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2024夏 アメリカ横断旅行 総括

3週間のアメリカ横断旅行を終えて極暑の日本に戻った。体感気温は52度のデスヴァレーやメスキート砂漠よりも暑い。クーラーの下でスイカと桃を食べたい。今夜の夕食は冷たい麦茶のお茶漬けだけで良い。

LA(Carifornia)からスタートして, Utah, Arizona, Nevada, Colorado, Tennessee, Alabama, Georgiaを走り抜け、最終地点Miami(Florida)までの行程。デンバー〜ナッシュビル以外はすべてレンタカー移動。宿も事前にブッキングせずに、気の向くまま安いモーテルに宿泊。こういう計画性のない旅は気楽で楽しい。ただ3週間でこの広いアメリカを横断するのはかなりタフだ。あと1週間あったらとも思った。でもスケジュールが変わったら、偶然巡り合った人々との出会いも訪れなかった訳であり、いま思えば、このタイトなスケジュールが最善だったということだろう。ぼくの体調を気遣いながらこの無計画な長旅を終始支えてくれた連れ合いには感謝の言葉もない。

8年前、ワシントンDCからニューオリンズ(Louisiana)まで、東部7州を旅した。その時以来、ぼくの中でアメリカはアップデートされていない。強いアメリカを取り戻すことをスローガンにトランプ大統領が誕生したのがちょうど8年前だから、この間アメリカ社会の何が変わったのか、何が変わらなかったのかを知る良いチャンスとなった。結論を先に言うと、アメリカの変化にかなり驚いたのである。感じたことを忘れないうちに書き留めることにする。

強いアメリカ

抽象的な言い方だけれども、アメリカはこの8年間ステディに上を目指し、今や筋肉隆々のマッチョな国になっていて、ひ弱で主体性のない日本との体力格差は決定的に広がった。日本はここ30年ゼロ〜マイナス成長を行き来しながら、無駄を落とし、無駄ではないことも縮小させ、国全体のサービスまでもが低下した。まあイギリスも長らく同じような状況だ。そんな国しか見てこなかったので、8年ぶりに訪れたアメリカが、日夜、生活の質の進歩とか技術革新に向けて励んでいることを知り、愕然とした。

具体的な事例を見てみよう。英国や欧州ほどではないものの、アメリカのキャッシュレス化はかなりのスピードで進展した。当然日本よりも進んでいる。しかしキャッシュ社会は押しやられるのかと思えば、さにあらず。スーパー、ガソリンスタンド、コンビニはもちろんのこと、小さなショップやモーテルにもATMが増設され、キャッシュレス社会のマイノリティとなった高齢者や貧困層をしっかりサポートしている。翻って、日本のキャッシュレス化は遅々として進まない。それなのに、銀行がサービスの質を切り捨てて合理化を競う時代にATMも支店の数も減っている。アメリカと逆行して、日本はますます「不便」に向かって真っしぐら。40年前のお客様第一主義を掲げる銀行を知る者としては忸怩たる思いだ。


サンフランシスコ では市内に電動無人タクシーが走り回っていた。まだまだ普及率は20~30%程度のようだが、AIを搭載していつも安全ドライブ、どんな悪天候でも文句も言わずに走り、しかも過度なチップを要求しない無人タクシーは、新時代になくてはならないサービスになっていくはずだ。マイアミのWhole Food Market(健康志向のスーパーマーケット)では、近隣へのデリバリーに、これまた無人デリバリーカートが走り回っていた。宅急便の未来の姿。もはや人間とロボットが街中を共存して歩く時代に差し掛かっている。そして、もっとも注目すべきは電気自動車の台頭。トラックも電気化。乗用車だけでなく、Tesla Cyber TruckやRivian RT1のような近未来デザインのトラックがビュンビュン走っているではないか。度肝を抜かされた。思わず車好きの兄に連絡してしまった。駐車場には最早ゲートは無く、支払いはQRコードを読み込むだけ。スマホの中で処理される仕組みだ。これは早晩日本でも導入されるだろう。

LA、デンバー、ナッシュビル、アトランタ、マイアミ。都市部にはあちこちに巨大クレーンが立ち並び、高層ビル建築ラッシュは終わりが見えない。マイアミのようなリゾート地ではタワマン型の高級コンドミニアムが大人気。もうひとつ、今回ちょっとびっくりしたのは、どこの州でも、都市部の近郊に数百戸の戸建て集合住宅が立ち並ぶエリアが出現していることだ。色からサイズまで寸分違わぬ建売住宅は個性を好むアメリカ人には需要がない。おそらく低所得層あるいは移民を救済する住宅政策の一環なのだろう。

日本や英国が地球が回っているのを感じないくらいゆっくりと社会が動いているのに、アメリカでは一貫して文明の進歩が感じられる。それが良いのか悪いのかは別として、そのことを体感できたことは今回の旅の大きな成果だった。


拡がる格差社会

ネガティブな側面もたくさん見た。8年前と比べて、ともかく金持ちがますます裕福になった印象だ。西はメキシカン、東はキューバン、プエルトリカン、そして中南部は相変わらずインディアン集落が近代化とは無縁な生活をしている。ともかく移民が底辺層に入り込んだ結果、人種を問わず、社会に適合できない人たちがホームレスとなって急増中。貧富の格差は以前に増して広がった。

強いアメリカはこの8年で着実に進行した。富める者はよりリッチな生活を目指し、弱者救済に目を向けようとしない。それで良しと信じているきらいがあると感じる。英国的ノブリスオブリージュ的精神は米国では見かけない。少々、想像力逞しくなりすぎたが、フリーウェイでノロい普通車に向けてヒステリックにクラクションを鳴らしながら蹴散らして走る高級大型車。マイアミでは、華やかな高級リゾートのすぐ真裏にタムロするホームレスたちがどこから取ってきたのか公園でニワトリを飼いながら生活している。カリフォルニアのメキシコ人は集落を形成して困窮に耐えていたし、同じ光景はユタ州やアラバマ州のインディアン集落も同様。ほとんど何も手がつけられていない様子。フロリダにはキューバ人、プエルトリカンもまた同様。つまり貧富の格差はますます開きつつある。トランプ氏の影響で、排他的利己主義を良しとする考え方がアメリカ中に蔓延ってしまったとすれば、恐ろしいことだ。

どうなるアメリカ社会

日本はそんなアメリカに追いつこうとする必要もないし、経済成長率という単なる数字を他国と競い合う必要もない。弱者を蹴散らすのではなくて、優しく共存する道を探そうよ。他人への思いやりや地球環境への配慮を優先する。そうした慎ましい生活を志向することはできないものだろうか。豊富な資源にものを言って、砂漠を開拓してラスベガスを作り、ジャングルを切り拓いてマイヤミを作る。環境破壊を今も続けているのが現代のアメリカ。アメリカ人のフロンティア精神と排他的トランプ主義がマッチした先にあるものは、強くて恐ろしいアメリカ。試練はこれからのような気がする。たかだか3週間で何がわかるというお叱りの言葉を受けそうだが、こういう直感はけっこう当たっているものである。でも誤解のないように。ぼくはアメリカが大好きです。だから良い国になってほしい。

大統領選挙(おまけ)

今回歩いてきた州はスタートラインのカリフォルニア州を除いてトランプ帝国といわれる州である。考えてみれば8年前に訪問した州もほぼ共和党支持基盤の州だった。米国大統領選挙が気になる方もいらっしゃると思う。どこの雑誌社も放送局もこの旅に金を出してくれなかったので、無責任かつ大胆に、来たる大統領選挙を占ってみようと思う。

出会った人々にときどき大統領選の話題を振ってみた。アメリカ人は政治や思想を語ることにオープンだから、聞いていないことまで教えてくれる。概して言えば、トランプ支持層の多い州でさえもトランプ氏サポートに陰りが出てきているという印象を持った。トランプ氏を熱烈に支持する人がいると、周囲の人々がその意見に親指を下げてブーイングする。そんな感じだ。しかしながらハリス氏について、人々は口を揃えてまだ実態がわからないという。強くハリス氏を押す意見は少ない。期待に反して、あまり盛り上がらない選挙になりそうだ。感覚的にはトランプ州における共和党、民主党勢力は拮抗して50:50 。このままでいくと投票率はそれほど伸びないだろう。

が、そのような中で、先にも書いたとおり、アメリカ人とくに富裕層の保守化マッチョ化がとても気になる。強いアメリカを取り戻すと言って舞台に上がったトランプ大統領は、リベラルをモットーとするインテリ層にも悪魔の誘惑を投げかけている。もしそれが事実であるならば、この8年間で、アメリカ富裕層〜アッパーミドルの中に「隠れトランプ信奉者」を相当量生み出してきたのではないかと推察されるのである。いやな予感がする。

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