《今週のプリンス読書会 #80》1984 Week 29: Nothing Compares 2 U
Duane Tudahl さんの本(『PRINCE AND THE PURPLE RAIN ERA STUDIO SESSIONS: 1983 AND 1984』)を1週間分ずつ読む《今週のプリンス (What Did Prince Do This Week?) 読書会》で聞いたことのメモと感想です。
2024/7/21 配信分。読書範囲は、SATURDAY, JULY 14, 1984〜THURSDAY, JULY 19, 1984
https://www.youtube.com/live/Du4kCfL6cq8?si=Exmy4AW3ua-Kpytd
本書によると、Purple Rain の映画が公開され、ツアーの準備が進められていく段階で The Time が崩壊したため、新しいバンド Mazaratti と The Family を作る決断がされたのが6月初旬。6月27日には、The Family の“Mutiny”、“High Fashion”、“Ecstacy”(後に“Desire”になる)のベーシックトラッキングが行われました。読書会では2024/6/30 配信のWeek 26(#77)のときでした。
“Nothing Compares 2 U”のレコーディング
今週の読書範囲の1984年7月15日に、“Nothihng Compares 2 U”のベーシックトラッキングがありました。読書会プレイリストにはいろんなバージョンがあげられています。
各バージョンを聴きたおしているプリンスファンも多くいらっしゃると思われますが、私が主に聴いていたのは『The Hits / The B-Sides』バージョンだけでした。今回やっと The Family バージョンからじっくり聴きなおしました。シネイド・オコナーも含めた他のミュージシャンのカバーまでは手が回らず、The FamilyとfDeluxe、プリンスを中心に聴きなおしました。
各バージョンの関係を知るには、KIDさんの『プリンス オフィシャルディスク・コンプリートガイド』の263ページがとても分かりやすく、オリジナル(『The Family』)、セルフカバー(『The Hits / The B-Sides』)、ガイド(『Originals』)の関係が整理できました。
ガイド・ヴォーカル
The Family の曲を作ったプリンスは、自分のガイド・ヴォーカルまで録音すると、カセットテープに落として、練習しておいてね、ポール・ピーターソンを含め、メンバーに渡します(送りつけたりします)。
プリンスが曲を作って録音をするときはたいてい、ドラム(ドラムマシン)、ベースやギター、キーボード、その他の楽器の順番で録り、そのあとでヴォーカル録りをしています。ヴォーカルは、スタジオのコンソールの上にマイクをぶら下げてたった一人で録音するというスタイルです。その後、さらに、バッキングヴォーカルや、その他楽器のオーヴァーダビングがあり、The Family の曲ではエリック・リーズのサックスのオーヴァーダビング、そして、クレア・フィッシャーのオーケストレーションが加えられていきます。Tudahlさんの本を読んでいると、資料からある程度その工程が読みとける曲もあるようですが、“Nothing Compares 2 U”では、カセットのつくられたときに、どこまで録音がされていて、カセットにどのトラックが入っていたのかは読み取れませんでした。つまり『Originals』収録の2つのバージョンに入っている各トラックのうち、ポールに送られたカセットにどれが入っていたのか分かりません。The Familyのアルバムに近いものなのか、ファースト・アヴェニューのライブに近いものなのか分かりませんが、少なくともプリンスのガイド・ヴォーカルは『Originals』で聴けるヴォーカルとなるはずです。
ポールがこれを聴いて練習をして、ヴォーカル録りをしなければならないのですが、その練習や録音にプリンスは付き合いません。超忙しいので仕方ないのですが、The Family のアルバム制作でポールのヴォーカル録りを任されたのがデヴィッド・Zです。その時のことが1984年7月2日の章に書かれています。
このあと、初日のヴォーカル録りは12時間かかって数行分しか進まず、ポールはヘロヘロになっていたと書かれていました。
これに注目してアルバム『The Family』と『Originals』の“Nothing Compares 2 U”やその他出回っている他の曲のプリンスによるガイド・ヴォーカルを聴き比べると、ポールがしっかりとプリンスの歌い方を再現している(させられている)ことがよくわかります。
オー オーオー……
OneHさんのブログには“Nothing Compares 2 U”について深い考察がたくさん書かれています。その中の細かい1点なのですが、The Familyの“Nothing Compares 2 U”について興味深い記載がありました。
この続きはOneHさんのブログでお読みいただきたいです(すでに読んだ方も多いでしょう)。
「哀しみ」がテーマの曲に、この「オー オーオー」のフレーズが入る破壊力は、まったく意味はわかりませんが、すごいと私も感じました。
別のところで、このフレーズが「歓喜の歌」っぽいという感想を聞いたことがあるのですが、そう言われると近いかもしれません。ベートーヴェンに通じる力強いフレーズが入るうえに、長調の曲なのに、どうしてこう「哀しみ」を感じるのでしょうか(長調の哀しい曲は他にもたくさんありますかね……)。
「オー」のフレーズは、プリンスのセルフ・カバーでは楽器で演奏されています。もしかするとライブで歌ったことはあるのかもしれませんが、基本、プリンスは「オー」とは歌いません。ガイド・ヴォーカルでも、バッキング・ヴォーカルが歌っています。
ちなみに、私が思う、プリンスが高らかに歌う「オー」は、マペット放送局の“Starfish and Coffee”ですが、これもどちらかといえばコーラス。ポールの歌い方のようなもののは、あまり思い浮かびません。
https://youtu.be/t_Xq-mUlq5o?si=lu46wSZuWpRx3X4Q&t=802
アルバム『The Family』の中で、ポールが「オー」と歌うところは非常に多く、聴かせどころになっていると感じます。“High Fasion”や“The Screams of Passion”にもあります。個人的には、とてもポールの声にあっていると思いました。私が聴いたこの2曲のプリンスのガイド・ヴォーカルでは、「オー」の部分は歌われていなかったので、プリンスはガイドなしで指示してポールに歌わせたのかもしれません。
(プリンスと The Revolution のリハーサル音源の中では「オー」と歌っているのがありました)
The Family の“Nothing Compares 2 U”は、サビの「ナーシング」の「ナー」が2回とも長く、ポールの伸びのある声が生かされています。ガイド・ヴォーカルもそのように歌われます。プリンスのセルフ・カバー版では、1回目しか長くありません。
ポールのヴォーカルを聴いていると、本当に明るく伸びやかかで輝いているように感じます。このとき19歳ですし、眩いばかりの初々しさを感じます。ガイド・ヴォーカルのとおりに歌わせたときの輝きをプリンスは完全にイメージしてたのでしょうか。デヴィッド・Z は、誰かを真似て歌うのはとても難しいと言っていました。アルバムは、多少はかたさがあるかもしれません。でも、ガイド・ヴォーカルを完全にコピーしなければならないという課題をクリアしたうえで、この気持ち良いヴォーカルです。素質、忍耐力、努力が揃ったからこそ、この結果が出たはずです。(“Feline”を歌わされたりして、ちょっと色気も習得したのかなとも妄想しています。)1985年8月のファースト・アヴェニューでのライブも、また最高の歌声だと感じます。
アルバム『セント・ポール』をまだ聴いていない段階ですが、『The Family』を聴いた段階でも、ひろあつさんの言うとおりだと実感できました。
“Nothing Compares 2 U”のインスピレーション
Tudahlさんの本にも、これまで知られている、いくつかのインスピレーションが書かれていました。
読書会で話題になりましたが、現実の何かからインスピレーションを得ていても、それがそのまま詩になるわけではなく、現実をもとにアートとしてふくらませたり練ったりして詩として制作していくわけで、歌われていることがすべてが現実どおりではないという意見があり、とても納得しています。
歌詞では、枕やシーツなどベッドのアイテムが出てこないせいか、プリンス風の粘着性がなく、ポール用にさらりと作ったのか、という可能性も考えてしまいます。どういう意図かわかりませんが、そのおかげもあり数多のカバーで多様な表現を受け入れる懐の深い曲になったのかもです。知らんけど、な感想です。
個人的には、“But Eye'm willing to give it another try”(でも、やり直したいと思っているんだ)という歌詞にどこか、“Mutiny”で歌った、去って行ったメンバーをディスった気持ちの、その裏側にある気持ちがあるように聴こえてしまいます。“Mutiny”と対になるかどうかはともかく、何を今更とつっこまれるようなことを、美しい曲でエモーショナルに歌っているところがすごいと思います。
Originals
読書会で読んでから、『The Family』 を聴いて、“Nothing Compares 2 U”を自分なりに整理できました。いろいろと重要なアルバムらしいことがよく分かりました。もちろん、大好きになりました。
プリンスが再結成されたバンドに The Family の名前を使わせなかったのは、このときの作品はやはり特別だという思いがあったのでしょうか。自分がコントロールしてこその The Family。逆に、去って行ったポールに対して、もうガイド・ヴォーカルに従わずに自分の歌い方をしていいよ、という気持ちを少し含めていたのか、いろいろ妄想してしまいます。
聴き直しをしたあとで聴く『Originals』の2つのバージョン。読書会プレイリストに入っていた Prince's Friend さんの動画で Cinematic Mix が素晴らしいという感想を聞いて、ふと思いました。『Originals』のガイド・ヴォーカルのトラックのほとんどは、少しデモっぽいところを感じる音なのですが、“ Nothing Compares 2 U”の2つのトラックは、完成作品的な音としてきれいに(マスタリング? ミックス?)されたもののように感じます。Prince's Friend さんがこの曲のミックスのクレジットが、他の曲と違うと言っていたのと関係しそうです。どちらが良いとか悪いということではありませんが、ずるい音です。どうしたって泣いてしまう音です。ガイド・ヴォーカルが入れられたカセットではこういう音はしなかったかもしれないので、当時のポールよりもずいぶん良い音を聴けているのでしょう。
OneHさんのブログでも紹介されていた2016年の fDeluxe による“Nothing Compares 2 U”は、ポールがThe Family の“Nothing Compares 2 U”を完全に再現していて、これは聴くと危険です。この時のポールは、まさにプリンスのガイドを聴きながら歌っているようにしか見えませんでした。一晩は泣いてしまいます。
番外編
タイムリー(というには1カ月近く前のもの)にKIDさんの投稿を見て、大胆なカバーを聴くことができました。これはこれで、わりと好きです。
♪オーオオ♪のコーラスが♪アーアア♪で入っていらところがあった😄
読書会の動画(1984 Week 29)
https://www.youtube.com/live/Du4kCfL6cq8?si=Exmy4AW3ua-Kpytd
読書会プレイリスト(1984 Week 29)
https://youtube.com/playlist?list=PL6YE_-qkWwSnrMMhOuQuyRPHvfgvg1fDX&si=8h5kJyUn3dmQKovD
読書会のサイト
https://www.polishedsolid.com/what-did-prince-do-this-week/
https://bookclub.polishedsolid.com/
Duane Tudahlさんのサイト
https://www.duanetudahl.com/welcome
https://www.duanetudahl.com/prince-book
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