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暗号資産のマイニングに係る所得が、所得税法上の事業所得ではなく、雑所得とされた事例(国税不服審判所令和4年1月7日裁決)

令和5年度税制改正大綱に、次のような記載がありました。

中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(中小企業経営強化税制)について、関係法令の改正を前提に特定経営力向上設備等の対象からコインランドリー業又は暗号資産マイニング業(主要な事業であるものを除く。)の用に供する資産でその管理のおおむね全部を他の者に委託するものを除外した上、その適用期限を2年延長する(所得税についても同様とする。)。

大綱63~64頁

これは、マイニングママシーンへの投資を利用した節税策を封じるための措置なのでしょうか。
参考として、マイニング業に係る所得の事業所得該当性が争われた国税不服審判所令和4年1月7日裁決があります。

この事案の裁決文を柳谷憲司税理士がアップしてくれています。
以下のリンクからご覧ください。


この記事では、この上記裁決の概要を簡単にご紹介します。


1 事案の概要

  • 投資コンサルタント会社の役員である請求人(納税者)が、個人として行っているアフィリエイト、リース、レンタル及びマイニングに係る各所得を事業所得として確定申告をした。

  • 請求人は、原処分庁(課税庁)の調査を受け、その結果について、リース、レンタル及びマイニングに係る各所得については雑所得となる旨の説明を受けた。

  • その直後に、請求人は修正申告を行った。その内容は、上記原処分庁の説明の内容と異なり、アフィリエイトに係る所得のみを雑所得とし、アフィリエイトに係る接待交際費の一部を必要経費不算入とするものであった。

  • これに対して、原処分庁は、①当該調査結果の説明の内容に基づき更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行い、②請求人が修正申告において必要経費不算入とした部分に係る過少申告加算税(10%)の賦課決定処分を行った。

  • 請求人は、上記①については一部の取消しを、上記②については全部の取消しを求めて、審査請求を行った。

この事案の争点は複数ありますが、マイニングに関するものだけを取り上げます。
なお、裁決文における黒塗り箇所について、黒塗りされた語の同一性や文字数にかかわらず、一律に「●●●」と表記していますのでご注意ください。

2 基礎事実(請求人による仮想通貨のマイニングについて)


(イ)請求人は、経済産業大臣から、マイニングマシンを中小企業等経営強化法第13条第3項に規定する経営力向上設備等とする投資計画が中小企業等経営強化法施行規則第8条第1項第2号及び同条第2項第2号の要件を満たすことの確認を受け、同月14日付で、当該マイニングマシンを経営力向上設備等とする経営力向上計画について、中小企業等経営強化法第13条第1項の規定に基づく認定を受けた。

(ロ)請求人は、平成30年12月27日、●●●からマイニングマシン100台を合計税込38,880,000円(1台当たり税込388,800円)で取得した(以下、請求人が取得したマイニングマシンを併せて「本件マイニングマシン」という)。
そして、同日、仮想通貨のマイニング業務を同社へ委託する契約を締結し、これにより収益を得るようになったて以下「本件マイニング」という)。

3 当事者の主張と争点


当事者の主張は末尾の「参考:当事者の主張」に掲載しておきました。

原処分庁は、請求人が適用を主張する租税特別措置法第10条の5の3第1項の規定する税制措置は、経営力向上計画の認定を受けた者が、認定を受けた経営力向上計画に基づき、特定経営力向上設備等を「事業の用に供した」場合に適用することができるものであるところ、本件マイニングは、「対価を得て継続的に行なう事業」とは認められないから、これに係る所得は事業所得に該当せず、雑所得に該当するため、上記税制措置の適用はないというもののようです。

先述のとおり、争点は複数ありますが、この記事では、「本件マイニングに係る所得は、所得税法第35条第1項に規定する雑所得に該当するか否か」という争点に関するものを取り上げます。

4 審判所の判断

(1)審判所の判断枠組み

結論を出すために審判所が示した判断枠組みを確認しましょう。
審判所は、以下の判断枠組みに照らして、結論を出しています。

審判所は、「ある経済的行為が『対価を得て継続的に行なう事業』によるものといえる場合、当該行為から生ずる所得は事業所得に該当する(所得税法第27条第1項、所得税法施行令第63条第12号)」とした上で、事業所得と雑所得を区別する判断基準について、次のように述べています。

事業所得が、その一応の判断基準として、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうことを踏まえ、当該行為及び所得の態様等を考察して判断すべきである。」

また、このような業務から生ずる所得であっても事業所得に該当せず雑所得に該当する場合があり得るところ、当該所得が事業所得と雑所得のいずれに該当するかの判断においては、所得税法が、租税負担の公平を図るため、所得を上記のように分類し、その種類に応じた課税を定めている趣旨、目的に照らし、次の事情を総合考慮して、当該業務が事業というべきものか否かを客観的、実質的に判断すべきであるとしています。

・その経済的行為の具体的な内容や性質
・これに費やした精神的・肉体的労力の程度や人的・物的設備の有無
・資金調達の方法等の経営資源の状況
・その行為の期間や回数、頻度その他の態様
・利益発生の規模や期間その他の状況   等

(2)結論と理由

審判所の結論は、本件マイニングに係る所得は雑所得に該当する、というものです。本件マイニング係る所得は、「対価を得て継続的に行なう事業」とはいえず、このような業務から生じる所得は事業所得に該当せず、かつ、事業所得以外の他のいずれの所得にも該当しないから、雑所得になると判断しています。

では、なぜ、「対価を得て継続的に行なう事業」とはいえないと判断したのでしょうか。
この点について、審判所は次のとおり述べています。

「請求人が行う本件マイニングは、請求人が本件マイニングマシンの取得費の限度で危険を負担し、●●●が主体となって行う本件マイニングから生じる利益の分配を受けるというものに等しく、その経済的実質は●●●が行うマイニングヘの投資に等しいといえる。したがって、本件マイニングは、客観的、実質的にみて、請求人の計算と危険において独立して営まれる業務であるとはいえない

審判所は、本件マイニングが、請求人において、「自己の計算と危険において独立して営まれる業務」とはいえないと評価したのです。

その理由は、請求人が負担する危険が本件マイニングマシンの取得費の限度にすぎず、請求人から業務委託を受けた会社が主体となって行う本件マイニングから生じる利益の分配を受けるに等しいものであり、その経済的実質はその業務委託を受けた会社が行うマイニングへの投資に等しいためということです。

審判所がこのような判断に到達する際に考慮した事実や事情は次のとおりです。

本件マイニングに係る業務委託契約は、●●●からの本件マイニングマシンの取得を前提としたものであって、請求人が ●●●以外の者から取得したマイニングマシンによるマイニング業務を●●●に委託することは予定されていない。

本件マイニングに係る業務委託契約は、●●●からの本件マイニングマシンの取得を前提としたものであって、請求人が ●●●以外の者から取得したマイニングマシンによるマイニング業務を●●●に委託することは予定されていない。

本件マイニングにおいては、●●●から本件マイニングマシンを取得して本件マイニングマシンによるマイニングを●●●に委託するか否か、本件マイニングに係る業務委託契約の全部を中途解約するか否かについては、請求人の判断に委ねられているものの、本件マイニングの収益において最も重要な本件マイニングマシンでマイニングする仮想通貨の種別の選択は、●●●の判断に委ねられており、その判断に対して異議を述べる権限が請求人に認められていることはうかがわれない。

市況環境を踏まえてマイニングを停止するか否かやマイニングする仮想通貨の種別を変更するか否かの判断も●●●に委ねられていて、その判断に異議を述べる権限が請求人に認められていることもうかがわれない。

本件マイニングにおいて、請求人には本件マイニングマシンの取得費以外の負担はなく、本件マイニングマシンの設置場所や本件マイニングを第三者に委託するか否か、本件マイニングマシンの保守点検などについての判断は●●●に委ねられている。

これら業務遂行のための費用及び損失も●●●が負担するとされ、「本件業務収益」がマイナスとなった場合でも当該マイナス分について請求人は負担せず、上記費用や損失を請求人が現実に負担することはないし、その決定に関しても請求人は何らの権限も有していない。

他に人的・物的設備を整備するための費用負担が生じることも予定されていない。

請求人において負担しなければならない事務や作業も予定されていないことから、事業所得か否かの判断において、請求人の行為の期間や回数、頻度その他の態様を検討することはできない。

本件マイニングにおいては、●●●から本件マイニングマシンを取得して●●●に本件マイニングマシンによるマイニングを委託するか否か、その全部を中途解約するか否か以上の判断は不要であって、その判断以上の精神的、肉体的労力も予定されていない。

請求人は、本件マイニングにおいては、本件マイニングマシンが最も重要な物的設備であると主張するが、請求人が本件マイニングマシンを取得したきっかけは、●●●の代表取締役から措置法第10条の5の3を適用して即時償却できる投資商品であると勧められたことにあるのであって、本件マイニングによる収益獲得を主たる目的としたものであったとはいえない。

このことは、本件マイニングにおいて最も重要なマイニングする仮想通貨の種別の選択や市況環境を踏まえたマイニングの停止について請求人が何らの権限を有しないことや請求人が本件マイニングマシンの現実の引渡しを受けたことも現物の確認をしたこともないこと、請求人が本件マイニングに係る運営経費の金額やその内訳を把握していないことにも裏付けられている。

要するに、審判所は、請求人が有する権限と負担している危険に注目しているようです。

請求人が有している権限については、本件マイニングマシンを取得して本件マイニングマシンによるマイニングを委託するか否か、本件マイニングに係る業務委託契約の全部を中途解約するか否かについては、請求人の判断に委ねられているものの、本件マイニングマシンの設置場所、本件マイニングを第三者に委託するか否か、本件マイニングマシンの保守点検などについての判断は委託された会社に委ねられおり、マイニングする仮想通貨の種別の選択やマイニングを停止するか否か等の判断も同社に委ねられていて、その判断に異議を述べる権限が請求人に認められていることもうかがわれない、としています。

請求人が負担する危険について、本件マイニングマシンの取得費以外の負担はなく、業務遂行のための費用及び損失も同社が負担する、としています。

そもそもマイニング業務に人的設備が必要か、他に業務を委託する場合にマイニングマシン設置場所に係るもの以外の物的設備が必要か、本件マイニングにおいて本件マイニングマシンが最も重要な物的設備であるという請求人の主張とこれにして審判所が行った本件マイニングによる収益獲得を主たる目的としたものであったとはいえないという判断はどのように対応しているのかなどの細かい議論はあるかもしれませんが、上記諸点を総合考慮して、審判所は、本件マイニングについて、客観的、実質的にみて、請求人の計算と危険において独立して営まれる業務であるとはいえず、よって、「対価を得て継続的に行なう事業」とはいえないとして、本件マイニングに係る事業所得に該当せず、雑所得に該当するという判断に至りました。

なお、マイニング報酬がそもそもここでいう「対価」に該当するのかという論点もありますが、裁決では言及されていません。
一時所得について定める所得税法34条1項の「対価」に該当するのか、消費税法上の「対価」に該当するのかといった論点と合わせて、検討する余地がありそうです。

参考:当事者の主張

(1)原処分庁

本件マイニングは、下記イないしニの各要素を検討した結果、「対価を得て継続的に行なう事業」とは認められないから、これに係る所得は事業所得に該当しない。

また、本件マイニングに係る所得が、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないことは明らかである。したがつて、本件マイニングに係る所得は、雑所得に該当する.

イ  本件マイニングは、「対価を得て継続的に行なう事業」というべき人的・物的設備を備えていない。

本件マイニングについては、本件マイニングマシンを購入した以外に、必要な物的設備を新たに備えた事実が認められない。

また、本件マイニングに係る業務遂行は、●●●に全て一任されており、請求人自身が費やす労力の程度は極めて低く、本件マイニングの遂行のため他人を雇った事実もない。

口  本件マイニングは、次のとおり、請求人が自己の危険と計算により企画遂行するものとはいえないし、請求人が本件マイニングに費やす精神的・肉体的労力も極めて低いものである。

(イ)請求人と●●●との間の本件マイニングに係る委託契約によれば、請求人は、●●●に対して本件マイニングの全てを一任している。

請求人は、同契約において、本件マイニングに係る仮想通貨の種別をはじめ業務遂行に必要な判断に対する権限を有していない。

本件マイニングの業務収益がマイナスになった場合でも請求人が費用を負担する必要はなく、契約期間中の本件マイニングマシンの維持管理の費用の全て及び危険負担の大部分は●●●が負っている。

以上に照らせば、請求人が、本件マイニングを自己の危険と計算において企画遂行していたとは認められない。

(ロ)請求人は、本件マイニングに当たり、本件マイニングマシンを購入する費用を拠出したのみで、本件マイニングの遂行に当たつて必要な判断、指示、事務作業等はしていない。これらは全て●●●が行うこととされており、請求人自身に事務負担等は一切生じ得ない。

以上のことからすると、請求人が本件マイニングに費やす精神的・肉体的労力の程度は極めて低かったと認められる。

ハ  本件マイニングは、極めて投機性が高く、収益の安定性が認められない。

本件マイニングに係る収益は、マイニングの成果に左右されることに加え、本件マイニングに対する報酬がマイニングされた仮想通貨で支払われることから仮想通貨の相場の変動に影響されるものである。

そのため、本件マイニングは投機性が極めて高い。請求人は、本件マイニングの収益が、マイナスの場合も費用を負担する必要がないものの、何ら本件マイニングの遂行に必要な判断をする権限を有していないことから、収益がマイナスになり、契約期間中に本件マイニングマシンの購入費用である投下資本を回収できる可能性が低くなった場合でも、マイニング対象となる仮想通貨の変更を指示することなどにより収益の改善策を講じることができないものと認められる。

二 本件マイニングが「対価を得て継続的に行なう事業」であるか否かは、請求人がマイニングマシンを経営力向上設備等とする経営力向上計画の認定を受けていることをもつて直ちに判断されるものではない。

中小企業等経営強化法第13条第1項は、経営力向上計画の認定を受けた者が、事業所得者であり、かつ、措置法第10条の5の3第1項の規定する特別償却又は税額控除を受けることができるということまで規定したものと解することはできない。

上記税制措置は、経営力向上計画の認定を受けた者が、認定を受けた経営力向上計画に基づき、特定経営力向上設備等を「事業の用に供した」場合に適用することができるものである

(2)請求人

木件マイニングは、下記イないしニの各要素を検討した結果、「対価を得て継続的に行なう事業」と認められるから、これに係る所得は、事業所得に該当するため、雑所得には該当しない。

イ 本件マイニングは「対価を得て継統的に行なう事業」というべき人的・物的設備を備えている。

本件マイニングの遂行に当たっては、マイニングマシンという高額な機械設備が必要不可欠であり、請求人は、高額な資金を投入して本件マイニングマシンを準備して事業を開始した。

原処分庁は、本件マイニングマシン以外に物的設備がないと主張するが、原処分庁が除外した本件マイニングマシンこそが、本件マイニングの主要な物的設備である。

請求人は本件マイニングのために従業員を雇うこと等はしていないが、それは本件マイニングが高度の専門性を要する業務であり、従業員を雇用するよりもこれを専門とする●●●に業務を委託する方が適していたからである。

原処分庁は、本件アフィリエイトに係る人的設備というために雇用関係の存在を要求しておらず、これを前提とすれば、●●●の他の本件マイニングに従事する人達も本件マイニングに係る人的設備である。

ロ 本件マイニングは、次のとおり、請求人が自己の危険と計算によって企画遂行するものといえ、これに請求人は大きな精神的・肉体的労力を費やしている

(イ)請求人は、 が本件マイニングに係る委託契約に基づいて請求人に対して負う善管注意義務を通じ、同社が同義務に違反した場合には責任追及し得るという形で、 本件マイニングに係るの業務遂行を律している。

請求人が、 ●●●にマイニングする仮想通貨の種別や本件マイニングマシンの設置場所の選定、第三者ヘの運用業務委託、委託内容の決定を委ね、本件マイニングの業務遂行に関する具体的判断を行わないことは、請求人が業務遂行に関する権限を有しないことを意味しない。

また、本件マイニングマシンの売買価額や●●●の業務委託報酬の金額は、契約期間中に●●●が支出する本件マイニングマシンの維持管理費用や本件マイニングマシンの業務収益のマイナス見込分を上乗せした形で決定されているから、●●●が費用及び危険の大部分を負担しているわけではない。

業務収益額は、本件マイニングの成果によって変動するから、請求人が投下した本件マイニングマシンの購入費用を回収できるかは不明である。

以上によれば、本件マイニングは、請求人が自己の危険と計算において企画遂行するものといえる。

(口)請求人は、本件マイニングマシンの購入費用を拠出する段階で、拠出によるリターンとリスクの衡量について大きな判断を求められている。

また、請求人は、いつでも本件マイニングに係る業務委託契約を中途解約することができ、中途解約に要する費用も1台2万円と中途解約を事実上阻害するような額ではない。

したがって、請求人は、常に、●●●による今後の収益の予測と、その収益が同社との契約を解約して他の業者に業務委託する場合の解約コストを上回るか等の判断を求められ続けており、本件マイニングに大きな労力を費やしている。

ハ 収益の安定性は「対価を得て継続的に行なう事業」か否かの判断において重要な要素ではなく、また、本件マイニングに収益の安定性が認められないともいえない。

本件マイニングに係る収益は、マイニングの成果やマイニングに係る仮想通貨の相場の変動の影響を受けるが、請求人は、本件マイニングの収益がマイナスになっても費用を負担する必要がなく、投下資本を回収できないというリスク以上の大きな損失を請求人が被る可能性はないし、業務委託先を他の業者に切り替え、収益改善策を講じることもできる。

二 本件マイニングは、請求人が認定を受けた経営力向上計画に係るものであり、その事業性を否定することは中小企業等経営強化法の目的と相反するものであって認められない。

請求人は、本件マイニングマシンの購入に当たり、マイニングマシンを経営力向上設備等として請求人の経営力向上計画が適当である旨の認定を受けている。

中小企業等経営強化法は、即時償却のような節税を推進力とする中小企業者の新事業の展開等を期待するものであり、そのための支援措置として措置法第10条の5の3第1項は、経営力向上設備等のうち一定の要件を満たすものにつき、当該設備等についての特別償却又は税額控除を定めている。

これは中小企業等経営強化法に係る支援として最大のものであり、経営力向上計画の認定を受ける業者の多くが上記税制措置を目的としている。

請求人が中小企業等経営強化法の期待するところに応えて開始した本件マイニングに係る所得を雑所得であるとして上記税制措置の適用対象から外すことは、同法の目的自体に相反するものである。

減価償却費についての原則的な処理を定めた所得税法第49条第1項の規定は、不動産所得、事業所得、山林所得及び雑所得の必要経費について定めた規定である。

これに対して、措置法第10条の5の3第1項の規定は、事業所得の必要経費についてのみ定めている。すなわち、同項では、特定中小事業者が、一定の期間内に、一定の特定経営力向上設備等を取得等し、これを国内にある当該特定中小事業者の営む指定事業の用に供した場合にここから生ずる所得が事業所得であることを前提としている。

そして、上記税制措置の適用要件として、措置法第10条の5の3第1項は「指定事業の用に供した」ことを定めているが、この「指定事業」は、おおむね日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として指定されている。

指定事業は、当該個人が主たる事業として営んでいることを要件とするものではなく、措置法第10条の5の3第1項は、当該個人が副業として当核事業を営んでいる場合、すなわち一般的には雑所得として判断されるであろう場合も、上記税制措置の適用対象として当然に包含しているものである。

したがって、中小企業等経営強化法に基づき経営力向上計画の認定を受けながら当該計画に基づいた事業による所得が事業所得に当たらない場合というのは、基本的に想定されていない。




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