第1 規制①について
 規制①は、乗合バス事業者に対し、高速路線バスの運行のみを行うことを禁止するものである。これは、乗合バス事業者の職業遂行の自由を侵害し違憲ではないか。
 1 職業遂行の自由
 憲法(以下省略)22条1項は、職業選択の自由を保障している。これは、職業選択により収益を得て自立した生活をすることを保障するものであるが、職業を選択してもその遂行まで保障されなければ収益を得ることはできないため、職業遂行の自由は22条1項により保障される。
 乗合バス事業者が高速路線バスを運行することは、バス事業という職業を選択した上で高速路線バスを運行するという職業を遂行することであるからこの自由は22条1項により保障される。
 そして、生活路線バスの運行をしないと高速路線バスの運行ができないから、高速路線バスのみを運行するという職業遂行が自由に行えないため、規制①は乗合バス事業者の職業遂行の自由を侵害する。
 2 正当化の検討
 (1)判断基準
 小売市場事件判決は、積極目的規制について広い裁量を認めており、規制①は生活路線バスの慢性的赤字に対するテコ入れという積極目的を含んでいることからすれば、規制①にも広い立法裁量が認められるとも思える。しかし、この目的は、事業者の収益を改善して、これ以上の路線廃止や減便が起こらないようにすることで交通の利便性を向上させるという最終的な目的の手段に過ぎない。そして、生活路線バスに依存する高齢者や高校生等にとっては生活路線バスが不可欠な移動手段となっており、生活路線バスの運行することはそのような者の利益保護に奉仕するものといえる。そうであれば、規制①の主たる目的は積極目的とはいえないため、立法裁量を広く認めるべきものではない。
 ここで、規制①は高速路線バスの運行を認める要件として生活路線バスの運行を求めるものであり、形式的には生活路線バスを運行すれば高速路線バスの運行も可能であるから、制約は強くないとも思える。しかし、生活路線バスへの参入要件は、既存の事業者の経営の安定を害さないことであり、既存の生活路線バスが運行していない路線に限り新規参入を認めることとなっている。そのような路線は大半が赤字となっていることからすれば、参入のための障壁は高いといえるため、実質的には強い制限となっている。
 そうであれば、判断基準はやや厳格に①立法目的が重要なものであり、②規制手段が目的と実質的な関連性を有しているかによって判断する。
 (2)あてはめ
   ア ①目的
 法案「第1目的」によれば、規制①の目的は、地域における住民の移動手段を確保することである。移動が自由にできなければ不便を強いられるだけでなく、生活路線バスに依存する者にとってはバスによる移動が不可欠であることからすれば、バス事業者の職業遂行の自由を制約してでも実現すべきといえ、目的は重要である。
   イ ②手段
 高速路線バスの運行をするために生活路線バスの運行を求めれば、既存の高速路線バス事業者やこれから参入してくる業者が生活路線バスの運行に参入する可能性があるから目的達成に資する。また、既に運行に関するノウハウを有している高速路線バス運行の乗合バス事業者であれば、事業運営も適切にされることが期待でき、他の事業者に生活路線バスへの参入を促すことよりもより効果的といえる。
 一方、既存の生活路線バス運行事業者に別のルートの運行まで要請する場合、新規ルートの事業が大きな赤字になり既存ルートも踏まえて撤退のなるおそれもり、生活路線バス網の維持が困難になることもあるから、このような手段はとりえない。
 よって、規制手段が目的と実質的な関連性を有している
 3 結論
 以上より、規制①は合憲である。
第2 規制②について
 規制②は、当該区域の住民以外の者の自家用車による移動の自由を侵害し違憲ではないか。
 1 移動の自由
 22条1項は移転の自由を保障している。これは封建制度からの解放のために住所を移転することを本来の目的としているが、そのような長期的な移動のみに限定する必要はなく、また移動の手段に関しても制限を設ける必要はないから、一時的な移動の自由も含むと考える。
 域外の者が自家用車での乗り入れをすることも移動であるからこの自由は22条1項で保障される。
 そして、当該区域の住民以外の者は、特定の時間帯における域外からの自家用車の乗り入れを禁止されているため、移動の自由が侵害されている。
 2 正当化の検討
 (1)判断基準
 上述のとおり、移転の自由は、封建制度からの解放により、個人が領地から離れ自由な経済活動を営むことを保障するものであるから、本来的には経済的自由に含まれる。しかし、域外から域内への移動は、自身の周囲にとどまらず広い範囲で意見交流を行うことを可能にするという自己実現自己統治の価値を含む精神的自由の側面も有しているといえる。そのため、権利の性質から直ちに立法裁量を広く認めるべきではない。
 もっとも、規制②により禁止されるのは、特定の時間帯かつ自家用車の乗り入れである。時間帯および手段が限定されていることから規制は緩やかであるといえる。
 そうであれば、判断基準は緩やかに①立法目的が正当なものであり、②規制手段が合理的であるかによって判断する。
 (2)あてはめ
   ア 目的
 規制②の目的は、渋滞による地域住民の移動が困難になることを防ぐことにある。このような私生活の平穏は13条でも保護されるべき権利でありこれを守ることは正当である。
   イ 手段
 域外からの自家用車の乗り入れを禁止すれば、域内での交通量は減少するため、目的解決に資するといえる。また、規制①で検討した、公共交通機関が移動に不可欠な者とは異なり、域外からの移動してくる者は自家用車でなければ移動ができないわけではなく、他の移動手段が十分残されているから制限が強すぎるともいえない。そうであれば、手段は合理的である。
 3 結論
 以上より、規制②は合憲である。   以上

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