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CSUN 追記 情報キオスクのユニバーサルデザイン


情報キオスクについて、CSUN後に少し調べた点もあるため、追記する。世界のアクセシビリティ研究は、この分野に注目している。今後の展開が待たれる。

電子的な画面を用いて、オーダーや決済、サービスを購入する機器は、アメリカでは情報キオスク(Information Kiosk)と呼ばれる。ATMを始め、券売機、自動販売機、空港のチェックイン機、店舗やコンビニの精算機、ファストフード店やドラッグストアの注文用端末も、すべて情報キオスクである。そして、それは公共インフラの一つとして、障害者や高齢者にアクセシブルであることが義務化されている。現在、欧米においては、「デジタルアクセシビリティ」という言葉が急速に普及している。およそデジタルで作られるものは、アクセシブルであることが必須である。PC、モバイル機器、情報端末、Webサービス、テレビ番組、映画、書籍など、デジタルで生まれるものは全てアクセシブルにする必要がある。またパブリックなサービスのUDは、民間・公共問わずADA(障害を持つアメリカ人法)で義務化され、情報アクセスに関してはリハビリテーション法508条で公共調達はUDのみに規定されている。ともに違反した場合は提訴され改修命令が出されるが、多くの企業は、訴訟されることを怖れるからではなく、自分たちの提供する製品やサービスが社会のインクルージョンを進めるために必要であるという認識から情報のUDを進めている。
2022年の第38回CSUNカンファレンス(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校:障害者支援技術カンファレンス)では、この情報キオスクに関するセッションが、二年前とは違い、かなり目立っていた。大きなドラッグストアチェーン店であるCVSストアでは、コロナ禍において対面を避け、Webで情報を得たい人や店頭の情報端末で医薬品の相談をしたい人が急増し、高齢者や障害者へのアクセシビリティ配慮が喫緊の課題となった。ファストフードのマクドナルドでも、家からのネットオーダーによる配達や、店舗におけるドライブスルーや店頭端末でのオーダーが増加したのである。

マクドナルドのオーダー端末の画面と説明者
写真1 マクドナルドがJAWSなどと共同開発したキオスクは音声読み上げが可能。
説明者はマクドナルドのデジタルアクセシビリティマネジャー

これらのケースでは、PCで使う際のWeb画面を、WCAG(Web Contents Accessibility Guideline) 2.1に沿ったアクセシブルなhtmlで作成し、モバイル端末でも店頭のタッチパネルでも、全て音声読上げソフトのJAWS等で読めるように設計する方法を提示していた。レスポンシブウェブで作っておけば、家のPC、モバイル、かつ店頭でも、基本的に同じ見え方動き方(Look&Feel)を踏襲できる可能性が高い。そのマシンに、海外の情報キオスクでは標準となっているイヤホンジャックを差し込めば、画面の内容を音声で聞くことができる。また今回紹介された触覚と音声フィードバックで画面を操作する機器(UKで開発されたStorm Interface)などの設置や接続が標準になれば、公共セルフ端末における多様なユーザーのアクセシビリティを確保できるのである。
なお、この記事のトップページの写真は、全盲者が音声を聞きながらセルフ端末でオーダーをかけているところである。残念ながらまだ日本のマクドナルドではこのような機能はついていないようだ。

視覚障害者入力の機器の写真
写真2 触覚と音声フィードバックで画面操作を可能にするStorm Interfaceのデバイス。
今後のキオスクはこのような支援機器を標準装備する可能性がある

ATMも、このデジタル・アクセシビリティの最先端にある。公共端末としてUDは必須であり、アクセシビリティ、ユーザビリティ、セキュリティは重要である。主にハードウェアに関する物理的なアクセシビリティを始め、音声機能など守るべき基準はADAでも2010年には明確に決まっており、2012年の3月までに準拠しないと55000ドルの罰金を支払うべしという厳しさであった。現在、ほぼ全ての銀行がこの基準に合致していると言われている。

ADAの中で物理的な基準を定めた部分
図:車いすユーザーがアクセスできるための、ATMの高さや幅を図示したもの

これらの基準を受けて、現在US国内におけるATMには、正面にヘッドフォンジャックのためのソケットが準備されている。その横には点字があり、触って位置がわかるようになっている。この方式は日本のATMについているような音声イヤホンを共同では使わないので、コロナ対策としても安全であるとして歓迎されている。

ATMの写真 中央にヘッドフォンジャック
写真3 ホテルロビーにあったATM。
ヘッドフォンなどの端子をつけて、音声で使えることがADAで義務付けられている。
ヘッドフォン接続部分拡大写真
写真4:ATM中央の案内。
 文字と点字で「スピーチモードにするにはヘッドフォンをここに入れて」と書いてある。

今後のキオスクは、セルフサービスチェックイン機やATMなどの高度化、そして社会の高齢化に伴い、さらなるUDが求められていく。常に情報のユニバーサルデザインの最先端を走ってきたいくつかの研究所でも、情報キオスクのUDに関し、さまざまな提言を行っている。例えば、90年代にIBMやMS、Appleなどと共に、キーボードのみでPCを使えるアクセスキーの標準化を行ったのを始め、この30年間、Webアクセシビリティ、モバイルやIOTのUDなど、あらゆるアクセシビリティに尽力してきたTrace CenterのGregg Vanderheidenのチームは、いま、情報キオスクのハード、ソフトの標準化を進めているようである。その研究の中で、今後のATMに関し、次のような事項を考慮すべきと示している。これらの事項は、今後のATMには特に重要な観点であると思われる。

  • タスクを完了する時間

    • キオスクは通常、時間の厳しい状況で使用されます。ユーザーがとても急いでいたり、後ろに使用を待っている人が長蛇の列を作っている場合があります。

  • 入力と出力の柔軟性

    • キオスクは、さまざまなタイプや重度の障害を持つ人々を含む、最も幅広いユーザーが使用できる必要があります。これらのユーザーには、視覚障害または弱視、聴覚障害または難聴の人、または手の稼働域や発話に制限があるなどの運動障害がある人、さらに車椅子のユーザーが含まれる場合があります。彼らはまた、認知障害、言語障害、および学習障害がある可能性があります。さらに、キオスクは、これらの重複障害を持つ人々が使用できる必要があります。

  • 騒がしい環境であることが多い

    • 音声機能には、音量調整と、パーソナルなヘッドホンまたは聞こえを補助するリスニングデバイスを使用する機能が含まれている必要があります。

  • 学習しやすく明確であること 

    • キオスクは通常、各ユーザーが頻繁に使用することはありません。たとえば、毎週複数の荷物を郵送するビジネスを運営していない限り、ほとんどの郵便顧客はたまにしか郵便キオスクを使用しません。多くの飛行機の乗客は、よほど頻繁に乗る人でない限り、空港のキオスクを定期的に使用することはありません。投票機は最も厳しいものとなるかもしれません。特別選挙、不信任決議、または特殊な状況を除けば、指定された以上の投票は法的に禁止されています。多くの国では、これはおそらく一次選挙と総選挙の両方で1回だけ投票することを意味します。したがって、多くても年に2回、多くの国では隔年で、投票キオスクを使用することになります。

  • プライバシー

    • プライバシーは大きな懸念事項です。他の人々がキオスクのそばを歩いている可能性があり、十分な保護がない限り、これらの人々は個人データを見たり、傍受したりする可能性があります。見えない人がキオスクを使用する際、画面上の情報を誰かが触っていることに気付かない可能性があります。

 (訳責:株式会社ユーディット)

また、さきほどマクドナルドのUDで紹介された点字の入出力端末は、英国盲人協会がStorm Interface社と開発したものであるが、これをUSのVespro社と、これまでWebやモバイルのアクセシビリティを推進してきたTPG社が共同で開発したものである。
デジタルアクセシビリティの大きな流れの中で、この分野が今後、重要なジャンルになっていくことが予想される。WCAGの動きと共に、海外の動向を日本企業もきちんと把握しておくことが必要である。

参考URL
37th CSUN Assistive Technology Conference
https://www.csun.edu/cod/conference/sessions/2022/index.php/

ATMに関するADAの規則解説の例(2012年版)
https://www.bclplaw.com/en-US/insights/reduce-potential-ada-liability-by-making-atms-and-websites.html

Trace Center が提唱しているATMのアクセシビリティの懸案事項
https://interactions.acm.org/archive/view/july-august-2019/toward-unified-guidelines-for-kiosk-accessibility

Storm InterfaceやTPGがMacdonaldと出したプレスリリース
https://www.storm-interface.com/news/post/storm-interface-working-with-mcdonald-s-to-deliver-more-accessible-customer-experience

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