今だからこそ振り返る Terraショックから学べること(中編)

(前編のつづきです)

Terraショックは2022年の5月7日(土)に始まり、約4日間続きました。この間に起きたことは非常に複雑で、様々な思惑が複雑に絡み合ってます。今回、改めて1年前の記事やデータを確認して調べ直したのですが、メディアや人によって言ってる内容が微妙に違うため、細かい部分は各自で確認してください。この記事では、なるべく話をわかりやすくするために、細かな説明を省略して説明するようにします。また、一連の流れは同時多発的に起こっていることも多く、必ずしも下記の順番通りに起きたことではないことも述べておきます。

参考メディア
Nansenのオンチェーン分析レポート
CoinDesk Japanの一連の記事
CoinPostの一連の記事
cointelegraphの一連の記事
BeInCryptoの一連の記事
Twitterの外国人アナリストのツイート
.....等

Terraショックの一連の流れ


(1)少数のアドレスによるUST大量売却がCurveで発生

5月7日にクリプト市場に「なんかおかしいぞ」という噂が最初に流れたのは、CurveのUST-3Pool(USTとUSDTとUSDCの流動性提供プール)で7つのアドレスから大量のUSTが売却されUSDCに交換された事がきっかけです。これにより、USTは若干のデペッグが起こります。

その後、Terraチームが3Poolから4Poolへの移行のために3Poolから1500万ドルのUSTを引き出した直後に、あるアカウントが8500万ドルのUSTをCurveで売却しました。これによりCurveのUSTの流動性プールが機能しなくなり、市場は「Terraが何者かに攻撃をされてるのでは?」という噂が広がります。

(2)市場不安が起こりAnchorに預け入れられていたUSTが大量に引き出される

市場の不安が広がり、Terraネットワーク上のレンディングプロトコルのAnchorに預けていたUSTを引き出す動きが加速します。Anchorは、USTを預けることで年利20%の利息収入をユーザーに約束させることで人気を博していました。この時、USTの総発行額180億ドルのうち約8割にあたる140億ドルがAnchorに預けられていましたがわずか1日で20億ドル相当のUSTが引き出されました。
同タイミングで取引所でUSTが大量に売られてることから、Anchorで引き出した人達の多くがUSTを売却したと思われます。

(3)USTの外れたペッグが戻らない

この時点で、本来1ドルにペッグされるべきUSTが0.98ドルまで乖離していました。それまでも直近で度々ちょっとしたデペッグは起きていましたが長時間2%も価格が外れることはありませんでした。「いつもと違う」ということを多くの人が感じ始めて、徐々に市場に不安が蔓延していました。LUNAもこの時点で10%の急落が見られました。

(4)LFGが準備金として保有していたBitcoinでUSTを買い支える

5月9日に、USTの価格維持を目指すTerraの財団であるLFGが、万が一USTがデペッグした時の為の準備金として用意していたBitcoinを、マーケットメーカーに貸し付けることを発表します。要するに、Terraに近しい関係者に「このBitcoinを使って価格が下がってしまってるUSTを買い支えてくれ」ということです。しかし、結果的にこれがさらなる状況悪化を招きます。

BitcoinでUSTを買うということは、Bitcoinは売り圧になります。これを見越していたトレーダーがBitcoinにショートを入れることで、Bitcoinは、LFGの予想以上の価格下落に見舞われてしまいます。

(5)USTの価格下落が止まらずデススパイラル

LFGの想定通りにBitcoinでUSTを買い支え切れず、USTの価格はどんどん下がってしまいます。一連の動向を見守っていたUSTの保有者がさすがにマズイと思い、一気にUSTの売却を始めたのです。

そして、これでさらに状況は悪化します。前編で説明したUSTとLUNAの仕組みを思い出してください。1USTは1ドル相当のLUNAと交換できる仕組みがTerraにはありましたよね。つまり、USTの価格が1ドルから下に向かえば向かうほど、ユーザーがLUNAと交換した時の利鞘は大きくなります。この機会を逃すまいとデペッグが進むUSTを調達して、Terraのシステムを利用してLUNAと交換して、LUNAの価格も下落してるので急いで取引所でLUNAを売るという動きが加速します。これによりLUNAの売り圧も高まりました。

その結果、Bitcoin、UST、LUNA全ての価格下落が進み、もはや元の価格には回復できないだろうというほどに状況は悪化していました。売りが売りを呼び、急落が止まらないという状況に陥ったのです。

(6)LFGはUSTのペッグを諦める

5月10日、LFGはBitcoinウォレットのアドレスを公開し、ほとんどのBitcoinを出し尽くしたことを発表します。この時点でUSTは0.1〜0.2ドルまでペッグが外れており、残りの準備金でペッグを戻すことはできないと判断したLFGは、準備金でUSTを買い支えることを諦めます。

投資企業やマーケットメーカーに、その時点のLUNAを50%割引で販売することで資金調達を進めようとしたものの、誰も崩壊したTerraを書いたいとは思いませんでした。結局、この交渉もまとまらず、それまでコミットしていた投資家や企業も、TwitterなどでTerraから離れることを示唆したことで完全にTerraは万策付きました。

この瞬間、Terraの崩壊がほぼ決定的となりました。

攻撃者の噂


一連の流れを振り返ってみましたが、Terraショック直後から、これは誰か特定の攻撃者が意図的に引き起こしたことなのではないかという噂があります。

CurveでのUSTの売り浴びせのタイミングや元々大量のUSTを保有していたことを、そしてTerraショックが起こる前から大量のBitcoinのショートポジションを取っていたアカウントがあること考えると、確かに意図的な攻撃だったと考える人がいてもおかしくありません。

「攻撃者」は存在するのでしょうか?
存在するとしたら誰が何のためにそんなことをしたのでしょう?

これまでに噂のあった「攻撃者」候補を紹介します。

伝統金融の関係者説


当時の暗号資産に関わる人物の中にUSTやLUNAの保有者はたくさんいましたし、わざわざ自分が関わる銘柄や業界を混乱に陥れるメリットがないことから、新しい業界を潰したいと思ってる者、つまり伝統金融の関係者の攻撃なのではないかという説です。

Terraショック直後は、投資運用会社大手のBlackRockが、仮想通貨融資会社のGenesis Tradingと組んで起こしたのではないかという噂がありましたが、BlackRockはこれを明確に否定しています。

Alameda(SBF)説


Alameda/FTXが崩壊した時から出てきた噂です。米検察当局はFTXの創業者サム・バンクマン・フリード(以下SBF)を逮捕した際にUSTとLUNAの意図的な価格操作を疑い調査しているとの報道がありました。
また、Terraの共同創業者のドゥ・クオンもTwitterでSBFを疑ってるという発言をしたこともあり、一気に疑惑が高まりましたが、その後具体的な報道はありません。

国際ハッカー説


長い間、クリプト市場を観察していた人ならご存知かもしれませんが、クリプト関連のハッキング事件で毎回疑われるのが北朝鮮やロシアのハッカーの存在です。Terraショックでも例外ではなく、疑惑の一つとして噂になりました。

Terra関係者説


Terraチームの内部的な犯行だったのではないかという説です。韓国検察当局は、USTの意図的な相場操作があったかどうか、関係者全員を対象に操作を行いましたが、現在までに証拠や供述が出てきたなど具体的な報道はありません。

(後編につづきます)

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