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加藤千恵『ラジオラジオラジオ!』の感想

 図書館で借りた本である。ティーン向けの棚に並んだ書籍で、なんか芸術とか美術とか、何者かになりたいなれない、みたいなのに飢えていたので手に取った。同じ理由で有川浩『シアター!』も借りた。

1.『ラジオラジオラジオ!』

あらすじ『ラジオラジオラジオ!』
ラジオ番組を放送している高校生の華菜と智香。無償であっても楽しく放送していた二人だったが、智香が受験を理由に「お休みしたい」と言い出す。大人でも子供でもない17歳が揺れ動く青春物語。

 あんまりおもしろくなかった。読んでいる最中、ちょっと「これは何の話なんだ?」と思っていたら、思っていたまま終わってしまった。文体は読みやすい。さらっと読める。

 タイトルはラジオだけれど、主人公は別にラジオが好きじゃなくて、何者かになる手段としてラジオを選んだだけだった。あんまり勉強せずとも4年制の私大に行けてしまう裕福で浅はかな主人公(わりと自分に重なって痛いな)が、ここではなくて東京に行ったら変われる!!! と思い込んでいるだけの話だった。

 友人との喧嘩や、よくラジオを聞いてくれるリスナーが結婚するという衝撃。「ラジオとテレビは違うよ、ラジオのほうが近い」というアドバイスで生放送に踏み切る。智香にも、喧嘩をした友人にも、リスナーにも直に届けるために。初めての生放送で、OPとEDを流す、というエモいエンドだった。しかし、智香がラジオをやめるという話が出てくるのに比べた圧縮率が異常で、さらりと流れてしまっていた気がした。最初は智香がラジオをやめることが物語の転かと思っていたのだが、これはどちらかというと起に近く、本当の転は「友人の失恋をネタにした」という場面であった。自分の浅はかさを思い知る場面である。

 エモいオチではあったと思うんだけど、ここで終わり!?と思った。きっと誰かに伝えるという本当の意味を知れた主人公だったけど、これから先、何者にも成れないということにもっともっと絶望するフェーズが挟まるのでは? と思って、やっぱり、「ここで終わり!?」と思った。

2.『青と赤の物語』

あらすじ『青と赤の物語』
物語が禁止された世界で、少年と少女は出会った。いつも会う図書館の地下、そこには物語があるという。

 同時収録の話である。これこそ本当に「何の話???」と思った。もしかして表現の自由と図書館とみたいな話が掲載雑誌でテーマとして掲げられているのかと思ったが、そんなことはなかった。

 悪影響だから物語そのものを規制された未来、というディストピア的なSF小説。要するに物語は人を豊かにしますよ、という話だった。

 問題は主人公たちの現状である。大人はすぐに青少年の絶望をいじめと虐待に絡める。いじめられていて自殺したい、虐待していて親を殺したい。単純なことでしかないけれど、そこまで思いつめる人間が本当に物語を読んだだけで救われるのか? 話はそこまで思いつめる人間が回復できる物語ってすごいんだ! でしかないけど、そこまで話を大きくされると逆に薄っぺらくなってしまわない? と思う。伏線として赤と青が苦しんでいるという描写もなかったので、突然知らされる設定に「え~説明乙」と思うしかなかった。

3.おわり

 こうして感想を書いていると出版物にケチをつけるだけで、何者かになりたいと思っても結局成れない自分を表現しているようで嫌だな。わたしも何かになりたいティーンエイジャーなので、ただ管を巻くだけで終わりたくないです。

 固有名詞が頻発すると、現実と地続きっぽさが強調されるのだな、と感じた。この世の何処かに存在する彼女たち、みたいな感が。

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