見出し画像

#62 秋の幸せ/くろさわかな

【往復書簡 #61 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈ねえもっとよく見せて〉
水曜日:泖〈心にぽっかり空いた穴をふさぐ〉
金曜日:くろさわかな〈偶然がたくさん〉

偶然がたくさん

ローカルフリーペーパーに「はらこ飯」の特集が載ると、秋だなあと感じます。はらこ飯食べたいなあ。

実りの秋。食欲の秋。スポーツの秋。芸術の秋。
私は特に作物を育ててもいないし、欠かさず食べる秋の食べ物もないし、スポーツはもちろん芸術に勤しむといったことも特段ありませんが、秋のもつ「つかず離れず」感が好きです。一歩引いた場所から、誰でもいつでも楽しんでもらっていいですからね、と見守っているような風情がある気がします。

夏がエネルギッシュだから、余計そう感じるのかもしれません。
夏を擬人化するとしたら、元気いっぱい小学生のやんちゃ坊主。ハロウィンで渋谷を闊歩する若者たち。ハーレーを乗り回すパワフルな高齢者。キラキラしていてギンギンしていて開放的。パーティー大好き。仲間大好き。ワンピーーース!……というイメージ。そのテンションに混ざるとすこぶる楽しいけど、その後の疲労も倍々の倍。急上昇急降下のジェットコースターみたいな季節だなあと思います。

一方、秋はまるで執事のようにそこに佇んでいるというか。お腹が空いた? 美味しいものご用意してますよ。体を動かしたい? 大丈夫、最適な気候にしておきましたよ。創作活動? 虫たちのBGMでも流しましょうか。秋の夜は長いですからね。 何もしたくない? それも結構。のんびりいきましょう。冬になるまではお側にいますから、どうぞお声がけください。
そんなふうに、いろいろなことを準備していてくれます。

だからなのか、私には「秋は絶対これをやる・これをやらなくちゃ」という不変の欲求が一切ないのです。毎年、「なんか色々準備してくれてるから気が向いたらなにかやろう」というスタンスです。はらこ飯だって紅葉だって、積極的に行くぞ行くぞと計画することはありません。なんとなく出かけたら紅葉が綺麗だったとか、偶然はらこ飯があったから食べたとか、そういう偶然の出会いで十分幸せ。秋って、偶然がたくさん転がっていませんか。

くろさわかな


追伸。子供の頃、親がときどき仙台駅で売ってるはらこ飯を買ってきてくれて、その日はすごくスペシャルな気持ちになっていました。

これに入ってた茶色い漬物が好きだったんですよねえ…。だけどそれがなんの漬物だったのかはわからないんです。今は別なお漬物に変わってしまっているみたいだし、ときどき思い出しては気になっています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?