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【研究員インタビュー】研究員就任のきっかけと、在来知研究の今後 - 高田陽さん(後編)

 福岡大学シチズンサイエンス研究センター(CSRC)には研究員制度として、シチズンサイエンス(市民科学)に関わる研究をしている学外の研究者が参画できる制度があります。今回はCSRCの研究員として、長崎県対馬の養蜂家に伝わる「在来知」をテーマに、ある知識が生産され、広がっていくプロセスはどのようなものなのかを研究している、高田陽さんにお話を伺いました。後編では当センターの研究員として、また市民大学「対馬グローカル大学」の運営としてどんな活動をしているのか語っていただきます。

記事前編


高田 陽(たかだ-よう)

  • 合同会社つくもらぼ代表社員

  • 明治大学大学院農学研究科博士後期課程修了(農学博士)

  • 福岡大学商学部シチズンサイエンス研究センター客員研究員

 博士課程在学中に島おこし協働隊の学生研究員として長崎県対馬市に移住し、対馬グローカル大学の立ち上げと運営支援に携わる。伝統的な養蜂業を対象として、在来知や地域といった視点から市民科学について研究。現在は対馬で合同会社つくもらぼを設立し、地域の自然や文化を基盤とした知識生産のエコシステムについて、研究と実践の両輪で取り組む。


CSRC研究員就任は「決意の表明」だった

 森田さん(CSRCセンター長)とは、私がバードリサーチで市民科学に関する自由集会を開催した際に初めてお会いし、Twitter(X)で市民科学について度々やり取りするようになりました。そのやり取りの中でCSRCの客員研究員制度を知り、研究員になれないか相談をさせてもらいました。

 所属先を探すにあたっては、生態学やミツバチの研究室という選択肢もあったかもしれません。それでもこのシチズンサイエンス研究センターを選んだのには、自分の中で理由があります。博士課程を修了して自分がこれからどういう研究者になっていくか考えたときに、他の学問領域ではなく「市民科学」の研究者になるのだ、という決意表明です! 在野という点では私自身も市民科学者であると言えるかもしれませんが(笑)

 当時の私は、島おこし協働隊の任期が終了した後も対馬グローカル大学の運営や講師の仕事ができるとのことで、博士課程修了後も対馬に完全に移住することに決めたところでした。
 そこで問題になるのが文献へのアクセス手段が少ないことです。対馬には大学がなく、所属大学を卒業した後は入手できる文献がどうしても限られてしまいます。センターの研究員は福岡大学図書館のアカウントを作成可能で、オンラインで論文のデータベースにもアクセスできるので、必要な文献を読むことができています。
 私のような”野良の研究者”で文献へのアクセスに困っている人は多いはずなので、この点は非常に助かっています。

研究員としての2023年度の活動

 今年度は計4回の講演活動を行いました。

  • 『対馬の伝統養蜂と子出し病』対馬グローカル大学公開講座(2023.9.10)

  • 『長崎県対馬におけるサックブルード病の侵入に伴う伝統養蜂の変容』ミツバチサミット2023(2023.11.19)

  • 『地域が学ぶ地域に学ぶー対馬市における市民大学の実践ー』新時代アジアピースアカデミー(NPA)(2023.12.12)

  • 『地域に学ぶ野良博士』大阪大学 セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2023冬)」(2023.12.19)

 11月のミツバチサミットは養蜂の有識者が集まる全国会議です。文化人類学の専門家の皆さんと一緒に、地域に伝わる伝統的な技術を紹介する例として、フィールドワークを通じて明らかになった対馬の事例をお話しました。
 12月の新時代アジアピースアカデミーでは対馬グローカル大学での取り組みについてお話しています。運営の仕事や講座を受け持つ中で考えていた、市民大学の意義や展望について、改めて自分で考える機会ともなりました。

1冊のノートからはじまる、新たな研究の展望

 先日、「対馬グローカル大学の楽しみ方」を考えるイベントの企画のため、開講当初から現在までずっと講座を受講されている方と打ち合わせをしていたときのこと。その方から突然1冊のノートを渡されました。それは、ご自身の3年間の学びや考えたことをつづった、数十ページに及ぶ研究ノートでした。

 市民大学の運営として参加者にどのくらいのレベルやコミットを求めていくかは非常に難しい問題です。私もグローカル大学の受講者に対して、研究ノートをつけろといったある意味面倒くさいことを要求してはいませんでした。サイエンスコミュニケーションのような取り組みでは、裾野を広げるという観点からライトな「やさしさ」や「ゆるさ」を強調することがあります。
 一方で、少し「ガチ」で取り組みたい人を研究の場にどのように巻き込んでいくかも、考える必要があると実感させられました。その方は我々運営が想定していた以上にレベルアップを図っておられたのです。
 がんばっている方がいると他の受講生にとっても目標ができ、市民大学の取り組み自体も盛り上がっていくはずです。受講生が目指す一つのロールモデルを示していけるような運営ができればと思います。

 またこの方が作られた研究ノートは、いわば「学習による市民研究者の変遷のデータ」です。ご本人も自分の学びの記録を整理したいとおっしゃっているので、このノートをもとにした市民研究者についての研究ができるのでは、と研究計画を立てているところです。

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