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【運用部コメント】直近の米国経済に関する一考察

世界最大の市場規模を誇る米国経済の動向は、あらゆる投資を行うにあたっても注視しておきたいものです。そこで今回は直近の米国経済につきまして、足元の各経済指標を見つつ考察していきます。

注:本レポートは2021年11月執筆時点の各種データに基づいて作成したものです。予めご留意ください。

1. 依然として回復が鈍い米労働市場

米労働省が発表した2021年9月の雇用動態調査によると、求人件数は4か月連続で1,000万人を超え労働需要の強さを感じさせる結果となりました。その一方で採用数は約650万人となり、求人数と採用数には引き続き開きが見られ、米労働市場が歴史的な人手不足に陥っていることが示されました(図1)。企業は求人を出しているものの、ほとんど採用に結びついていない状態にあるといえるでしょう。

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2021年9月には失業保険の上乗せ措置が撤廃されたことから、多くの労働者が再び求職活動を始めるとみられていましたが、少なくとも統計的にはそうした事実は確認されておりません。失業率がそれなりに高く推移しているにもかかわらず、就労が進まないというのは、労働市場で需給ミスマッチが発生していることを示唆しており、多くの労働者が積極的に仕事に就こうとしていない状態が推察されます(図2)。要因はいくつか考えられますが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック後に株価や不動産価格が大幅に上昇したことで仕事に戻るよりもリタイアを選んだ「FIRE(※)」ブームが、失業率が下がるなかで雇用が伸びない理由の一つともいわれています。また、これまでの雇用される働き方から、より柔軟な働き方が模索されてきていることも理由の一つといえるかもしれません。

※ FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった流行語で、「経済的自立を果たし、早期引退する」を意味します。

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次の図3にある「自発的離職者数」とは、解雇などとは異なり自主退職をした労働者数を示しています。米労働省から発表された9月の自発的離職者数の数は約440万人(前年同月比16.4万人増)と過去最大を記録しており、とりわけ離職者数の多い分野はレジャー、小売り、飲食業でした。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクが高く、賃金が低い分野ほど離職率が高い結果となりました。また、「賃金上昇率」は平均賃金の上昇率(前年同月比)をグラフにしたもので、2020年3月の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、乱高下を繰り返しているもののそれ以前の水準を上回って推移しています。前掲の働き方の変化とともに、労働者がより良い条件の働き口を見つけられると考えていることが示唆されます。このような労働力不足の状況がモノやサービスの供給不足や物価を押し上げている要因とも考えられ、物価の上昇が消費者の消費行動を制限させていると推測できます。

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2. インフレと消費者心理

消費者が現在の景況観をどのように感じ、またこの先どうなると考えているのか表す「消費者信頼感指数」という指標があります(図4)。個人消費の先行指標とされ消費者へのアンケート調査をもとに消費者の考えを指数化したもので、米国では米民間経済研究所のコンファレンス・ボード(全米産業審議委員会)が公表するものと、ミシガン大学が調査した消費者信頼感指数があります。一般的には、調査対象の多いコンファレンス・ボードのほうが、より信頼性が高いといわれています。

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コンファレンス・ボードが発表した2021年10月の消費者信頼感指数は113.8(1985年=100)と、前月の改定値から4.0ポイント上昇しており、予想に反して4カ月ぶりの上昇となりました。新規感染者数の減少が景況感を押し上げているという示唆ができます。しかし、同年11月12日に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)は66.8と市場予想の72.4から大きく下げており、2011年11月以来の低水準となりました。これは消費者にインフレへの不安感が更に増してきたことが要因であると推測できます(図4)。

消費者信頼感指数は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック後、緩やかに回復してきたものの、2021年4月頃から再び下げ基調に転じています。これはインフレ率が、米国がターゲットとする2%を大きく超える水準に達したことが原因の一つとされています。FRBはこのインフレ率上昇については一時的なものであると言及していますが、ここ半年高止まりの傾向が見られており、2021年11月の消費者物価指数にいたっては6%台と、1991年11月以来、31年ぶりの水準に達しています。

3. 結びに

このように消費者心理とインフレ率には密接な関係があり、消費者心理を後退させているインフレが今後どのようになっていくかを考えることは非常に重要です。現時点においては、以下の5点を踏まえると、今後もインフレは高止まり、もしくは上昇していく可能性が高いと想定されます。

⑴ 歴史的な人手不足によるモノやサービスの供給制限
⑵ 賃金高騰
⑶ 半導体不足によるモノの供給不足
⑷ エネルギー価格の高騰
⑸ サプライチェーンの停滞

しかし、2021年10-12月期は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染状況が改善するなかで、クリスマスシーズンに伴い個人消費が復調し、実質GDP成長率は前期比年率+6.4%と再加速すると予想されています。インフレ加速が長期化し、実質賃金が伸び悩むことで人々の暮らし向きが悪化し、個人消費が落ち込むリスクはあるものの、2021年内は高所得層を中心に蓄積した家計資産が個人消費を支える見込みもあるなど、必ずしも米経済が失速すると予測されるものではありません。ただ、各種経済指標とともに今後のインフレ推移、雇用状況を注視し続ける必要はあります。

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