「サムの息子たち 狂気、その先の闇へ」「ナイト・ストーカー シリアルキラーの捜査禄」
見ごたえたっぷりのNetflixドキュメンタリーシリーズ2本。
サムの息子たち 狂気、その先の闇へ
Son of Samといえばシリアル・キラー界の有名人。70年代にNYで女性やカップルを殺す連続殺人事件の犯人として逮捕された。「犬に命令された」などの狂気じみた警察への手紙も話題をさらった。「マインドハンター」にもでてきたので、このEP見直そう。犠牲者たちの髪型がロングヘアだったので女性たちは髪を切り、男たちはぶっ殺してやる!と怒りまくり、街中は大混乱に陥る。必至の捜査も行き詰まりプレッシャーに苦しんだ警察は、なんとか犯人を逮捕、大々的に表彰も行われ、NY市民も拍手喝采で終わったが、この結末に納得しない記者がいた。モーリー・テリーだ。
独自で捜査を進めると、犯人は「サムの息子」、ではなく「サムの息子たち」であることが分かってくる。失態を認めたくない警察は聞く耳を持たないため、できることは限られていたが、苦労の末かなりの証拠が揃って本も出版。大きな話題になったものの、サムの息子ことデヴィッド・バーコウィッツが直接モーリー宛に書いた手紙の予言どおり、「どんなに証拠をそろえたところで、世間は信用しない」のだった。本格的な捜査は行われなかったので、どこまで真実かは今となっては分からない。明らかに単独犯ではないと思われる点があったのに(被害者の親のひとりは複数犯説を信じていた)、誰か一人でも逮捕すれば解決、なムードが醸成されていたのだろう。あまりにも大きな事件だったので、警察のメンツにかけて、掘り返すことはありえなかった。警察権力の怖さ…。仮に捜査が再開されたとしても、タイトルに「その先の闇」とある通り、全容解明は不可能だったと想像される。アメリカのドキュメンタリーを観てると毎度のことながら驚くのが、徹底した情報開示。無期懲役囚となったバーコウィッツへのインタビュー映像をテレビ放送してるのもすごい(囚人服じゃなくて、普通の恰好をしている)。
モーリーは記憶力が並外れていて、一方で人間関係をうまく築けない人だったらしい。一緒に捜査に協力した仲間たち(被害者も含む!)の忠告も聞かなくなった。自閉症だったと思われるけど、食いついたら離さない執拗さは、犯罪捜査に向いてるのかもしれない(ミステリ小説や犯罪ドラマでも自閉症のキャラクターは散見される)。冒頭から物悲しい雰囲気が漂っているこのシリーズは犯罪捜査よりも、むしろ彼の孤軍奮闘がテーマになっている。本人のナレーションはポール・ジアマッティ。ほかに誰ができる?
ナイト・ストーカー シリアルキラーの捜査禄
80年代にLA中を震え上がらせた連続殺人事件の顛末を追う4話構成。誰もが認める有能なベテランと、大抜擢された元チンピラのラテン系刑事のコンビが、捜査過程を詳細に振り返る。DNA判定のない時代の捜査ってほんとに犯人に分があるなと隔世の感がある。HBOシリーズの「ゴールデンステート・キラーを追え」も同時代のカリフォルニアの事件だったが、管轄地域が違うと担当部署も変わるので、お互い競い合って協力しないせいで犯人をまんまと逃すパターンが再び。両事件とも、目撃者がたくさんいて、わざと殺さずに未遂のまま逃げ去るケースも多い。でも捕まらない。これらは古い事件なので今は捜査方法も格段に進歩しているが、これだけ詳細に捜査について語ってしまうと、未来の殺人犯にヒント与えてしまうのではないか、と心配になる。州をまたぐ、同じ銃は使用しない、殺害方法を変えるとか。
「殺人者への道」でも起こったことだけど、有名な犯罪者は女性たちに大人気でファンレターが殺到したり、獄中結婚したりする例もある。Fameに群がるのはマスメディアも同じで、ときに捜査妨害になる情報を公にしてしまう。昔はメディアの騒ぎ方が尋常じゃなかったのがよく分かるが、今でもそう変わってはいないのかな…。