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マウス と いのち

ケージの中で、床敷を掘るマウス。

心地よさそうに眠る、マウス。

生まれたばかりにはなかったその立派な毛並み、大きくなったなあ。

暖かいかあ、ごはんはおいしいかあ


マウスは研究対象。

動物実験の倫理に基づいて、必要最小限の数と、最低限の苦痛で目的を達しなければならない。

ペットではない。割り切って、クールでドライに。

麻酔で眠らせるとき、しっぽをつかんだとき、

足掻き、逃れようとする。

必死に生を追い求める。


僕らはそんなマウスに形式的に番号を割り当てる。

遺伝子、性別、週齢で選別する。

あくまでドライ、クールに。


研究のために身につけなければならない技術がある。

解剖

生物系ならマウスの解剖は必須の人も多いだろう。

実験の検証、実験のための準備、あるゆる目的で解剖する。


初めて、自分の手でそのお腹を開いたとき、教科書で見てきたものが眼前にあることに感動した。

真っ赤な血が流れていた。

吐き気を催すことはなかった。むしろ少しワクワクしていた。

けれど、そんな僕をすこし遠くでみている自分がいた気がした。


2匹目、3匹目と解剖するうちに、感動も薄れ、それはただの作業になっていく。

遠くにいたはずの自分も、見えなくなっていった。


自分の技術や知識の獲得、研究の成果を得るためにマウスの生を奪う。

マウスは僕の中で、生き物から対象物に成り下がっていく。


生き物から食べ物へとなり下がっていく、魚や肉と同じなのかもしれない。

同じだ。普通だ。


それでも、魚や肉では感じなかったものを感じている。

目の前に確かにあった生を、僕の手で奪うこと。



生と死の際をみること。少しだけ背中が寒い。


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