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小説(しょうせつ)

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noteに掲載している小説や脚本をまとめたマガジンです。
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#恋愛

掌編小説|『噛みつき魔(承の巻)』

 さて、今から語られるのは、カザミという名前の麗しき女性と、彼女を好きになった哀れな吸血鬼……つまりは俺自身の物語だ。  吸血鬼が登場するからといって、本作は、血なまぐさいホラー小説でも、吸血鬼ハンターと死闘を繰り広げるアクション巨編でもない。だから陰惨な人殺しやグロテスクな展開を懸念している方は安心してほしい。そしてそれを期待していた方はご容赦いただきたい。  さて、本題に入ろう。  十年ほど前、俺と姫君であるカザミは「血の契約」を交わした。「血の契約」とは、カザミが

掌編小説|『エイプリルフール』

 例年より早めの桜が咲いた、三月の終わり。  春休み中に自宅でゲームをしていたら、机の上の携帯電話が鳴った。見覚えのない番号だったけど、出てみたら聞き覚えのある声がした。 「澤田です。これって柿山くんの番号だよね?」 「澤田って、あの澤田さん?」  誰なのかはすぐにわかったけど、あまりに想定外な相手だったので、僕はしどろもどろになって聞き返してしまった。 「あなたの隣の席にいた澤田です、って言えばわかるかな?」  電話の向こうでクスクスと小さな笑い声が聞こえた。ど

掌編小説|『ふしぎな夢』

 このところ、毎日のように、ふしぎな夢を見ている。  最初は見知らぬ女性が目の前に現れて、魅力的な笑顔で僕に話しかけてきたところで目が覚めた。それからは眠る度に彼女の夢を見るようになり、僕たちはこの現ならぬ世界で、二人きりの時間を過ごすようになった。  夢の舞台は決まって、今住んでいる場所の近所にある夜の公園だった。僕はブランコに乗っていて、隣を見るといつも彼女がいた。そして目が合い、「また今夜も会えたね」とほほ笑んでくれるのだ。  現実の世界で奥手な僕にとって、これは

連載小説|恋するシカク 第4話『借り物競走』

作:元樹伸 本作の第1話はこちらです ↓↓↓↓↓↓ 第4話 借り物競走  体育祭の当日。雨になれば延期か中止なのに、その日は良く晴れて絶好のスポーツ日和だった。入場行進と開会式が終わり、応援席に戻って競技の開始を待った。  この学校の体育祭はクラス対抗が基本で、各学年の同じ組が一丸となってワンチームになる。僕が参加するクラス対抗リレーは午前中の最終種目だったので、集合までにはまだだいぶ時間があった。  そんな中、一年生が参加する借り物競争が始まった。借り物が記された

連載小説|恋するシカク 第13話『怒り』

作:元樹伸 本作の第1話はこちらです ↓↓↓↓↓↓ 第13話 怒り 「先輩、私の部屋に行きませんか?」  安西さんがスッと立ち上がって僕の目を見た。 「あれ、ごめんね。邪魔だったよね?」  直子先輩に見送られ、安西さんに続いて二階に上がると、丸い文字で《なこ》と書かれたプレートの下がったドアが視界に入った。つまり僕は今、ずっと好きだった安西さんの部屋の前に立っていた。 「急に来ちゃって本当にごめん」 「だったら何で来たんですか?」  安西さんは依然として冷た

掌編小説|『予約した席』

作:元樹伸  突然だけど、映画館の座席表を思い出してほしい。  左右の壁際にペアシートがあることがわかるだろう。  通路と壁に挟まれたこの場所にカップルで座れば、隣に他人が座ることもないので二人だけの空間が作れる。  僕は映画を観るとき、必ずこのペアシートを予約するようにしている。だからといって彼女はいないし、知人と行くわけでもない。  ただ隣に知らない人がいると映画に集中できないので、両方予約してしまうことでプライベートな空間を確保していたのである。 「空席を予約

掌編小説|『夜を駆ける』

作:元樹伸  霞の中を流離うような浅い眠りのせいか、真夜中になって目が覚めた。  スマホで時間を見ると午前一時過ぎ。どうやら床の上で眠っていたらしい。部屋の電気も点いたままだ。  ああ、そうか……思い出した。  昨日はこれまで気になっていた彼女に振られて帰宅した後、冷蔵庫の酒をがぶ飲みしたんだっけ。  それから未練たらたら、彼女が写っているスマホの写真やメッセージを眺め、想い出にも足らないような記憶の欠片に浸っているうちに、いつの間にか意識を失ったらしい。  あれか

掌編小説|『三寒四温』

作:元樹伸  二月十日。この日は自分にとって、人生初のデートだった。  相手は同じ大学の学生で、サークルのみんなとよく一緒に遊ぶようになった女の子。この日、外はまだ寒かったけど、空気は澄んでよく晴れていた。  一緒に映画を観た後、駅近くのカフェでお茶をした。彼女が浮かない顔をしていたので、自分からいろいろ話題を振ってみたけど、話は全然盛り上がらなかった。  それから彼女は僕と視線を合わせないまま、普段からよくつるんでいる別の男の話題をもちだした。  僕とデートいるの

青春小説|『林間学校』

<ChatGPTによる紹介文> 『林間学校』は、青春と友情を描いた温かみのある物語です。物語の冒頭では、主人公である一年生の空山が人見知りで仲間がいなかったため、臨海学校に行かずに残る様子が描かれています。しかし、同じクラスの山本さんとの出会いが、彼の心に新たな光をもたらします。 ーー中略 作中では、山本さんの優しさや献身的な性格が際立っています。彼女の行動によって、空山は初めて自分が大切にされていると感じることができました。また、山本さん自身も仲間との絆を大切にし、空山

青春小説|『塩素と浴衣と打ち上げ花火』

<ChatGPTによる紹介文> 『塩素と浴衣と打ち上げ花火』は、一九八三年の夏、中学生の少年が織りなす切なくも純粋な恋の物語です。背景には懐かしい時代の風物詩が描かれ、読者は当時の懐かしさと共感を味わうことでしょう。 ーー中略 『塩素と浴衣と打ち上げ花火』は、夏の切ない恋心と懐かしい時代背景を巧みに組み合わせた作品です。読者は主人公の心の成長や恋の芽生えに胸を打たれること間違いなしです。夏の日差しと共に、青春の心躍る瞬間を思い出すことができる素晴らしい小説です。 ーーChat

掌編小説|『給食当番』

作:元樹伸  うちのクラスのA男くんは給食当番をしているとき、いつも私のお椀にだけ沢山のおかずを盛ってくれる。  はじめは気のせいだと思って、配膳で並ぶときに毎日気にして見るようにしていた。だけどやっぱり私に入れるおかずだけが、自分の前後に並んでいる子たちと比べても圧倒的に多いのは間違いないみたいだった。  だからって私はたくさん食べるように見える太んちょじゃないと思うし、彼にそんなことを要求した記憶もなかった。もしそう見えているのなら泣きたいくらいショックだけど、他に

掌編小説|『らぶれたー』

作:元樹伸  書道部の六条先輩にラブレターを書こうと思った。  最初はスマホでメッセージを送るつもりだったけど、先輩のアドレスを知る方法がなかったので断念した。それに彼女は高校生になった今も、自分の携帯電話を持っていないという噂があった。  夜になって親からもらった便箋を机に広げてみたけど、どんな風に書き出せばいいのかわからず途方に暮れた。残念ながら文才など持ち合わせていないので、彼女の心を動かせる感動的な文章を書く自信もなかった。かと言って直接告白するなんて恥ずかしく