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【運用部コメント】「炭鉱のカナリア」としての先進国ハイイールド債市場

毒ガスを検知すると異常行動を示すカナリアの習性を利用して、炭鉱労働者がカナリアを籠へ入れて坑道を歩いたことに由来する「炭鉱のカナリア」。米国をはじめとする先進国のハイイールド債市場は、将来の景気悪化と企業倒産の増加に対していち早く警鐘を鳴らす市場として、市場関係者から古くから「炭鉱のカナリア」と呼ばれてきました。

そこで今回は、足元で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染再拡大のなか、この「炭鉱のカナリア」、先進国ハイイールド債市場がどのような反応を示しているかをご紹介していきます。

1. 先進国ハイイールド債市場の現状

それではまず、足元の先進国ハイイールド市場のスプレッドを見ていきましょう。スプレッドとは、国債利回り等のベース金利に上乗せされる金利のことで、単位は%(パーセンテージ)で表示されます。

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上のグラフをご覧いただくと、直近で米大統領選を通過し、グローバルに加熱する株式市場と同様に、2020年3月のコロナショックをピークとして、ハイイールド債のスプレッドは顕著に低下傾向にあります。株式市場やハイイールド債市場などを総称して「リスク資産市場」と呼ばれます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染再拡大による景気減速懸念があるにもかかわらず、これを無視するかのように目下のリスク資産市場は「全面高」の様相を呈しています。

2. 足元の先進国ハイイールド債市場は「炭鉱のカナリア」として機能しているか

それでは次に、ここからは足元の市況が世界経済のバラ色の見通しを示しているかを見ていきます。世界の主要地域の経済状況はどうなっているでしょうか。

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上のグラフにあるBloomberg Activity Indicatorとは、電力消費量や交通量などの高頻度データをもとにBloombergが算出している経済指標です。コロナ禍以前(2020年1月8日=100)から現在(11月中旬)に至るまでの経済活動の回復度合いをみるのに有益な指数といえます。

先進諸国、エマージング諸国ともに2020年4月をボトムに経済活動の回復が続いています。足元はエマージング諸国(含む中国)がコロナ禍前と比較して9割程度、先進諸国が同8割を切る回復水準となっています。ただし、回復モメンタムは先進諸国を中心に鈍化しており、コロナショック時の暴落からV字回復を達成した株式市場に対して、実体経済の完全回復にはまだ時間を要すると考えた方が良さそうです。

続いて、米国に焦点を当てて、失業率および企業倒産の状況を見ていきましょう。

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上のグラフにある失業保険新規申請者数の減少にみられるように、今般のコロナショックのよって失われた大量の雇用は、経済活動再開以降、順調に回復しているといえます。ただ、その一方で、長期失業者数は上昇基調にあることがわかります。これは、米国企業が雇用拡大に対する慎重姿勢を崩していないことが、背景の一つとして見られています。

また、大手格付機関であるStandard & Poor’sが直近発行したレポート(『Global Debt Leverage: Risks Rise, But Near-Term Crisis Unlikely』)によると、ハイイールド企業のデフォルト率は2020年9月時点で米国6.3%、欧州4.3%であったのに対し、2021年6月時点の予想値(ベースライン・シナリオ)は米国12.5%、欧州8.5%と大幅な上昇を見込んでいます。これはリーマンショック以来の高水準であり、企業の信用評価のプロである格付機関は、今後の企業倒産に対する慎重な見方を崩していません。

結び

ご存知の方も多いかと思いますが、米国をはじめとして欧州・日本と異次元ともいえる金融緩和政策が継続しています。これらの政策はグローバルなカネ余りを生み、ハイイールド債市場の本来持つ「炭鉱のカナリア」としてのシグナル機能を弱らせている可能性があります。したがって、昨今のハイイールド市場が特段のシグナルを発していないからといって、今後の景気見通しを楽観視するのは時期尚早と考えられます。とくに、今後先進諸国で更なるロックダウンを迫られるケースにおいては、より慎重な見方が必要になるでしょう。

世界の中心である米国をはじめとする先進諸国の変調は、エマージング諸国も含めたグローバルなお金の流れ全体に変化を及ぼす可能性があります。当社ではこれを念頭において、引き続き注意深くモニタリングを継続してまいります。

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