天使の取り分

樽につめた酒を
熟成させていると
揮発して目減りする分がある

家のぐるりには
マンションがいっぱい
いまでは空き部屋だらけ

たっぷりつめたはずが
開ける頃には
ゆすればジャプジャプ
空間を酒が踊る音がする

目の前でとまるコミュニティバス
平出町ふれあいセンター
まで一直線だ

この目減りを
天使の取り分というそうだ
熟成が長期にわたれば
それなりの量が喪われることになる

さぁ
今日はみんなでバレーボールをしましょうね
みんな、で、ポンポン
上手についてくださいね

分け前にうるさい天使は
父から
すでにずいぶんな量を
取り分としてもっていったらしい

今日はお雛様の日ですから
今日のおやつは
あられと
三色ゼリーです

父はもう私の名をさえ
呼ばなくなった
このまま熟成がすすんで
やがて父は最後の一滴になるのだろう

今日もしずかに過ごしてくれましたよ
ありがとうございます
いつもありがとうございます
昔は物知りだっけど、気難しい人だったんです
いつもありがとうございます

人生の起伏、陰影のすべてが
濃縮された
真珠のような一滴になるのだろう