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バットマンを聴き直す(The Arms of Orion)

“The Arms of Orion”についても、個人的な感想を書きます。当時の若い私は、素直にきれいな曲だと思っておりました。最近になって聴いて、どこかディズニー映画の曲みだいたと感じました。映画館で、アラジンの“A Whole New World”を聴いているような気がしました。

プリンスのデュエット曲というと、“Take Me With U”、“Beautiful, Loved and Blessed”あたりを思い浮かべます。このあたりと比べて、“The Arms of Orion”は、直接届かず、映画館のスクリーンというフィルターが間にはさまっているように感じます。“Take Me With U”であれば、自分もバイクに乗っている気分になるのと少し違うように感じます。

“The Arms of Orion”は、コーラスを重ねるところがない、すっきりとしたシンプルな歌です。アレンジとしては正直物足りなく感じましたが、コーラス無しのプリンスの声を頭から最後までべったり追うのは、それはそれで楽しめます。

クレジットは「duet by Vicki Vale & Bruce Wayne」となっています。ヴィッキーとウェインの歌。シンプルなアレンジにしたのも、BATMANの映画に合わせたということなのでしょうか。二人がゴッサムシティの夜空を見上げて歌っているシーンなのでしょう。

作詞作曲は、プリンスとシーナ・イーストンとの共作です。ジェイク・ブラウンの『プリンス録音術』には、エンジニアのチャック・ツウィッキーが語ったレコーディングの様子が書かれています。ヴォーカルについて、プリンスはシーナにたくさん指導したようです。これだけシンプルだと、ごまかしようがないですし、ユニゾンのところも難しいのかもしれません。

2人で作詞をしているところもスタジオで目撃していたようです。

歌詞は二人が一緒に書いたんだ。プリンスは、オライオン(オリオン座)が何かを知らなかったから、シーナは星座だってことを教えながら、二本の腕をつけた星座の絵を描き、そこからふたりで歌詞を作り出していた。

ジェイク・ブラウン『プリンス録音術』

これは、いいアイディアをもらってすてきな曲に仕上がった、いいエピソードだと思います。一人で何でもできるプリンスというイメージも正しいと思いますが、周りの人からの影響をどんどん吸収する一面も、よく聞くエピソードかと思います。そして、気のせいかもしれませんが、どちらかというと女の人からの影響エピソードが多いように思います。

改めて聴くと、難易度の高い美しいデュエットなのではないかと思えてきました。

それにしても、オリオン座は冬の星座ですが、「あなたのために星々を越える」という歌詞のせいで、どうしても七夕ソングに思えてしまいます。今度、映画を観直してヴィッキーとブルースとゴッサムシティの星空のことを考えてみたいと思います。

ツウィッキーさんの回想では、BATMANの映像からインスピレーションを受けてプロデュースするプリンスについてこう書かれていました。

『Batman』のレコーディングでは、壁にヴィデオ・モニターを設置して、プリンスがスタジオの中で映画のラッシュ(注:編集が完了していないフィルム)を見れるようにしていた。……僕はプリンスの手法が誰よりも素晴らしと思った。というのも、彼は自分がつくっている音楽と一体化するって感じなんだ。

ジェイク・ブラウン『プリンス録音術』

徹底して映像のイメージを作詞作曲やプロデュースの作業に落とし込むところが、すごいと感じます。いつものプリンスの音と違って聴こえたのは当然だったのだと思いました。プリンスがそういうふうに作ったのですから。


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