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ゆめのはなし

あるところにキノコの男の子と、女の子がいました。
キノコの男の子は、女の子のいるところでは異物でした。
皆が顔を背け、手を払い、除け者にしましたが
男の子はとてもたくましかったので、あんまり気にしていませんでした。

ある日、目を覚ましたら男の子は両手を失っていました。
記憶も失っていました。
女の子と遊んでいたところまでしか思い出せません。
腕がない不自由はあっても、男の子はやっぱりあまり変わりもせず、他人に対して明るい人でした。
それを影から見ていた女の子は、ただ泣いていました。

ある時、男の子はようやく女の子がたびたび見に来ていることに気が付きました。
何があったのかより、きみは大丈夫なのかと聞こうとしましたが、逃げられました。
男の子は、逃げる時に泣いている女の子が忘れられず、追いかけることにしました。

それでも周りはキノコの男の子を疎みます。
腕がないからでもなく、疎みます。
腕が無くなってからは、より化け物かのように疎みます。
これでは女の子のいるところに行けない。
頑張って追いかけました。
何日も何日も追い掛けました。

すると、女の子が住んでいる場所まで来ました。
女の子は驚いてしまって、早く帰ってと言いましたが、キノコの男の子は思い出したのです。

女の子と楽しく遊んだ日々を。
人間が捨てたらしい毛糸をボールにして、草原を駆け回ったことを。
それはとても楽しい鮮やかな記憶でした。

けれど、どうやったってキノコの男の子は異物でした。
女の子周りの大人たちは、異物は排除した方がいいと言って聞きません。
やめてという女の子の嘆願も聞きません。
キノコの男の子が気絶しているところを狙って、崖から落として殺そうとしました。

女の子はそれがどうしても嫌だった。
どうしてもどうしても嫌だった。
やめてと感情が爆発するのとともに、変な音がしました。
男の子を殺そうとした大人は死にました。
そして男の子は、腕をなくしたのです。
こんなことがしたかったんじゃない。
どうして。

キノコの男の子は、女の子の涙の理由を知りました。
友達の体を欠損させて、嬉しいわけがありません。
自分が忘れている間も、きっと悲しかったのだろうと思いました。

でも、男の子は清々しい気持ちになりました。
楽しかった。
本当に楽しかった記憶だから。
それが原因で大きなものを失ったけど、楽しかった鮮やかな記憶だから。
忘れていいものじゃないから。

腕がないから、なんだろう。
自分は生きている。
生きていていいし、これからも生きる。

生きていこう。
そう思いました。

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