番外編 成田の入国審査で思ったこと

番外編
この件は、書くべきかどうか迷ったのだが、記録のためにも残しておこうと思う。

3月にUSへ行った。行きは良い良い帰りはこわい、であった。入国に関する検査の話である。USへ行くときは、確かに前の日にPCR検査を受けなくてはならないという規定はあったが、それはPDFで送られたものをVeryFlyに送るだけだったので、それほど面倒ではなかった。JALの窓口でそれを見せるだけで、何の問題もなく搭乗できた。USへの入国は、さらに拍子抜けするくらい簡単だった。日本からの入国者が少ないせいもあるのだろうが、これまで長時間かかった入国審査は、ほとんど待たないであっという間に終わった。PCRの結果なんか全く気にしていない。こんなに簡単でいいのか?!と思うくらいだった。

だから日本に到着したときも、簡単だろうと思い込んでいた。72時間前のPCR検査も受けているし、MySOSアプリでもFastPassの登録が済んでいるので、ま、かかっても1~2時間だろうと思っていた。それが甘かった。成田での検疫は、おそろしく時間がかかったし、とにかく歩かされたのだ。到着してから抗原検査を受けて入国するまで、いつもの数倍、4時間以上かかった。また、この日の歩数計は8409歩を示していた。電車に乗ってからは駅から家までタクシーに乗ったので、大半は成田空港内での移動分である。この、行きと帰りの違いはどこから来るのか?なぜもっとシステマチックに処理を進められないのか?この二年間で、プロセスの改善は行われたのか?これは、日本のDXが、少なくとも入国の検疫に関しては、残念ながらアナログの極みであることの記録である。

帰国時に無事解放されるまで、あちこちに関所があった。まず、JALの飛行機からなかなか降ろしてもらえない。検疫からまだ許可がでないというのだ。17時に着いたのだが、機外に出たのは17時半だった。そこからとにかく歩く!最初の待機場所へ案内される。そこで20分ほど待つ。また移動し、次の待機場所へ案内される。そこは、横に長いエリアで、到着済みの客でごった返している。すでに18時だ。パイプ椅子は硬く、だんだん腰が痛くなってくる。かなり密だ。ここでようやく、トイレには行って良いと指示される。今からどれくらい待つことになるのかわからないので、とても不安だ。どんどん到着便が案内され、待機場所には人があふれてくる。密だ。検査の前に30分間は飲食禁止となっているので、水も飲めない。どれだけ待てばいいのかわからないので、30分前、という見積もりができないのだ。みんなじっと待っている。障害のある人も、高齢者も。あちこちで、赤ちゃんや小さい子供たちがぐずってわんわん泣いている。無理もない。ミルクもあげられない状況なのだもの。お父さんとお母さんが必死であやしている。11時間も飛行機に乗ってきて、みんな疲れているだろうなあ。可哀想だと思うのだが、どうしようもない。

現場にいた女性スタッフは、9時間後かかった時期もあります、2~3時間ならまだいいほうですよと、へんな慰め方をしていた。MySOSの緑の画面を出してくださいね、と何度も言われる。これ、FastPassではないのかなあ。周囲には紙で準備している人も多い。デジタルはここでは機能していないらしい。そもそも、米国で受けたPCR検査の結果も、QRコードから送ったらNGだったので、写真を撮って送ったらOKだった。うーむ、これは目視で確認しているということか?だとすると、このデータ、疫学調査にも使えないんじゃないのか?次第に不安が募ってくる。
じりじりしながら待って、ようやく一時間経ったころ、19時すぎにやっと自分たちのJAL便のグループの番と言われ、検疫の場所へ移動する。またここでも10分以上待った。やっと検疫ブースへ進む!検疫担当官は8人ほどだ。MySOSのアプリで3回接種や陰性証明が取れている緑の画面を見せると、茶色の紙に、滞在地やフライトNOなどを確認し、手書きしてくれる!紙だ!それに押印するんだ!え、3705番という手書き?これ今朝からの入国人数?これを8人程度で処理しているのか?

手書きの紙 
検疫では手書きの紙をくれてそれを使いまわす

この紙とパスポートを持って次の部屋へ進む。そこでもその「紙」を確認されて、またハンコを押してくれる。一度だけ画面のQRコードを読んだ。その次に、やっと抗原検査のキットが渡される。この検査ブースも10個ほどしかない。これでは何百人、何千人という乗降客に対応するというのは不可能だと、どんな素人でもわかる。キャパシティプランニングや動線管理を、この二年間で、見直してはいないのだろうか?
それが終わると、今度は歩いて別の階へ行くことを指示される。階段だ。ベビーカーや車いすユーザーにはアクセシブルなルートが提示されるのだろうか?空港内をかなり歩いて、更に歩いて、そこでアプリの画面を見せて、ようやく「待機場所の指定番号」の紙を渡される。その指定場所までまた歩き、座った場所で、ようやく水を飲んで良いと言われる。そこには飲み物の自販機があり、みんな競って飲料を買っている。この時点で19時22分。本当はPCを使いたいのだが、もう電気がない。当然充電する場所もない。携帯はアプリチェック用に必要なので使うのは不安だ。やることがない。またじ~~~~~っと待つ。何か本を持って来ればよかったな。

だんだんお腹が空いてくる。私はサバイバルキャンプよろしく、手荷物の中に小さなお菓子と水のボトル(飛行機内でもらったもの)を準備しておいたので、なんとか気分的にはしのげたが、周囲はかなり疲れてとげとげしい雰囲気になっている。終わった人は番号を呼ばれるのだが、まだ200人以上先だ!一時間は最低かかるかなあ。。子どもたちがあちこちでギャン泣きしている。お腹空いたんだろうなあ。。。でもここでじっと待つ!ずっと待つ!何もできない。どこかに携帯の充電ができるところはないかと思って探したが、ない。まるで以前にやった剥奪研究だな。。。(携帯を学生から取り上げて、何が起きるかを確認する研究)

1時間以上経ってやっと番号が呼ばれ、めでたく陰性が確認された。ようやく荷物を受け取れる!入国審査や税関はいつも通り簡単だった。外に出たのが21時。21時すぎの京成のスカイライナーに乗って、ようやく一息ついた。入国手続きまで、4時間以上かかったことになる。いつもの4倍だ。
それにしてもアナログな審査だった。ま、mySOSは機能していてよかったけど、その登録も「書類を写真で撮って送る」がデフォルトだったし(データは使ってないということだ)、審査は紙にペンで担当者が書きこんだ用紙をずっと持ち歩いた。QRコードを読んだのは一度だけだった(やっぱりデータとしては使ってないんだ。。)。呼び出しは音声のみ(聴覚障害者はどうするんだろう?)などなど、なんだか、本当にアナログだなあと思える仕組みなのである(システムとは呼びたくない)。歩く距離も半端ない!移動困難者には辛いかも。。。椅子も硬いパイプ椅子なので、つらい。隣の人は途中でストレッチを始めていた。(私も翌朝から腰痛が出て、病院へ行って筋膜リリースをするなど、余計な費用がいろいろかかった。)

椅子がたくさん並んでいる
奥が見えないくらい遠くまで並んでいるパイプ椅子。こんな場所をあちこち、えんえんと歩いた。

駅からタクシーで家に着いたのは23時15分。いやはや、長かったなあ。この作業をずっとやっている検疫のみなさんは、ご苦労だと思う。しかし、米国入国のあの簡単さとの違いは何なのだろう?どちらも直前に高額の!PCR検査を受けて陰性証明を持っている。だのに日本の空港でもう一度全員抗原検査を受けさせるというのは、出発国の医学を信用していないということなのだろう。空港や飛行機の中で感染したのなら、まだ陽性反応は出ないだろう。だとしたら、いったい何のための検疫なのだろうか?どこの国から、どのような検査を受けてきたか、などにより、FastPassをきちんと機能させることが重要ではないのか?
入国者全員に検査を受けさせる、ということが、本当に必要なのだろうか?使っている膨大なコスト(税金である!)、待たされる人々の時間の総体、時間が遅れたことから追加でかかる交通費の総額、などを考えると、やはり非常にもったいない気がする。
MySOSで緑になっている人(3回接種済み、直前検査陰性)は、追加の検査なしでそのまま帰宅させてもいいのではないのか?申請も目視でなくきちんとデジタル化し、正式なデータを持っている人はFastPassで先に行かせるなど、効率的に進めるべきでは?そもそも、このデータを、きちんとデータとして利用し、疫学的に活用することが重要なのでは?など、いろいろなことを考えた。日本の保健所の対応が、FAXと電話中心だったことを思い出す。日本は、デジタルで作業を効率化するとか、データを集めてきちんと分析するといった、基本的なことが進んでいない国なのだ。国内で毎日4万人もの感染者が出ているのに、50人ほどの検疫での感染者を見つけるために、膨大な量の税金とワークロードを消費することの費用対効果はどう考えるべきだろうか。水際対策の有効性や、日本のDXの遅れを、しみじみ考える機会であった。

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