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第3話「ガチホの悪夢」【億万長者物語】

「売らないのではなく、売れない悲劇」

仮想通貨に限らず、株や金など、投資要素のあるものをお買い上げしたことがある方ならばわかると思うが、まず、最初に投資初心者に訪れる壁の名が「売り時がわからない」である。

当初、仮想通貨になんぞ、たいして興味もなかった私。

ADAコイン購入後も、「60万騙されたわー」くらいで終わるならば、投資にかんしてのちょっと高い授業料だったと思えるなと感じていたし、基本的には頭の中から存在自体を排除し、投資したこと自体も記憶の彼方へと押しやることに成功していただけに、ADAが上場後すぐに10倍になった瞬間は、一気に脳内が沸いてしまった。投資の世界でよく使われる言葉に「お花畑」というのがあるが(自分の都合のいいように解釈する幸せな世界観のこと)「お花畑」というよりは「極楽浄土」という言葉がふさわしいほどに、頭の中がイッてしまっていたのだ。

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お花畑は居心地がいい。

そして、一攫千金をもたらしてくれたADAがどんなポテンシャルをもったコインなのかについて、やたらめったら調べてしまうことになる。

さらに、調べた結果の〝いいとこ〟取りをして都合の良いように解釈する、それはそれは見事な「お花畑」が完成する。

「すでに10倍になっているADAは、ここからさらに10倍になるだろう」

そう、完全に「売り時」を見失い、いわゆる、「ガチホ(保有している仮想通貨や株を売却せず長期保有すること)」状態へと突入したのだ。

「ガチホ」という考え方に潜む罠

「ガチホ」は善か悪か。

株投資や仮想通貨投資の世界は、インターネットでの議論が活発で、様々な掲示板などで、あーでもないこーでもないといった、互いを貶しあうカルチャーが発展している。特に、乱高下を繰り返す仮想通貨では、値段が下がった時などは、思い切り「ガチホ」勢がバカにされる。

つまり、「〝上がっている時に売って、下がった時に買う〟の法則にのっとっていれば、もっと簡単に稼げるものを、ガチホなんてただの機会損失(利益確定するチャンスを失う)なだけじゃないか」という、言い分である。

いや、まさしくおっしゃる通りなのだけれども、では、人は、「天井」で売って、「底値」でお買い上げすることができるものなのか?

インサイダーでもしていない限り、こんな芸当ができる人は基本的にはいないはずだ。もちろん、それらを体現してきた神がかった人はいるかもしれないが、それは万人に対する「仮想通貨攻略法」となることは決してない。

そう、人は、好きで「ガチホ」モードに突入するのではなく、いつまでも「売る」という第一歩を踏み出すことができないために、仕方なく「ガチホ」するしかないという追い込まれ方をするものなのではないか。

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仮想通貨換金までの道のりが遠かった。

少なくとも、私はADAと出会ったことで、この答えにたどり着くことができた。

いや、答えが見つかったとて、「売る」ことができるのかどうかは、また別の話であり、結局、私は、ADAが覚醒してから元の姿に戻るまで、何もすることができなかったのだ。

そして、元ボスは新車のボルボを購入した。

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画像はイメージです。

と、いうことである。

そう、私をADA投資に誘ってきた元ボスは、ちゃっかり一部の「売り抜け」に成功していた。というよりも、彼は狂想曲が奏でられる前に降りていた。

2018年の12月というのは、仮想通貨業界全体で見ても、イカれた月であり、11月30日時点で約「10円」だったADAも、12月30日には約「60円」に到達、一か月かけて6倍にも数字を伸ばし、さらには、明けて1月4日にはなんと、まさかの「123円」突破、5日間でそこから2倍に跳ね上がったのである。

これは他の仮想通貨たちも似たような状況で、まさしく、狂想曲、イカれた一か月に人々は歓喜し、世界中が「お花畑」もとい、「極楽浄土」へとイッてしまっていたのである。

そんななか、元ボスは、「20円」くらいの時にほぼほぼ売った。

そもそも当時のADAは、売却するのにも一苦労あり、年末ということもあって本業のほうが忙しかった私は、もし「売る気」になっていたとしても、売るための手間暇をかけている余裕はなかったのも間違いない。

だが、元ボスは、ある意味、引退をしている状態でもあったので、時間に自由もきき、しかも、最初にADA勧誘をしてきた人物は彼の唯一無二の親友だったこともあり、ふたりで仲良く売却に成功していたのだ。

そもそも投資した金額が「10万円」だったことで、驚くべき数字にはなっていなかったが、それでも約「600万円」のあがりとなった。その600万円をすべてつぎ込んでボルボの新車を購入したのである。

「宵越しの銭は持たねぇ」的なスタンスの彼らしいといえば彼らしい行動だが、結果、税金に半分以上もっていかれることもあり、約600万円したボルボの半分は自腹を切ったことにはなるのだが、それに気づくのはもう少しあとのお話(笑)。

さて、そんな彼の行動を真横で見ていた私はどうしたのか?

ご存じの通り、微動だにすることなく、ただただ、この狂った世界に歓喜し、戸惑い、ヤキモキし、頭の中だけで、「億万長者になった」妄想にとりつかれて、ひたすらに右往左往と忙しなく、翻弄されていただけだった。

2019年1月4日に当時最高額をつけたADAは、1月後半には半分まで下落、以降は再び上がることなくジワジワと降下を続け、12月には上場したときとほぼ同額、約「3円」にまで戻ってしまっていたのである。

そして、私は、その間、何もできずに、ただただ絶望していた。

「仮に最高値で売却できていれば、2億3370万円を獲得だった」

この仮想現実だけが、ひたすらにつきまとい、「今売るとそれの半分」「今売るとそれの4分の1」などと、最高値ばかりを意識しすぎて、下落中でも「売り時」を完全に見失い、結果、元ボスが稼いだ「600万円」という数字にまで落ちてきてしまったのだ。

よくよく考えてみると変な話で、ADAが上場した瞬間は、「60万円が600万円になった!」と震えていたのにもかかわらず、今度はまさかの「2億円が600万円になってしまった!」と戦慄するのだから、人は本当に業の深い生き物である。

原資は60万円。

とはいえ、一度は天上界の人間になっていたと妄想すればするほど、「もはや元の値に戻るまでは売ることなんぞできん」という思考からは逃れられず、「ガチホの悪夢」にうなされ続けることになるのである。

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すでにテンバガーなのに……。

to be continued

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