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オプトアウトについて

著者:福田 美也子
査読者:大﨑 理海
2024年 4月26日  Ver1.0(初版)

オプトアウトってなに?

通常、臨床研究は文書もしくは口頭で十分な説明を行い、患者様からの同意(インフォームド・コンセント)を得て行われますが(これをオプトインという)、一人ずつ文書で説明を行い、同意を得る代わりに、国が定めた倫理指針(「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(以下生命科学・医学系指針)に基づき、研究の目的を含めて、研究の実施について情報を①研究対象者等に通知又は②研究対象者等が容易に知り得る状態に置き研究が実施又は継続されることについて、③研究対象者等が拒否できる機会を保障する方法として「オプトアウト」があります。

NCNP倫理委員会及び臨床研究審査委員会委員向け研修 令和5(2023)年度「体系的かつ適正な倫理審査を目指して」NCNP 臨床研究支援部 生命倫理室 有江文栄 スライド一部抜粋

臨床研究において、侵襲や介入がなく、人体から取得された試料を用いず、診療情報などの情報のみを用いて行う研究については、研究対象者等が拒否できる機会を保障するオプトアウトの方法が取られる場合があります。

生命科学・医学系指針第8の規程によるインフォームドコンセントを受ける手続きにおいて、オプトアウトによる場合には、通知又は研究対象者等が容易に知り得る状態に置く文書の見本などを研究計画書に添付し、倫理審査委員会審査を受ける必要があります。(生命科学・医学系指針ガイダンスP66)

①「研究対象者等に通知」とは?

研究対象者等に直接知らしめることをいい、研究の性質 及び試料・情報の取扱い状況に応じ、内容が研究対象者等に認識される合理的かつ適切な方法によらなければならない。 (生命科学・医学系指針ガイダンスP116)

事例 1)ちらし等の文書を直接渡すことにより知らせること。
事例 2)口頭又は自動応答装置等で知らせること。
事例 3)電子メール、FAX 等により送信し、又は文書を郵便等で送付することにより知らせること。

②「研究対象者等が容易に知り得る状態に置かれる」とは?

広く一般に研究を実施する旨を知らせること(不特定多数の人々が知ることができるように発表すること)をいい、公開に当たっては、研究の性質及び試料・情報の取扱い状況に応じ、合理的かつ適切な方法によらなければならない。
なお、当該研究機関の長は、当該公開場所及び公開方法の妥当性についても確認する必要がある。(生命科学・医学系指針ガイダンスP116)

事例 1)研究機関のホームページのトップページから 1 回程度の操作で到達できる場所への掲載
事例 2)医療機関等、研究対象者等が訪れることが想定される場所におけるポスター等の掲示、パンフレット等の備置き・配布

○事例1)

NCNP倫理委員会及び臨床研究審査委員会委員向け研修 令和5(2023)年度「体系的かつ適正な倫理審査を目指して」NCNP 臨床研究支援部 生命倫理室 有江文栄 スライド一部抜粋

〇事例2)

医療機関等、研究対象者等が訪れることが想定される場所

【研究対象者等に通知し、又は研究対象者等が容易に知り得る状態に置く際、以下の事項 についても併せて開示することが考えられる。】
(生命科学・医学系指針ガイダンスP118)
● 研究計画書及び研究の方法に関する資料を入手又は閲覧できる旨(他の研究対象者等 の個人情報及び知的財産の保護等に支障がない範囲内に限られる旨を含む。)並びにその入手・閲覧の方法 ・個人情報保護法第 33 条の規定による個人情報の開示に係る手続(同法第 38 条の規定 により手数料の額を定めたときは、その手数料の額を含む。)
● 個人情報保護法第 21 条の規定による利用目的の通知、同法第 33 条の規定による開示 又は同法第36条の規定による理由の説明を行うことができない場合は当該事項及びそ の理由
● 研究対象者等及びその関係者からの相談等への対応に関する情報

③「研究対象者等が拒否できる機会を保障する」とは?

~研究対象者等により同意の撤回又は拒否があった場合~

研究の対象とすることはできず、生命科学・医学系指針第8の9の規定「同意の撤回等」に基づき適切に対応する必要がある。

第8の9 同意の撤回等
研究者等は、研究対象者等から次に掲げるいずれかに該当する同意の撤回又は拒否 があった場合には、遅滞なく、当該撤回又は拒否の内容に従った措置を講ずるととも に、その旨を当該研究対象者等に説明しなければならない。
ただし、当該措置を講ずることが困難な場合であって、当該措置を講じないことについて倫理審査委員会の意見を聴いた上で研究機関の長が許可したときは、この限りでない。

● 既存試料・情報の提供を行う者に対して研究対象者等から同意の撤回又は拒否があったときは、 当該既存試料・情報の提供先の研究者等に対して、速やかに当該同意の撤回又は拒否があった旨及びその内容を伝えること。

★「当該撤回又は拒否の内容に従った措置」とは?
(ex.) 既に取得した試料・情報の使用停止・廃棄
(ex.) 他機関への試料・情報の提供の差し止め等

★「措置を講ずることが困難な場合」とは?
(ex.) 既に解析済みであって再解析が困難である場合
(ex.) 論文として既に公表している研究結果

研究の内容によっては、解析段階においてデータを削除できない場合もある。その場合には、予め、オプトアウトによりデータ削除ができる期間が限られていることを明確に提示するなど、研究対象者等に十分な説明や理解が得るよう努める必要がある。

【オプトアウト文書の必要記載事項】
※令和5年3月27日一部改正により③と⑪が追加されている。
取得については第8の6①から③まで及び⑦から⑪までの事項を明示
提供については第8の6①から⑥まで及び⑨から⑪までの事項を明示

生命科学・医学系倫理指針第8の6

※以下、生命科学・医学系指針ガイダンス第8の6から引用
①「試料・情報の利用目的及び利用方法(他の機関へ提供される場合はその方法を含む。)」とは?


● 研究に関する概要(名称、目的、研究期間等)のことである。
● 当該研究における研究対象者の範囲が第三者から見て明確に分かるように配慮することとする。
(ex.) 〇〇年〇月〇日~〇〇年〇月〇日までの間に、△△診療科で○○の(診療・診断・治療・訓練・研究など)を受けた方

● どのような方法で提供等を行うのかが研究対象者等に分かるよう、必要な範囲でその方法を記載すること。
(ex.) 記録媒体、郵送、電子的配信、インターネットに掲載等

● 
研究で用いた試料・情報を試料・情報 の収集・提供を行う機関に提供する場合のほか、委託(一部委託)や共同利用に伴って提供する場合も含む。
(ex.) 他機関の管理するデータベース等へのデータ登録をする場合など

②「利用し、又は提供する試料・情報の項目」とは?

● 
利用又は提供する試料・情報の 一般的な名称
(ex.) 血液、毛髪、唾液、排泄物、検査データ、診療記録等を指す

どのような試料・情報を用いるのかが研究対象者等に分かるよう、必要な範囲でその内容を記載すること。

⑦の「利用する者の範囲」とは?

● 当該研究を実施する全ての共同研究機関の名称及び研究責任者の氏名を指す。委託先の 名称等も可能な限り記載することが求められる。

★利用する者の範囲が多い場合で、個別に列挙出来ない場合の代替措置★
● 代表的な研究機関の名称、当該研究機関の研究責任者の氏名と併せて利用する者全体に関する属性等を通知し又は研究対象者等が容易に知り得る状態に置くことにより、 研究対象者等がどの機関まで将来利用されるか判断できる程度に明確にする
● 代表的な研究機関のホームページ等で利用する者の範囲が公表されている場合、そのサイトを分かりやすく記載する

⑩の「⑨の研究対象者等の求めを受け付ける方法」とは?

以下のような方法が考えられる
事例1)郵送
事例2)メール送信
事例3)ホームページ上の指定フォームへの入力
事例4)事業所の窓口での受付
事例5)電話

◆◆令和5年3月27日一部改正により、オプトアウト手続きに関する見直しについて(事務連絡(令和5年4月17日通知))◆◆

① 研究機関の長等の責務(指針第5の2、第8の1(4))
研究対象者等が容易に知り得る状態に置くべき事項の掲載場所に関するルールの策定、 HP上での周知等を推進するため、研究機関の長及び既存試料・情報の提供のみを行う機 関の長の責務として、オプトアウトの適切な実施を確保すべきである旨を明記した。

オプトアウトの適切な実施に向けた環境整備(見やすいホームページの整備な ど)を、研究機関の長及び既存試料・情報の提供を行う機関の長の責務として 新たに位置づけた。

② ICを受ける際の説明事項等(指針第7、第8の5)
研究対象者等から同意を受ける時点では特定されなかった研究を行う場合のオプトア ウトを行うことが想定される場合、実施される研究又は既存試料・情報の提供先の情報の確認方法(例えば、電子メールや文書による通知、ホームページの URL、電話番号等)を、研究計画書の記載事項及びICを受ける際の説明事項に加えた。

③ 研究対象者等に通知し、又は研究対象者等が容易に知り得る状態に置くべき事項 (指針第8の6)
研究又は他の研究機関への提供の開始予定日を加えた。

④外国の研究機関に提供する場合の通知事項等の見直し
(指針第8の1⑹、5、6)
外国にある者に対して試料・情報を提供する場合については、ICを受ける手続の簡略化 やオプトアウトにより提供する場合であっても、研究対象者等に対して、試料・情報の提供先の国の名称等に関する情報提供を行うこととするとともに、その内容をICを受ける際の 説明事項及び研究対象者等に通知し、又は研究対象者等が容易に知り得る状態に置くべき事項に加えた。

・簡略化規定やオプトアウト手続による場合も、移転先国の名称等の情報提供を行うこととされた。

以上


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