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統計解析手法の事前審査について

作成者:栗林 航
査読者:江花 有亮
2023年10月6日 Ver.1.0

【はじめに】

 研究計画書における「研究方法」欄の記述,とりわけ統計解析手法の事前審査にお悩みの倫理審査委員会事務局の皆樣・・・

お待たせしました。申し訳ありません。統計解析は私もさっぱりです。


・・・そんな訳で,今回は

・統計解析手法のチェック方針(事務局でどこまで見るか,どうチェックするか)

というお悩みに対し,

「そんな細かい事は(委員に任せれば)いいんだよ!」

と悟った,私なりの意見を述べさせていただきます。

【臨床研究の意義】

 臨床研究というのは,診療のために来院された患者さんや,善意のボランティアから得られた要配慮個人情報を利用して,将来の医学に役立てるための知識を得ようとするものです。

つまり,研究者には,研究対象者の「善意」に対する責任があり,

「やってみたけど方法が間違っていたみたいでダメでした」

「論文化とかは全然考えていなくて,とりあえず学会発表ができれば良いので,有意差出るまでいろんな解析を試してみます」

なんていう研究計画書は許されません。

 ・・・そう思っていた時代が私にもありました。

(基本はもちろんそうなのですが,研究のタイプによりけりだと思うのです。)

【研究のタイプ】

1.観察研究(探索型研究)

 探索型研究とは,検証型研究に用いるための仮説(○○の原因は××なのではないか)を見つけるためのものなので,データを総当たり的に比較し,P値や信頼区間(CI)を用いて

「○○に影響がありそうなもの」
を見つけていくものです。

その他,
「データの平均値や総数などを網羅するだけ(記述統計)」
というものも含まれます。

こういった研究であれば
(実際,私の担当する委員会にはこのタイプの申請が一番多いです),

「まぁ,探索型研究だし,そこまで厳しく書かせるのは無理があるよね」
と考えて良いのではないでしょうか
(無理矢理書かせると冒頭の4コマみたいな事態に陥ります)。

2.観察研究(検証型研究)

 これが,検証型研究(「○○の原因は××である」という仮説を明らかにする研究)であれば,話は少し違ってきます。

研究を通じて
「○○の原因は××である」
という「結論(一般化された知識)」を得ようとするからには,

「別の研究者が同じようなデータを用いて,同じ(かつ,正しい)方法で解析を行ったところ,同じ結論が導き出される」必要があります(再現性)。

 このタイプでは,再現性を確保する観点からも,研究計画書の作成にあたってはPICO(観察研究ではPECO)を用いて日常の疑問(クリニカル・クエスチョン)を学術的問い(リサーチ・クエスチョン)に構造化しなければなりません(探索的研究に比べてちょっと厳格)。

3.介入研究

 治験や特定臨床研究のような「侵襲を伴う介入研究」であれば,さらに厳格な記述が求められます。

「研究」という未知の行為(もしかしたら想定外の害があるかもしれない)を実施するにあたり,

「研究対象者数(リスクを被る人)はできるだけ少なくする」

と同時に,

「正しい結果(ベネフィット)を得るのに必要な人数」

である必要もあります。

 下記は,統計解析ソフトEZRにおけるサンプルサイズ(どれだけの人数を集めれば正しい結果が得られるか)を計算する画面です。

【図1】EZRにおける必要サンプルサイズ計算の選択肢

 サンプルサイズ計算には,
・帰無仮説(図1の選択肢)
・有意水準(0.05とすることが多い)
・検出力(0.8とすることが多い)
・効果量(介入群と対照群の差。先行研究を基に設定される)

といった情報が必要です。

「20人くらいなら集められそうだから,そうなるような組み合わせ無いかな」

 なんていうのはダメですが,実際のところ,サンプルサイズ計算方法の可否を事務局でチェックするのは不可能です(やってるよ!という方いらっしゃったら申し訳ありません)。

 私としては,
サンプルサイズ計算も含め統計解析手法の可否は委員(もしくは統計解析の専門家)の判断に委ねる(丸投げ,という訳ではなく,事務局としては,委員が判断できるような情報が記載されているかどうかのチェックまでに留める)
というのが落としどころではないかと考えています。

 例えば,介入研究の場合

サンプルサイズ設定根拠が書いてあるか
・参考文献として先行研究が提示されているか
・主要評価項目が明記されているか

のみ確認するとすれば・・・どうです?やれそうな気がしてきませんか?

【おわりに】

 今回,研究計画書における研究方法(統計解析手法)のチェックの方針について,私なりの考えを示しましたが,
どうも「統計」というものには3つの流派があり,

①     頻度主義(今回扱った統計学的検定に係るもの)
②     ベイズ主義(AI等を用いた統計解析手法)
③     オペレーションズリサーチ(ROC曲線を用いるもの)

それぞれ考え方が「全く」異なるそうです。
(正直,ここまで来ると完全にお手上げですよね。)

 以上,研究計画書の事前審査において

・統計解析手法の詳細なチェックまではやらない(無理がある)

・(委員が適正に判断できるよう)必要な情報が記述されているかのチェッ 
クに留める

という対応をお薦めする理由をご紹介しました。




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