別冊・医学のあゆみ p81-87を読んで

 ワクチン接種率を高めるにはワクチンの安全性と有効性についての的な情報発信が必要である。 子宮頸がんワクチン定期接種は、積極的推奨が再開されたが、中止から8年経ってのことであった。また、COVID-19ワクチン接種への安全性と有効性への懸念から未接種者は一定数いる。ワクチンデータベースによるワクチンの安全性と有効性の検証が期待されている。

 ワクチンデータベースの現状の課題と、解決に向け新たなワクチンデータベースVenus studyの開発について述べられている。内容についてまとめた。

 ワクチンの情報収集システムには受動的サーベイランス、能動的サーベイランスがある。日本ではすでに受動的サーベイランスは確立しているが、この場合摂取群に関する安全性・有効性は検証できるも、非摂取群に関するものは得られない。能動的サーベイランスでは摂取・日摂取群双方の安全性・有効性検証に要するデータが得られる、また有害事象に関してはレセプトデータを活用することが有用である。
 この、能動的サーベイランスを用いたワクチンデータベースの構築が望まれるがいくつかの課題があり、この課題をクリアすべく著者らはワクチンデータベース開発研究Venus studyを行っている。
課題①:予防接種台帳とレセプトデータのリンク
自治体の保管する「予防接種台帳」と、保険者が所有する「レセプトデータ」では個人を識別する情報・記号が異なるためデータを一致できない場合もある。
課題②:個人情報の扱い
解析を目的として学術機関外にデータを持ち出す場合、個人情報の変換をするが、レセプトデータは情報量が多く複雑であるためプログラム処理が必要である。また情報の取り扱いには慎重な対応を要する。
課題③:各部署からの協力
予防接種台帳には非接種者の情報は含まれない、また小児・高齢者など年齢層ごとに接種者情報の自治体内での取り扱い課が異なることから複数部署への協力依頼が必要となる。つまり、データ取得に手間を要する。

能動的サーベイランスの構築においては、情報取得手段・リンク方法と情報保護が課題となっている。Venus studyでの取り組みとして、課題①に対して両者のリンク割合の検証を施行している。65歳以上肺炎球菌ワクチン接種者における予防接種台帳とレセプトデータの合致率を調べ、65歳~75歳未満は国民健康保険と社会保険が混在し70.8%であったが、全てが後期高齢者医療制度に加入する75歳以上では95.4%で高い合致率であったと述べている。ただし、医療保険の種類によってレセプトデータ所有者が異なるため、解析対象者は国民健康保険・後期高齢者に限定された。

予防接種有効性の評価を、75歳以上のインフルエンザワクチン接種者のデータを解析し行った。インフルエンザワクチンによる肺炎での入院を28.9%減少できることが明らかとなった。また、政府のCOVID-19ワクチン接種台帳Record System(VRS)、保健所所有の発症届システムHER-SYS、医療レセプトデータをリンクさせたCOVID-19ワクチンデータベースを著者らは独自に開発している。ワクチンデータベースにより安全性の評価もできると述べている。

今後の課題としては、レセプトデータ所有者が異なることで解析対象者が限定される、定期摂取する小児のデータが少ないことである。

Venus studyはワクチンの有効性・安全性を検証できるものであり、ワクチン接種に関する課題解決に有用なものである。

臨床現場でワクチン接種に携わる者として、ワクチン接種者のデータの入力を行い、それを元に得られたデータベースの解析結果を解釈し伝えることが求められていると考えた。



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