きゅうくらりんDDLC的模範解答考察

 はじめまして。今更ながらここ最近DDLCを履修しましたこんばんは、あいすと申します。
 DDLC、本当に素晴らしいコンテンツだなぁと随所を巡っていたところニコニコ動画で「きゅうくらりん」に出会いましてこれまたすばらしいと思い考察など読んでみたのですが、意外と世間様のきゅうくらりんの考察文章にDDLC要素を反映しているものが少ないなぁと思いましたので、『仮に』きゅうくらりんがDDLCを下地にしているのであればこれが模範解答となるであろうという考察をしてみたい、と思いましたので僭越ながらここに記したいと思います。たいへんに恐縮ながら『仮に』ということはここ前段で前置きさせていただいたので、ここからはいささか断定調といたしますのでご了承ください。なおDDLC未履修の方はこの先よくご検討の上でお進みください。


きゅうくらりん

https://www.nicovideo.jp/watch/sm39257413

 「きゅうくらりん」はこの曲オリジナルのワードですが、歌詞最後の首吊りを意図した「ちゅうぶらりん」が先にあり、「ちゅうぶらりん」をマイルドに表現にする言葉として「きゅうくらりん」が生まれています。「ちゅう」に「ぶらりん」となることで首が締まり意識を失うことを考えると、「きゅう」っと締めて「くらりん」と朦朧となるこの言葉は、語感にしても意味にしても完璧です。卓越した天才的ワードセンスだと思います。

うるさく鳴いた 文字盤を見てた
きっときっと鏡越し 8時過ぎのにおい

 くらりちゃんは重度の鬱病を患っています。すべてが空虚で生きる意味が見いだせません。学校に行く意味もうまく見いだせないので、「うるさく鳴く」目覚まし時計が疎ましく、焦ることなく慌てることなくただ「文字盤を見て」います。なかなかベッドから起き出せず、遅刻することもしばしば。「8時過ぎのにおい」を感じ取っているところからも遅刻慣れしていることが匂わされています。

しらけた顔 変わってなくてよかった
ピンクの植木鉢の ぐちょぐちょした心のそばに
大きく育ったもの 結ばれたつぼみが
こんなにも 愚かしい

 「しらけた顔」をしているのは、幼なじみの友人です。小さい頃からの腐れ縁。彼はくらりちゃんが重度の鬱病であることは知りません。いつもと同じ通学路、最近しょっちゅーこいつ遅刻しかけるな、と思い「しらけた顔」をしていますが、その反応こそが「変わってなくてよかった」とくらりちゃんに安心を与えています。
 くらりちゃんはくらりちゃんを肯定してくれる彼のことが好きです。くらりちゃんの恋心は「ピンクの植木鉢」で「大きく育って」「つぼみを結んで」いますが、彼が自分のような価値のない存在にかかずらって時間を無駄にしてしまうことを恐れています。そのためくらりちゃんは、自身の恋心を「愚かしい」と感じていますし、彼に迷惑をかけかねないこの恋を生み出した自身の心を「ぐちょぐちょした心」だと解釈しています。

ああ 化石になっちまうよ
ああ 取り繕っていたいな
ちゃんと笑えなきゃね 大した取り柄も無いから

 それでもやっぱり、くらりちゃんは彼のことが好きです。これからも彼と、くらりちゃんが重度の鬱病ではなかった頃のように過ごしたいと感じています。くらりちゃんが彼にとっての過去のものとして置いていかれることを、「化石になっちまう」と恐れています。そして、置いていかれないために「取り繕っていたい」と感じています。そのためにできることは、「大したことのない取り柄」のひとつ、「笑う」ことを「ちゃんと」頑張ろうとしています。くらりちゃんは重度の鬱病なので、自然に笑うことが難しく、置いていかれないために昔と同じように「ちゃんと笑えなきゃね」と感じています。

空っぽが埋まらないこと 全部ばれてたらどうしよう
ああ あなたの右どなり
わたし きゅうくらりん

 くらりちゃんは彼のことが好きですが、くらりちゃんが重度の鬱病であること、すなわち「空っぽが埋まらないこと」が伝わることを恐れています。なぜなら彼の心根は「ひどく優しい」ので、「空っぽが埋まらないこと」が「全部ばれて」しまうと、彼が自分を心配してしまい、自分のような「大した取り柄」のない人間にかかずらって、彼の時間を無駄にしてしまうからです。
 くらりちゃんは彼のことは好きですが、彼に心配はかけたくない。彼とこれまでどおり「右どなり」にいたい。そのためには「ちゃんと笑い」、「全部ばれて」ないか気を使っていて、「わたし」は胸が「きゅう」っとなったり頭が「くらりん」としたりしながらも、「わたし」を「取り繕って」います。

例えば今夜眠って 目覚めたときに
起きる理由が ひとつも 見つからない
朝が来たら わたしは どうする?

 さて、突然話は変わりますが、くらりちゃんは彼のことが好きなので、彼にはもっと幸せになって欲しいと願っています。一方で重度の鬱病であるくらりちゃんは、自分では彼を幸せにすることはできないと強く思い込んでいます。彼のことが好きで一緒にいたい、彼と一緒にいると彼は幸せになれない、という矛盾を抱えています。
 ところで、彼はせいぜい幼なじみで腐れ縁のくらりちゃんくらいしか交友関係がないので、くらりちゃんとしては彼の先行きが心配です。くらりちゃんは精一杯の交友関係を使って、彼に仲の良い友人たちを紹介します。幸いにして、彼とくらりちゃんの友人は徐々に仲良くなってゆきます。すばらしい。やりましたね。計画通り、彼はくらりちゃんの友人と親密になってゆきます。嬉しいですね。
 嬉しくないですね。彼がくらりちゃんの友人と親密になってゆくに連れて、彼にとってのくらりちゃんの存在感は希薄になってゆきます。くらりちゃんは、彼のことが好きです。「目覚めたときに」「起きる理由のひとつ」、彼との登下校。これからは、彼がくらりちゃんの友人と親密になり、これからは、一緒に登下校するかもしれませんね。
 その時にくらりちゃんは「目覚めたときに」「起きる理由が」「ひとつも」「見つからない」「朝が来たら」「どうする」んでしょうね。ひとつの憂いが生じてしまいました。

うるさく鳴いた 文字盤を見てた

 憂い、効いていますね。「取り繕っていたい」はずでしたが、PVをご覧の通り、取り繕えていません。表情豊かな顔は画面の外へゆき、彼に見られたくない唯一の素の表情が画面内に残り、そしてAメロにはなかった不安定な音が加わっています。Aメロと同じ「うるさく鳴いた 文字盤を見てた」という同じ歌詞だからこそ視聴者の違和感が際立つ構成になっています。

一歩一歩あとずさり 「また明日ね」とぽつり
喜びより 安堵が先に来ちゃった

 彼に心配をかけたくない、彼に自分のような価値のない存在で時間を無駄にしてほしくないと思っているはずのくらりちゃん。一方で、くらりちゃんの友人と彼が仲良くなってしまうと、これまでのように一緒に登下校できなくなっちゃうんじゃないかな、という不安が隠せないくらりちゃん。
 幼なじみで腐れ縁の彼ですから、そんなくらりちゃんに対する違和感に気付かないはずがありません。「ひどく優しい」彼は、くらりちゃんの異変に気付き、くらりちゃんを心配します。くらりちゃんは、「一歩一歩あとずさり」、「また明日ね」と、逃げようとしています。
 しかし、「ひどく優しい」彼は、そんなことは気にするなと、これからもこれまで通りであるとくらりちゃんに告げてくれます。くらりちゃんは彼のその言葉を、彼の幸せにつながり得る「喜ぶべき」友達との交友よりも、自分を選んでくれたという、これまで通りだと取り繕えている、「安堵が先に来ちゃって」います。彼の幸せを犠牲にしても価値のない私とのつながりに安堵している、くらりちゃんは、そのことがよくないものであると感じてしまいます。
  

思い出西日越し うつるこまかなヒビが
こんなにも恐ろしい

 友人よりも、私を選んでくれている。
 喜ばしい言葉。本来であれば。ですがくらりちゃんは重度の鬱病を患っています。
 友人よりも、私を選んでくれている。放課後下校の「西日越し」。「思い出」としては喜ばしい。しかし重度の鬱病を患っているくらりちゃんは、彼を幸せにすることは自分にはできないと強く思い込んでいます。そして、彼は、友人よりも、彼を幸せにできない自分を選んでいる。
 つまり、彼は選択を誤っている。そのことに気付いてしまったくらりちゃん。そして、選択を誤っていることに安堵しているくらりちゃん。彼の幸せのためには、彼の選択が誤っていてはいけないことに気付いてしまったくらりちゃん。彼と歩む西日の中で、くらりちゃんは自分自身の矛盾に、葛藤に、「こまかなヒビ」に気付いてしまい、それを「恐れて」います。

ああ あなたが知ってしまう
ああ 取り繕っていたいな
ちゃんと笑えなきゃね 大切が壊れちゃうから

 腐れ縁の幼なじみ。それが私たちの関係。でも、私の不安が彼に伝播してしまったから、彼が私を心配し始めてしまった。彼が私のような無価値な存在に時間を取られているなんて耐えられない。「ちゃんと笑って」これまでどおりのただの幼なじみである私たちを「取り繕う」ことが私たちの日常。私たちの「大切が壊れ」ないようにすること。
 Aメロの「ああ取り繕っていたいな」の入りが半拍早まっていることで、状況がより切迫していることが窺い知れます。

幸せな明日を願うけど 底なしの孤独をどうしよう
もう うめき声しか出ない
わたし ぎゅうぐらりん

 ただの幼なじみであり続けることが、「大切が壊れ」ない私の願う「幸せな明日」。そして、私の友人のような価値ある存在と彼が恋仲となるのも、彼にとっての「幸せな明日」。彼のことが好きだからこそ、彼のためを思いたい。そう願っているけれど、気付いている「こまかなヒビ」。矛盾と葛藤。彼の幸せな明日との代償となる、彼のいない私の「底なしの孤独」。胸が締め付けられる「きゅう」の度合いは「ぎゅう」に、頭が「くらり」と軽かった表現が「ぐらり」と重くなっています。これまで一人で思い悩んでいたことを相談した友人の介入により、ピアノが激しく鳴り響き始めます。

ああ 虹がかかっている空 きれいと思いたくて
焦がれては逃げられないこと
みんなにはくだらないこと
もう どうしようもないの
わたし きゅうくらりん

 彼がくらりちゃんの友人と親密になること。それはくらりちゃんの望む美しく素晴らしいことであったはず。それは誰もが「きれい」と感じる「虹がかかっている空」のように素晴らしいもの。私も「きれいと思い」たい。
 「きれいと思いたくて」という表現は、「きれいと思いたいが思えない」ということ。くらりちゃんが秘めた恋心に「焦がれ」るということは、彼とくらりちゃんの友人が親密になることと矛盾してしまい、「きれいと思うこと」を肯定するのなら、自身の恋心を棄却することから「逃げられない」ということに気付いていしまいます。
 「虹がかかっている空」のためには「底なしの孤独」を受け入れること。耐え難い葛藤。しかし重度の鬱病を患っているくらりちゃんにとってはこの葛藤ですら、「みんなにはくだらないこと」と断じ、「もうどうしようもない」という境地に至る道しか残されておらず、「きゅうくらりん」してしまいます。

そばにたぐりよせた末路
枯れ落ちたつぼみが こんなにも汚らわしくて
いじらしい

 「ひどく優しい」彼はくらりちゃんへの心配をやめません。くらりちゃんはついに、「末路をそばにたぐりよせ」ます。
 つまり、これまで隠していたくらりちゃんが重度の鬱病であることを打ち明けることを意味します。「大切が壊ちゃう」ことを覚悟して、「取り繕って」いたかった、「空っぽが埋まらないこと」を、彼に打ち明けるのです。
 これにより、どういう末路を辿るかをくらりちゃんは理解しています。そして、そうするともうくらりちゃんの恋心を、彼に向けることはできません。それはつまり「枯れ落ちたつぼみ」であり、彼に向けるべきではない「汚らわしく」も、それでもくらりちゃん自身は大切に育てていた「いじらしい」思いであると向き合っています。

ああ 呪いになっちまうよ
ああ 「あきらめた」って言わなくちゃ
頭の中で ノイズが鳴りやまないから

 くらりちゃんはこうして、「底なしの孤独」を、「起きる理由」がなくなることを覚悟で、重度の鬱病を打ち明けました。「ひどく優しい」彼は、くらりちゃんのことをこれからもこれまで通りにと、誰よりも大切にすると伝えてくれました。
 そして、くらりちゃんは察します。つまり、彼はこれから、私のような無価値な存在に時間を取られるということ。それは私が最も恐れていたこと。私のせいで彼の時間が、人生が無駄になること。これでは私が彼の「呪いになっちまう」こと。そうならないためには、私が私の恋心を「あきらめ」て、それを伝えなくてはいけないこと。「あきらめ」られない恋心を持ったままでは、彼の人生の呪いになってしまうという警告が「ノイズ」となって「鳴りやまない」こと。
  彼のためを思うなら、すべての想いを捨て去って「あきらめた」と言うべきであり、くらりちゃんはそのことを理解しています。一方で、このことはくらりちゃん自身が承認したくない思いとして、PVではすべて左右反転して表示されています。くらりちゃん自身はあきらめたくない。でもあきらめなくてはならない。その強い思いが頭の中でノイズとして鳴り響き、それでも排斥しなければならないとくらりちゃんは強く、感じています。
 彼のためには、彼女の恋心は、いらないのです。



 あたまのなかからでていけ。



空っぽが埋まらないこと 全部ばれてたらどうしよう
ああ あの子の言うとおり 終わりなんだ

 唐突に出てきた「あの子」は、くらりちゃんが彼に紹介した友人のひとり、ピアノが上手な女の子。彼女もまた、彼に恋心を寄せていて、くらりちゃんの言動に介入していることが、後半からメロディに絡んでいるピアノとして表現されています。彼女はくらりちゃんに介入し、くらりちゃんがいかに無価値な存在で、彼とともに過ごすことがいかに無駄であるかを増幅し、くらりちゃんがいる限り、彼はくらりちゃんと無為な時間を過ごしてしまうとを刷り込んでいます。彼がそうならないために、「終わりなんだ」と思わせるほどに、くらりちゃんに「あの子の言うとおり」だと思わせるほどに、深く深く介入しています。


ああ 幸せになっちまうよ
ああ 失うのがつらいな
全部ムダになったら 愛した罰を受けるから
ひどく優しいあなたの 胸で泣けたならどうしよう
最後 見たのはそんな夢

 「ひどく優しい」彼は、くらりちゃんの異常に気付き、重度の鬱病であるくらりちゃんをこれから支えていくと、強く抱きとめてくれた。こうしてくらりちゃん自身は「幸せになっちまう」のですが、このままでは「あの子の言うとおり」、価値のない存在であるくらりちゃんとこれからともにある「ひどく優しいあなた」の幸せにはつながらない。今だけは「あなたの胸で泣いて」いられるかもしれないけれど、これは「最後に見る夢」。
 このままでは「ひどく優しいあなた」の時間が「全部ムダになって」、価値のない存在である「わたし」へ時間を費やさせてしまう。そんな彼を「失うのがつらい」けど、「あの子の言うとおり」、「愛した罰として」選ばざるを得なかった結論が、



わたし ちゅうぶらりん

  わたし ちゅうぶらりん


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