X 第六夜×忌魅恐 "(https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/653652669)より
禍話 公式twitter https://twitter.com/magabanasi
☆高橋知秋の執筆した禍話リライトの二次使用についてはこちらの記事をご参照ください。