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怪盗るぽんの回答 11

堂々たる予告に始まり、警察当局の総力をむこうに回して、ときにはその姿をあきらかにしながら、ついに紙一重で追跡をかわしきってシゴトをこなし、爽やかな傲岸でもって権力と権威とに後ろ足で砂をひっかけて、風と去る。これが義賊である。怪盗である。るぽんは兄たちと共にそう心がけていた。いや、心がけというところながら、その優秀な兄たちにはるかに立ち勝ってそう考えていた。
惜しむらくは、志余って技倆は不足していた。

るぽんは目の前の刑事の手つきを呆然と眺めていた。刑事はまるでトランプのマジックのように次から次へと写真や証言をつみかさねていく。おちついてひとつひとつを検証すれば覆すことはもちろん不可能ではない。しかし量は質を凌駕する。
これがるぴんであれば、こんなやり方は通用しないだろう。何度も死線をくぐりぬけてきた兄の頼もしい姿をるぽんは考えた。兄ならばどうしたであろうか、と思案した。
しかしそれは兄の考えを参考にしようとするかに見せた、ただの逃避だった。こういった場面ではもう自分自身の胆力の他に頼れるものなどあるはずがないのだ。兄ならば、兄ならば、とるぽんは考えるのだが、ついに兄ならざる自分を薄暗い取り調べ室に見いだし、それから絶望的な状況をあらためて確認した。やがて、るぽんの表情から演技が消え、意地が失せた。
数の暴力は当局のもくろみ通り、どこか甘いところのあるるぽんの心を完全にくじくことに成功した。

るぽんは刑事に促されるまま、所定の位置に署名をした。

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