ラグビー:トライネーションズカップ Day2

※ブレディスローカップ Day4を兼ねています。

G'day! 11月7日にオーストラリアとニュージーランドの対抗戦の4試合目兼トライネーションズカップ第2戦がブリスベンのサンコープスタジアムで行われました。結果はオーストラリアが24-22とオールブラックス相手に今年初勝利を挙げました。

ワラビーズの結果+選手ごとのスタッツを基に記事を書いていきます。

レッドカード2枚の波乱の前半。
後半はワラビーズの方が冷静に戦えた。オールブラックスは後半の立て直しが遅れた。

オールブラックスは先発メンバーを大幅に入れ替えました。
経緯:https://www.allblacks.com/news/changes-likely-for-brisbane-test/

2 ダン・コールズ⇒コーディ・テイラー
4 パトリック・トゥイプロトゥ⇒スコット・バレット
6 シャノン・フリゼル⇒アキラ・イオアネ
8 ホスキンス・ソトゥトゥ⇒オーディー・サヴェア
10 リッチー・モウンガ⇒ボーデン・バレット
11 ケイレブ・クラーク⇒リーコ・イオアネ
12 ジャック・グッドヒュー⇒ンガニ・ラウマペ
14 ジョーディー・バレット⇒セヴ・リース
15 ボーデン・バレット⇒ジョーディー・バレット

ジョーディー・バレット(15⇒10)、ボーデン・バレット(14⇒15)の配置を転換させています。また、娘の出産立ち合いから復帰したオーディー・サヴェアが元々のNo.8に帰ってきました。
また、アキラ・イオアネは今回初代表となり、兄と一緒にプレーするのはセブンス(2016リオ五輪にも出ています。ちなみに日本に12-14で敗れています!)以来となりました。対戦前のハカでもイオアネ兄弟が前の方に立ったり気合が入っていました。それだけにアキラ・イオアネの28分交代はスクラムの編成上仕方ないにしろ、不本意な結果だったと思います。

ワラビーズも同様にメンバーを入れ替えてきました。

4 ラカン・サラカイア=ロト⇒ロブ・シモンズ
6 ニッド・ハニガン⇒ラックラン・スウィントン
10  ノア・ロレシオ⇒リース・ホッジ
12 イラエ・シモーネ⇒ハンター・パイサミ
14 フィリポ・ダウングヌ⇒トム・ライト
15 デイン・ハイレットペティ⇒トム・バンクス

ラカン・サラカイア=ロトは怪我で欠場しました。また、10番にリース・ホッジが入るのは2017年の日本戦依頼2回目になりました。また、ラックラン・スウィントンとトム・ライトが初代表となりました。トム・ライトは初代表にして前半3分でトライゲッターになり、スーパーラグビー2020(年初+AU)で9トライ獲得した実力をいかんなく発揮しました。

■レッドカード2枚の内訳とスクラムへの影響

いつもならここですぐ比較に入るのですが、今回のレッドカードが2枚出たことでスクラムに大きな影響が出ているので追記しておきます。

レッドカードが出た選手は、
NZL : 3 オファ・トゥウンガファシ(22分)
AUS : 6 ラックラン・スウィントン(34分)

の2名でした。

28分にレッドカードで人数が欠けた後の最初のスクラムがやってきます。
最前列が2人しかいないNZはここでアキラ・イオアネと、ティレル・ロマックスを交代させました。メンバーは以下の通りです。
1 カール・トゥイヌクアフェ(→49分~アレックス・ホッグマン)
2 コーディ・テイラー
3 (6 アキラ・イオアネ)⇒28分~ティレル・ロマックス
4 スコット・バレット(→77分~:トゥポゥ・ヴァアイ)
5 サム・ホワイトロック
6 (28分~空席)⇒13 アントン・レイナートブラウンが代役(28分、54分) 56分のスクラムは7人でプレイ
7 サム・ケイン(→77分~:カレン・グレイス)
8 オーディー・サヴェア
この形でスクラムを組みました。スクラム機会は28分・54分・56分の3回でした。
自軍ボールの時のみ、代役を入れる形を取りましたが、56分の最後の自陣ボールのスクラムでは7人で組みました。成功率は1/3、54分のスクラムのみ成功し他2回はボールを奪われる形になりました。56分のスクラム失敗はそのままペナルティーキックに繋げられています。ここで15-14と差を詰められたので試合における一つのターニングポイントだったと思います。(ここで流れがワラビーズに傾いた)

ワラビーズも46分に最初の自陣ボールのスクラムがやってきました。ワラビーズでレッドカードを受けたのは6番でしたのでそこにそのまま代役を入れる形を取りました。
1 アンガス・ベル
2 ブランドン・パエンガ=アモサ(→64分~フォラウ・ファインガァア)
3 アラン・アラアアトア(→52分~タニエラ・トゥポウ)
4 ロブ・シモンズ(→52分~ネッド・ハニガン)
5 マット・フィリップ
6 (空席)⇒14 トム・ライトが代役(46分)、11 マリカ・コロインベテが代役(80分)
7 マイケル・フーパー
8 ハリー・ウィルソン(⇒69分~リアム・ライト)

この形でスクラムを組みました。スクラム機会は46分・80分の2回でした。オールブラックス同様代役を入れました。ここでは2回とも成功しており、46分のスクラムでは49分のペナルティーゴールに繋げています。この時、ワラビーズはコロインベテのシンビンで13人でプレイしていたのでシンビンの時間を減らすという意味でもとても良いタイミングでした。そのあと49分のペナルティーゴールで11-8とリードしました。最後のスクラムでも成功したことで勝利を手繰り寄せました。

敵陣ボールでのスクラムの際は両チームとも7人でスクラムを組んでいました。3+4という感じですね。56分でのスクラムの編成判断を誤ったことがオールブラックスのらしからぬミスだったかもしれません。
これが52分に入ったタニエラ・トゥポウの快進撃の始まりとなり74分に試合をほぼ決定づけるトライを決められてしまいます。

3戦目までと4戦目の変化

ここから3戦目までと4戦目の変化を見ていきます。
要約すると:
ワラビーズはスクラムハーフからのパスが減少した。また、FW陣のゲインメーター、ボールキャリー数が増加した。
オールブラックスはFW陣のタックル回数が減少したことでチーム全体のタックル成功率に影響した。(88%→82%)
トータルで見るとレッドカードの影響はオールブラックスの方が大きかった。

◆パスとディフェンス

画像1

※読み方
Pass from No.9 rate on carry : 全体のキャリーのうち、スクラムハーフから受けたボールの割合
Number of passes on 1 carry : 1回のキャリー当たりで何回パスしたか。少ないほどパスせず自分でボールを持ってぶつかりに行く傾向があると仮定
FW tackle rate : 全体のタックルのうち、フォワード(No.1~8)のタックル割合
BK tackle rate : 全体のタックルのうち、バックス(No.9~15)のタックル割合

パス・守備面ではAUではスクラムハーフからのパスが全体のパスの半分ほどになっています。NZの方はディフェンス面でタックル成功率が下がっており、今回初めてFW陣のタックル成功率がAUを下回りました。

ワラビーズはバックス陣を再度編成しなおしたので、スターティングメンバー発表時にはディフェンスに不安を覚えましたが、結果的にはリース・ホッジがディフェンスで奮闘したことがチーム全体に好影響を与えました。(BK陣のタックルは数字だけで見ると82%→71%と成功率は下がっている)

一方オールブラックスは65%を維持していたFW陣のタックル比率が今回初めて60%前後と5%ほど下がりました。もう一つ、BK陣のタックル成功率も83%→77%と下がりました。この2つの要素が合わさって全体のタックル成功率も82%となっています。オールブラックスにしてはかなり低い数値かと思います。
選手ごとに見ていくと、ジョーディー・バレット、ボーデン・バレットがあまりタックルが得意ではない(2人とも成功率は67%前後。どちらかというとキック、攻撃で持ち味が出る選手)、セヴ・リースもまた得意ではないことが影響しています。ケイレブ・クラークはディフェンス面でも一定のスコアを出せる(成功率80%程度。つまり止められる)のでここに差が出た印象です。ジャック・グッドヒューが休養とはいえ今回欠場したことも一因と考えられます。

◆アタック

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※読み方
Average gain metre 1 carry : 1回のキャリーでどれだけ前に進んだか
Breaking rate (クリーンブレイク+ディフェンス突破数)/キャリー数 : 1回のキャリーでどれだけディフェンスを突破できるか・相手がいない状態で走れるかの割合。1を超えているとその人にボールを持たせると必ず1回はディフェンスを突破されるということなのでかなり攻撃力の高い選手(もしくはディフェンスが甘いか)と仮定できる。
FW carry rate : 全体のキャリー数に対するFW陣のキャリーの割合。Attack3ではFWの中でさらに細かく割合を見ています。

攻撃について見てみると、Breaking Rateで初めてAUがNZを上回りました。AUの攻撃が実を結び、NZの攻撃が封じられたということでしょう。
現にAUのフォワード陣の1回あたりのゲインメーターが最高になり、NZのバックス陣の1回あたりのゲインメーターが3m以下に抑えられています。
それぞれの象徴的なシーンがワラビーズのTwitterアカウントからシェアされているので引用します。

ワラビーズのFW陣の攻撃:タニエラ・トゥポウのアタック→トライまでの一連の流れ

オールブラックスのBK陣のなかなか上手くいかなかった攻撃:オールブラックスの走りを止めたマリカ・コロインベテのディフェンス

大体この2シーンで説明がつくと思います。
彼らの大活躍にもかかわらず何故22点取られたか?というと彼1人だけでは止めきれなかったのと、スクラム・ラインアウト後のボールパスでボールを奪われる、微妙なワンプレーの粗さ・隙で自陣22mライン内にすぐに持っていかれるシーンが少なくとも4回はあったためです。(そのうち3回はトライを決められ、1回は41分に逃げ切っています)
これは第1戦から第4戦を通しての課題であり、今後ワラビーズが浮上するために意識しなければならない部分だと思います。

◆セットプレー

画像3

セットプレーに目を向けると、NZ側に2つ大きな変化が出ていました。
1.スクラムの成功率の低下
2.ペナルティの増加

1のスクラム成功率については前半(見出し:■レッドカード2枚の内訳とスクラムへの影響)で述べたのでここでは2を中心に書いていきます。
ペナルティ回数ですが、
前半:AUS 11  NZL 7
後半:AUS  0   NZL 6
と、前半ではワラビーズの規律があまり良くなかった一方で、後半は冷静に戦えています。一方でオールブラックスの方は80分を通して規律をぎりぎり保とうとしている状況になっています。
このオールブラックスのペナルティの比較的多い状況と、SOリース・ホッジのペナルティゴールの積極的な採用でワラビーズ側が相対的にペナルティを取られる機会を減らせた、とも言えます。

距離の長いペナルティーキックの選択は対オールブラックスで有効か

オールブラックスを相手にする場合、試合の流れを逐次リセットする+自チームのペナルティを抑える意図も含め、40-50mのペナルティゴールを狙える選手は必須ではないでしょうか。現にオールブラックスに直近で勝っている代表はその水準にある選手が必ずと言っていいほどいます。オーストラリアを除くと3か国しかいませんが。
イングランド:オーウェン・ファレル
アイルランド:ジョナサン・セクストン
南アフリカ:ハンドレ・ポラード、エルトン・ヤンチースなど

オーストラリアの場合は前回勝利を挙げた2018年はクリスチャン・リアリーファノがSOを務めていました。その時はリース・ホッジはウィングで2トライを決めています。

オールブラックスはダン・カーターが良すぎたので彼に近い水準の選手が出るまではリッチー・モウンガ、ジョーディー・バレット、ダミアン・マッケンジーで上手くやりくりする形になるかと思います。ボーデン・バレットでも良いですが、彼は司令塔を務める方がオールブラックスが強くなるのともう29歳と4人の中で最年長なのでオールブラックスでの出番は多くないでしょう。スーパーラグビーアオテアオアを観戦した限りでは、この4人だとダミアン・マッケンジーが一番安定感があるかとは思います。

最初は記事最後尾に初代表になった選手について書いてみようと思っていたのですが思いのほか長文になったので次回の記事のテーマにしたいと思います。

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