福澤諭吉『文明論之概略』
◎ ポイント
福澤が生きた当時の日本の最大の課題は、日本の独立維持のため西欧列強を中心に作られた国際秩序へ参加し、西欧の優れた文物を導入し、近代化を促進することでした。
主権国家としての地位を確立し、国民に基礎を置いた国民国家(ネーション・ステート)の形成こそが、その参加資格とみなされていたため、そのために文明化を図っていくことが最優先で求められていました。
したがって、福澤は「門閥制度は親の仇でござる」と、能力ではなく身分によって栄達が決定する社会の有り様や封建的な制度・思考に対して、痛烈な批判を展開します。
強兵よりも富国、それよりも政法、さらにそれよりも精神革命が重要であるにもかかわらず、古来の風習や慣習が「国民」となることを阻害している現状に対する公憤を爆発させたのが本書であるといえます。
現代に生きる我々は権力の偏重や習慣・伝統の前に思考停止に陥らずに、自立した思考をもった国民たり得ているか、改めて自問自答しながら読む価値があります。
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