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note「女子プロ野球クライシス」28


予想外の情報公開

 


2019年11月1日。
 

依然、
病状は回復していないのですが
慣れとは怖いもので、

この身体で動くことのコツを覚えていった私は
オフィスに行く回数を増やしていました。
 

そんな中、
明石エグゼクティブマネージャーから

「選手たちのありがとうパーティーと
退団試合は11月8日になりました」
 
との報告を受けました。

「じゃあ、その日は
選手たちを盛大に送りだしてあげよう。
全従業員に試合に来てくれるよう
伝えておいてください。

一般のファンにも来てもらえるように、
当日球場は無料開放にしよう。

よろしくお願いします」
 

と伝え私は別の仕事に戻りました。
 

18時ごろ、

仕事を終えた私は
久しぶりに外食をしようと思い、
何度か行ったことのある
もんじゃ焼きの店に入りました。

お気に入りのカレーもんじゃを注文し、
鉄板の上に土手をつくり
出汁を流し込みました。
 

できあがりを待つ間、

いつもの習慣で
野球関連のニュースを見ていると、

私の目に
とんでもない情報が飛び込んできました。

 

Yahoo! ニュース

《女子プロ野球が36選手の退団発表、所属の半数以上 加藤優や里綾実らも…》
11/1(金)17:47配信

 

何事か、
と思いました。
 

退団選手たちの意思を確認したのが
10月17日、

諸々の手続きや
気持ちの最終確認を終えたのが
10月24日、

退団試合の日程が決まったのが、
今日のお昼ごろ。
 

なぜこの情報が、
ネットニュースになっているのか。
 

私は店を飛びだし
最高執行責任者の林健太郎くんに
電話をしました。


「はい、林です。
社長どうなさいましたか」

「すぐにネットニュースで
女子プロ野球を調べて。
公表はまだのはずなんだけど、
退団選手のことがもうニュースになっている。状況を調べてくれる?」

「……見ました。すぐ確認します!」

 
一度電話が切れました。

私はソワソワして店の入り口の前を
行ったり来たりしていました。
 


数分後、林くんから電話がありました。

「社長、確認が取れました! 
女子プロ野球リーグの公式ホームページに
《退団選手発表・指導者退任について》
というリリースがあります」

「そんなこと、してとも言っていないし、
やるとも聞いていない……」

「ホームページ担当にすぐ連絡します!」
 
また電話が切れました。


「何やってるんだ……」
 

思わず口から漏れてしまいました。


次の林くんからの連絡はすぐにありました。

「担当者、
今日はもう帰ってしまったそうです。
ちなみに、公式ホームページには
《退団試合開催のお知らせ》
というリリースもありました」
 

絶句しました。
 

前提が、
ちゃんと伝わっていなかったんだな、
と思いました。

「あぁ……そう……ありがとう林くん。
もし何かわかったらすぐに教えてほしい……」
 
電話を切り、
もう一度ネット上でニュースを調べました。
 
すでにいくつかのメディアが、
同じ内容のニュースを広めていました。

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すごい時代だな、と改めて思いました。
 

店に入り席に戻ると、
鉄板の上でもんじゃ焼きが
真っ黒に焦げていました。
 
ブスブスと、
黒い焦げが煙を吐いていました。



混乱の原因

 

2019年11月5日。
 

もやもやしたまま連休を過ごし、
休み明けにオフィスに行くと、
早速松浪くんが連絡をくれました。

「社長、林さんから聞きました。
退団ニュース配信の件、
私も調べていますので」
 

彼は本当に優秀な人で、
即行動をしてくれます。
 

私は少し安心して、
その後の会議に移ることができました。
 

午前中は人事に関わる組織会議、
午後はコンテンツ制作に関しての
打ち合わせでした。
 

そんなとき、

例の書類が、
私の手元に届いたのです。


文藝春秋
株式会社わかさ生活 
代表取締役 ⻆谷建耀知 様
 

《質問状》

 2019年11月7日。
『週刊文春2019年11月14日号』が
発売されました。

《36人退団 
あだ名は〝首領さま〟
スポンサー社長が支配
女子プロ野球選手を悩ませた
「女子高生制服撮影会」》

 

文春の記事内容が私の目に入ったのは、
8時30分ごろのことでした。

翌日の退団選手たちの
「ありがとうパーティー」と
退団試合に出席するため、
東京から新幹線に乗っていました。
 

週刊誌の記事の特性、
というものは、

素人なりに知っていたつもりでしたが、
いざ直接自分に関わることとなると、
いかに認識が浅かったかを思い知りました。

当事者にならなければ理解できないことで、
この衝撃は、思いのほか心を重くしました。
誰かがこのようなことを言っているかもしれない、という事実に悲しみを覚えました。
 

同時に、記事にあるような、
いい加減な想いでやっていたら、

100億円もだすものか、

とも思いました。

それならアイドルグループに
100億円投資して
野球をさせた方が
きっと何倍も注目されるでしょう。
 

京都に向かう
新幹線の狭いシートに座りながら、
私は行き場のない怒りと
悲しさを抑えることに必死でした。
 

その日、

女子プロ野球リーグの彦惣理事長と
前理事長の片桐さんが私のもとを訪れました。
 

彦惣理事長は強張った顔で私に言いました。

「社長、本当に申し訳ございません。

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