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アニメ「ガールズバンドクライ」第十二話感想 井芹仁菜の憂鬱

今回も王道な展開だったな
事務所と契約しプロとしての活動を順当に開始する流れ
大きなトピックとしてはダイダスから勝負を申し込まれる展開があったけど、最終回までにこの二つのバンドの絡みがあるのは必然
なるほど、こんな感じで絡んでいくのか

1)偽りの対バン

三浦の事務所と無事契約を結び、立派なプロとなったトゲトゲだが、活動を開始して間を置かず驚くべきことが起きる
ライバルのダイダスから対バンの申し入れがあったのだ
しかしこの対バン、俗に言う対バンとは少しルールが違う
対バンとは同じライブに複数のバンドが登壇し、同じ条件で純粋にパフォーマンスを対決させ、競い合うもの
しかしダイダスから提案された対バンは同じ会場でも別の日に出演する
つまりチケットの販売から違うので客も違う
これは既にある人気を比べるだけの対決であり、宣伝力で最初から結果が決まってしまう偽りの対バンと呼ぶべきものだった

しかし、この対バンにトゲトゲは敢えて乗り、最終回に向けて二つのバンドの対決が行われることになる

ところで、この対バンを受ける迄の流れは少し奇妙だ

この対バン、まずダイダスのメンバーが最初に提案したのだろうと推測できる
しかし、それが普通の対バンになれば単に大手のダイダスが弱小のトゲトゲに塩を送るだけになってしまい、普通なら事務所から黙殺されてしまうだろう
そうならなかったのは、もしかしたらダイダスの事務所が悪知恵を働かせ、別日対バンなら他者に益を与えず話題性になると、レギュレーションを歪めたのかもしれない

そしてこの様な対決は、いわばレコード会社間のメンツの問題となる
イメージするならば、もしレコード会社同士でドラマ主題歌を取り合う勝負をして負けたと宣伝されたら、そのイメージダウンから株価が下がり巨万の損失に繋がるかもしれない
恐ろしいほどにシビアな問題だ

もしかしたら同じレコード会社内の別レーベルかとも思うが、ダイダスから抜けた桃香を拾った経緯からもその可能性は低いだろう
また、トゲトゲのデビューが配信だったのでまだレコード会社の絡まないタイミングでの勝負である事も想定できるが、既に知名度もありドラマ企画に絡む事もできる状況で事務所がレコード会社と絡ま無いと言うことは起こり得るのだろうか
ともあれ、普通の事務所間ならこんな企画自体がありえないし、あるとしても得する側が提案をするだけで不利益な方は受けない筈だ

なので、本来ならば、三浦はこの知らせの電話を偶然仁菜に聞かれたとしても詳細を明かしてはいけない
事務所の中で判断すべきなのだ

2)喧嘩を受ける責任

三浦の芸能事務所は結構有名な所の筈だ
それなのに仁菜にこの情報を伝える決断をすぐしたのは、三浦がそれなりに強い権限を持たされているか、おっちょこちょいか、のいずれかだろう

恐らくは、三浦は優秀かつ熱い情熱の持ち主で、何事も本人達に判断を委ねたいという気持ちがあり、普段からそれが許される位の裁量を与えられた人なのだろうが、今回はもし失敗すればレコード会社から叱責させて首が飛ぶ位の危険な判断をしてしまったと言う、おっちょこちょいな所もあるのかもしれない

それに、もしこの情報をトゲトゲメンバーに伝えたとしても、それを受けるかどうかの判断は普通ならばトゲトゲ本人達には預けないだろう
事務所で正式に受けるとすれば流石に事務所に報告する筈で、その時点で事務所の判断は必要となる
それなのに最後まで本人達に判断を委ねて、結局この圧倒的に不利な勝負を受けている

これは、三浦の芸能事務所が徹底した実力主義の社風なので許されているのかもしれないが、レコード会社からはまず認められないし、もしまだ配信のみでレコード会社が絡まない隙をついてこの企画を通しているのだとしたら、そして負けてしまったら、現場責任者への叱責=引責辞任程度はあるかもしれない

つまり、この時点で三浦はトゲトゲに自身の未来を預けている可能性がある

それでも、事務所は例え負けても存在感を示して事務所やトゲトゲの宣伝になる可能性はあるとして認め、三浦に全てを委ねているのかもしれない

何にしても最終的な判断はトゲトゲ自身に委ねられ、その結果、偽りの対バンは成立する

これは、圧倒的に不利な状況に自らを追い込み、その結果として何も得ることはなく、自らの決断の責任を追及され、社会的地位を奪われ、心を折られ、何も残らない無惨な敗北者となる可能性もあるだろう

3)惨敗からの戦い

そして、配信は見事に惨敗の数字からスタートした
この数字は、トゲトゲの知名度からも明らかに低い数字であり、異常なレベルだ
一体何があったのか

まさか、ある日突然トゲトゲの人気が無くなったという事はないだろう
それに、事前に宣伝をしてないという事はないだろう
例え内容が悪くても、もう少し数は出るはずだ

となれば、何か想定外の事が起きていると考えないとこの状況は説明出来ない

サーバーが落ちていた、とか、仁菜が間違った所を見ている事も考えられるが、単にメタ的なドラマ作りの演出として、それを引きにするのは安い演出過ぎる
少なくとも明らかにトゲトゲに悪い事が起き、その結果としての数字であるべきだろう

そして原因として考えられる事が、上記で懸念していたレコード会社との関係だ

トゲトゲに二十万もの給料を出すアーティストとして考えているならば、やはり事務所はレコード会社との関係を持ち、その宣伝ルートを使い大々的に売り出そうとしていたはずだろう

しかし、レコード会社はこの分が悪い勝負を始めたトゲトゲとの関係を嫌い、配信の直前になって急遽トゲトゲから手を引いたのかもしれない

既にあったレーベル系列の宣伝窓口が全て削除され、残っているのは事務所HPからの入り口のみ
そんな状況であれば、この絶望的な数値は理解できる

トゲトゲは勝負に挑む前に、より苦しい状況に追い込まれたということなのかもしれない

4)仁菜の憂鬱

この突如発生した問題とは別に、このプロになる道を決めた頃から、仁菜の様子が少しおかしい

自宅に帰宅した時の物思いに耽る様子
ライブ成功後に自分の正しさを確認する様子

それは桃香がプロに戻る時にぐずぐずしていたのと反比例する様に、まるで桃香のプロへのマイナスの感情を仁菜が引き継いだ様な、何か一つの結論を出さないといけない様な類の憂いだ

その感情は、恐らく仁菜のロックの動機が「ダイダスを倒す」という事に対する疑念なのかもしれない

神社で桃香が「ダイダスを倒す」と言った時、仁菜が飛び付いて喜んでみせたのも、心の内の疑念をその言葉で否定してくれたからの様に思える
しかし、それでもその疑念は払拭できるものではないだろう

何故なら、仁菜は、ダイダスが自分達と同じ世間の荒波の中で戦っているロックなバンドであることをフェスで観ているからだ

今回の偽りの対バンにより、またダイダスとの対立軸ができた事により、その疑念をどう消化して良いか分からず、未だ憂いているのかもしれない

しかし、仁菜は仮想敵としてきたダイダスは同じロックな心を持つバンドだった
元友人のヒナも、父親と和解した今となっては、仁菜としても何処か許せるところが出て来ている様子が窺える
もうダイダスは心の中でトゲを出してまで戦う相手では無いのかもしれない

意義、絶えて 息、絶えた

「空白とカタルシス」は仁菜の中にあるロックで得たカタルシスが空白になることへの怯えであり、迷いを歌っている様に思う

仁菜にとってのロックは一体どこにあるのか

5)どうしようもない闇を照らせ

しかし、仁菜は、実はその答えの一端を既に自らの言葉にしている
それは桃香に対してだ

貴女の歌で生きようと思った人間もいる
大切なのは私たちの歌かどうか

ロックの化身たる仁菜は既にロックの本質を言葉にしている

そして、それは売上の勝ち負けとは全く関係ない

仁菜の今迄の負けん気の心から来るロックと売り上げがからむロックな勝負
それは同じ様でいて違うもの
心の内をそのまま歌にするのはロックだし、それが多くの人に届く様な歌である事もロックだが、実際にどれだけの人がそれを受け止めたかはロックとは関係ないからだ

数は後からついてくるが、その数は一人でも百万でもロックなのは変わらない
それは例えロックの神様が付いていようが、数には影響しないだろうという事にもなる

新曲の配信数を確認し、絶望的な数に愕然とする仁菜

しかし、それはどんな場面でもロックの真理であり、起こり得ることだ

この絶望的な数は、もしかしたらそのままダイダスとの偽りの対バンまで引き摺り、勝負には呆気なく破れるかもしれない

しかし、それであっても、それまでにトゲトゲのメンバー達がロックの本質に辿り着いていれば、この様な逆境も単なる未来への通過点と捉える事が出来るだろう

ガールズバンドクライ

ガールズバンドの
涙なのか
未来への咆哮なのか

最後の最後まで目が離せない

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