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#59 ニオイの思い出/くろさわかな

【往復書簡 #58 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈いつでも私は14歳〉
水曜日:泖〈カレー食べたい〉
金曜日:くろさわかな〈好きな人のニオイ〉

好きな人のニオイ

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今回の内容はノロケっちゃあノロケっぽいし「人の匂いをかぐ」という読む人によってはあまり気持ちの良くない内容かもしれません。その場合は最後まで一気にスクロールして、追伸だけ読んでいただきスパイシーな気持ちになっていただければと思います。
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好意を寄せていた人のTシャツの匂いがたまらなく好きだったという及川さんの気持ち、とてもよくわかります。わたしも旦那の匂いが好きで、お付き合いしたてのころは着ていた服を貸してもらっていました。

当時の旦那はタバコを吸っていたので、一般的な評価としては「タバコ臭い」だと思います。でも19歳の自分はタバコへの無邪気な憧れがあって(しかも彼が吸っていたのが「探せば買えるけどあんまり売っていないから見つけると嬉しい」くらいのちょっこっとだけ珍しい銘柄だったのもツボ。JPSっていうんですけど。)、それも含めて好きだったんですよね。タバコのかっこよさが全面にあるのに、その奥にある何とも言えない安心する匂い。会えない時間に寂しくなると、くんくんしてみたり着てみたりして、心を落ち着かせていました。

以前「『会話』で不足した分を物理的に『手をつなぐ』ことで補う」という話をかきましたが、「匂いをかぐ」というのもそれなのかもしれません。物理的に会話ができなかったり、言葉や態度では伝わってこないことを、匂いをかぐことで取り込む。自分を納得させるための儀式というか。相手がそこにいないから、一見一方通行の行為のようにも思えるけど、「匂いをかぎたいと思う人が嫌がらずにかがせてくれる」という事実から始まればそうじゃない。だから安心できるんじゃないかなと思います。

子どもができてから旦那はタバコをやめた(本人は休んでいるだけだと言っているけど)ので、もうあの頃のような匂いはしません。服はまとめて洗濯するからと柔軟剤の匂いもわたしと一緒。同じ屋根の下でまあまあ健康的に暮らせているから「会えない時間に不安になる」ことも全くありません。それでも変わらず定期的に匂いをかぎたくなる不思議。やっぱり匂いの成分がどうこうとかじゃないんだろうなあ。

そして定期的にかいでいると、旦那から一瞬だけ「JPSの匂い」を感じることがあって。一瞬だけだから本当に気のせいというか脳みそがバグってしまっているのですが、その匂いをかぐとふと昔のことを思い出します。記憶(行為)から匂いが戻って、さらにその脳みそが作り出した匂いから別な記憶が戻るという連鎖反応。ニオイって凄い。

そういえば娘もわたしの匂いをよくかぎに来ます。大抵はたまごやきの匂いも洗濯の匂いもしない、会社の匂い(コーヒーとなにかが混ざった匂い)がするらしいです。彼女が大人になったとき、思い出のニオイになるかしら。

くろさわかな


追伸。

「カレー」って、字面だけで鼻の奥にスパイシーな香りがしてくるから不思議ですね。なぜかカレーのスパイスをフライパンでゴリゴリ炒めている映像まで頭の中をよぎります。しかし、カレーのスパイスをフライパンで炒めたことは人生で一度もありません。これは一体誰の記憶なんでしょうね…。

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