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女児向けアイドルアニメは、何を「強さ」として見せて来たのか?(Cパート)――『クリィミーマミ』から『プリチャン』まで

女児向けアイドルアニメの「強さ」に焦点を当ててきた本稿。
前半Bパートと続き、少し(?)間が空いてしまいましたがいよいよCパート、最終回です。

女児向けアイドルアニメの重要なポイントは次の3点であることは記述しました。
①主人公は視聴者に近い普通の少女
②不思議な力を行使して容姿が変身
③主人公がアイドルとして成長する
今回取り上げる作品群では、①~③は全て満たした上で各々の強みを発揮することになります。

00年代までは、アイドルを題材にした作品でも「アイドル業界の神秘性」「身近な恋愛」といった周縁の要素に関心を集めていた同ジャンル。
しかしプリキュアの登場によりそうした少女漫画的視点に重点を置く必要性が無くなり、さらにゲーム筐体とのリンク・作画技術の向上が「アイドルとしての技術」そのものの描写に意味を持たせました。

折しもAKB48グループの裾野の広がり、地下アイドルの登場など、女児向けコンテンツ以外でもアイドルは格段に身近な存在になりつつありました。
この連動性は勿論、偶然ではありません。その証拠に、今回取り上げる2012年以降のコンテンツは先行する一般層の流行を視聴者たる女児自身の要請に沿う形へとアレンジし、取り入れていくことになります。

個性のピラミッド構造・『アイカツ!』シリーズ、始まります!――多様性に隠れる絶対的「強さ」

2012年秋、新たなコンテンツが産声を上げます。「国民的アイドルオーディションゲーム」をキャッチフレーズとした『アイカツ!』です。

『アイカツ!』では、『プリリズ』において「プリズムジャンプ」という形で見せていた強さを「スペシャルアピール」という形で登場させるなど、ステージ演出自体は過去のコンテンツを忠実に継承していました。
また、カードを組み合わせてステージ衣装を纏う「②不思議な力を行使して容姿が変身」という要素が、『プリリズ』に乗じる形で違和感なく用いられるという、後発ならではの戦略も有していました。
しかしながら、本作を独自たらしめた要素は次の2点にあるといえます。
i.多種多様な魅力溢れるアイドル・楽曲の登場
ii.舞台のアイドル養成学園に内包される形で、自明とされた階層性

iは、一般向けコンテンツとして先行する『THE IDOLM@STER』を彷彿とさせます。
2011年にサービスを開始した『アイドルマスター シンデレラガールズ』からは、驚異的ともいえる「キャラ拡充路線」を取ることで「推しキャラが必ず一人はいる」ともいえる状況を作り出し、更なる広範なニーズを掘り起こすことに成功しました。
『アイカツ!』においても、アイドル未経験の主人公・星宮いちごの成長を中心としながらもキャラが「濃い」先輩・後輩アイドルが多数登場し、時にはエピソードの主役を担います。
さらに声優と歌唱担当を分離させることで、毎週のステージで披露される曲は多種多様なものとなりました。
①主人公は視聴者に近い普通の少女」「③主人公がアイドルとして成長する」という条件を押さえつつ、「推しポイント」を数多く用意した本作は、『プリキュア』シリーズを超える関連商品の売上を誇るほどの人気コンテンツとなりました。そのセールスポイントゆえに、視聴者たる女児層が様々な点に目移りしてしまう向きもありましたが、売上分散の恐れが生じるおもちゃ中心のコンテンツでは無かったからこそ踏み込めた「禁じ手」といえるのかもしれません。

ですが本当に恐ろしい所は、iで担保した「個性の多様さ」の前提にiiという「階層性」を設けることで、厳然たる「強さ」という概念をスムーズに作り上げたことではないでしょうか。
『アイカツ』シリーズは架空のアイドル養成学園が舞台です。登場人物にとってはアイドルの世界が全てですし、友情も個性もあくまでアイドルとしての存在が前提にあります(星宮いちご・霧矢あおい・友希あいねといった「アイドル界に入る前」が描かれるキャラもいますが、その描写に具体性は無く、またデビュー後はその時の生活や友人が描かれなくなります)。
つまり「①主人公は視聴者に近い普通の少女」という要素は「主人公が普通の学校生活を送っている」という点においてはその通りなのですが、そもそも学校自体は普通の性格でない、という事実は努めて意識されないよう巧妙に描かれています。よって、女児が身近なものとして感じる「多様性」はその実、いわば宝塚的な「階層性」(学年・ランキング・スターライトクイーン)を自明とすることで成り立ったわけです。
『プリリズ』では「実感しにくいもの」という観点から極力控えられた「『強さ』のピラミッド」が、『アイカツ!』では作品構造に埋め込まれる形で描写されました。星宮いちご(と視聴者)にとって神崎美月が、大空あかりにとっていちごがそれぞれ「強い」ことも、『アイカツスターズ!』で「S4」という存在があることも、それでいてヒエラルキーが目立たないのも、アイドルを学校という価値観に、学校をアイドルという世界に絞り込んだからに他なりません。

『アイマス』の影響を受け個性が多様化したアイドルを、アイドル界の収斂という形で描き心を掴んだ『アイカツ!』。対して先行する『プリリズ』も、同様に個性的なキャラクターを多数投入した『プリパラ』にリニューアルすることでこの流れへの対応を図ります。ですが、そのアプローチは『アイカツ!』とは真逆の、「アイドル界の裾野の広がり」とも言えるものでした。

「なりたい自分」になる、なれる、なろうとする『プリパラ』――なだらかな強さの果てにある「頂点」

トップランナーとしての立ち位置を譲った『プリティーリズム』シリーズ。
挽回を図るべく、2014年には『プリパラ』として新装開店します。

前年の『プリティーリズム・レインボーライブ』において登場人物を入れ替えた同シリーズ。さらにこれまでとは性質の違う新キャラ・りんねを象徴とし、「②不思議な力を行使して容姿が変身」の「不思議な力」を「プリズムワールド=複数の『プリリズ』世界を繋ぐ世界」というSF的機構として整理することで、同作はシリーズの継続を準備しました。
『プリパラ』は、そんな直接的継承を捨て、「プリズムワールド」の性格を大きく変える、すなわち発展的継承を行うことからスタートしました。
独立した「拡張現実」としての大幅な役割増大です。

『プリリズ』では、アイテムをコーデへ、異世界を異世界へ繋ぐ役割を果たしていた仮想空間。それが『プリパラ』では「第2の現実世界」となり、アイドル活動の全ては前作までの「プリズムワールド」、『プリパラ』では規模が拡充し街単位の「プリパラタウン」で行われるようになりました。
このことにより、「②不思議な力を行使して容姿が変身」が「なりたい自分への変身」という大きな意味をも持つようになります。どこにでもある容姿・身長・性格がアイドルの世界へ足を踏み入れた瞬間、アイドルのそれへと変身するのです。
事実、『プリパラ』における主人公・真中らぁらは小学生であり、視聴者層により近い存在になりました(参考)。それでありながら、その許可証ともなる「プリチケ」は筐体を遊ぶ視聴者にもキャラクターにも、ほぼ無条件で与えられます。「アイドルとしての成長」の前段階として、既に"一段飛ばし"で「アイドルとしての容姿」が獲得される。これは『クリィミーマミ』の持つ神秘性の構図が復活したとも言えるものでした。それと同時に『プリパラ』は、アイドル界の裾野を「いつもの自分=視聴者層」のすぐ隣りにまで拡大させます。『クリィミーマミ』や『アイカツ!』が視聴者をアイドル界に誘ったのに対し、『プリパラ』はアイドル界を視聴者側に接近させたのです。

さらに同作は、「アイドルとしての内面的成長」も描くことで共感を誘います。主人公のらぁらとユニットを組む南みれぃと北条そふぃはそれぞれアイドルとしての性格を意図的に演じており、また後に登場する月川ちりはアイドル世界内では性格が強制的に変わってしまうことに悩みます。ですがそうした悩みは否定や克服の対象とはされず、そうしたギャップが内面的に受け容れられるように、アイドルとして強くならなくてはならないという着地点として用いられます。

その着地点の先にも、紫京院ひびきといった絶対的に強い技術性を持ったアイドルが準備され、さらに物語は『プリパラ』のシステム自体(=女神ジュリィ・ジャニス)の救済へと向かいます。それに伴い、アイドルは最終的に救世主としての立場を担うことになります。
導入地点の「容姿」は視聴者に極めて卑近な位置でありながら、その後「内面」→「ライバル」→「世界そのもの」へと「強さ」を分かりやすく、刻んで配置すること。いわばスロープ状の展開が『プリパラ』をより魅力的なものとしました。

こうしてみると、「学校」をメインとした『アイカツ!』にせよ「拡張現実」を据えた『プリパラ』にせよ、視聴者層をいかにアイドル世界へ導くかがポイントとなっています。「身近」と「強さ」は本来対立するものであるからこそ、「アイドル」に付加する設定をどれだけ練られるか、その「+α」がますます重要性を増した証左だと感じます。

おわりに――現在の「2強」シリーズと今後の展望

最後に現在の状況についてのまとめと所見を。
2010年代にスタートした『アイカツ!シリーズ』と『プリティーシリーズ』は現在も継続中です。

前者では『アイカツスターズ』『アイカツフレンズ!』といったフレームのみ引き継いだ展開がなされていましたが、現在は『アイカツオンパレード!』という、シリーズ全体のクロスオーバー作品が放送中です。新キャラ・姫石らきが先述した『プリティーリズム・レインボーライブのりんねのような世界を繋ぐ役割をしていますが、登場人物全体を巻き込んだパラレルワールド観が前面に出ており、ある種閉鎖的な学校内の階層成分は影を潜めたお祭り企画となっています。果たして今後らきの立ち位置がどのように強化されていくのか、注目です。

後者では『キラッとプリ☆チャン』が放送中です。昨今低年齢化が進むYouTuber界をモデルにした「『やってみた』配信」をアイドル活動の主軸にすることで、視聴者層へのさらなる接近を図っています。一方で、本作の世界も『プリリズ』『プリパラ』とのリンクは図られていません(スターシステムは導入していますが、メインの女児層に働きかけるものではありません)。その点『プリキュア』シリーズと似た展開ですが、慣れ親しんだ屋号も完全に架け替える点は、より視聴者の入れ替えが激しくなることを見据えた視点の一つかもしれません。

長寿シリーズとなった『アイカツ!』『プリティーシリーズ』が、ともに過去の遺産の取捨選択・新規要素の取り込みを経て生き残りを図るのと並行し、新しい勢力もどんどん登場しています。
2015年よりコナミが筐体にて展開した『オトカドール』はまだアニメ化という弾を残している(と信じたい)状況ですし、2017年より放送されている『ガールズ×ヒロイン!シリーズ』(現在は『ひみつ×戦士 ファントミラージュ!』が放送中)は「少女が演じる実写特撮シリーズ」という特徴を活かし、演者が実際のアイドルグループとして活動することで視聴者と直接触れ合う場を設けました。

また、従来は間接的な影響に限定されてきた『ラブライブ!』シリーズ等の一般向けコンテンツが、低年齢にも浸透し始めています(このようなテレビ絵本も発売されています)。
既存の女児層とそこまで被ってはいません。が、アイカツやプリティーシリーズからブランクを経ずに見始めるとなると、女児向けアニメの作り方やストーリーも、今後より直接的に影響を受けたものになると考えられます。

さて、折しも時代は20年代に突入したところです。今後も女児向けアニメは視聴者の興味をキャッチしながら、新しい「アイドルの強さ」像を模索していくことと思います。絶え間なく世間の流行が移り変わるなかで次に何が流行るのか、正直予想もつきません。
しかし、アイドルの存在があこがれの対象であるのは揺るぎない事実です。私もまだ見ぬ作品を今後も楽しみつつ、一つの思いを貫き続けるでしょう。アイドルの輝きは永遠である、と!





         



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