グーとグミとグリコのおまけ

これはゲーム性とゲームバランスについての話だ。
良いゲームとは、本質的に不平等なゲームであり、バランスを取るということは、ゲームをつまらなくする（ゲーム性をなくす）ことだったりする、という話。

あと、ゲーム性をなくすことで、一般性を上げることができたりもする、という話でもある。
強キャラ／武器／クラス導入で「ゲームバランスが良くなった」とされるゲームは、実際には「ゲーム性がなくなるほどの強要素を導入することで、非ゲーマーでも遊べるようデチューンした」だ、とか。

ジャンケン、グー

君は「ジャンケン」というゲームを知っているだろうか？　掛け声とともに石（グー）・鋏（チョキ）・紙（パー）をモチーフにしたハンドサインを繰り出し、互いのハンドサインを比べて勝敗を競うゲームだ。
それぞれのハンドサインが平等な強さを持つ秀逸なゲームバランスのゲームだ。日本人でこれを知らない人はいない、というぐらいの超メジャーゲームで、『ポケモン』は遊んだことがないが「ジャンケン」はしたことがある、というゲーマーも珍しくない。

ところで「ジャンケン」は良いゲームではない。「ジャンケン」を手軽に勝敗を決する手段として遊ぶ人はいても、「ジャンケン」自体を目的として遊ぶプレイヤーがいないことからも明らかだろう。
三つのハンドサインが均等な強さを持ち、それぞれのプレイヤーに平等で公平な勝機がある「ジャンケン」。しかし、その均等さには意思決定を促す要素がないからだ。
あらゆる状況において、「グー」を出すことと「パー」を出すことに違いがないのなら、そのゲームバランスには価値がない。雑な表現を使えば《ゲーム性》がないと言える。ここでいう《ゲーム性》というのは「リスクとリターンが表裏一体になっており、プレイヤーがリターンを得るために工夫できるルールの性質」のことである（と定義する）。
《ゲーム性》がないゲームのバランスがどんなに良くても、そのバランスには価値がない。

（実践的には、緊張した状態だと手が縮こまるとか、相手が振りかぶった時点で手を出してるとかの可能性はあるが、それは摩擦係数の無い物体のような「理想的なジャンケン」において考慮すべき要素ではない）

グミ・チョコレート・パイン

そんな日本一有名なクソゲーである「ジャンケン」に、シンプルな追加ルールで《ゲーム性》を付与したのが、「グミ・チョコレート・パイン」だ。これは云わば「ジャンケン2.0」である。
このゲームは元の「ジャンケン」と比べて、基本的なルール部分に変化はない。ただ、グー（2点）、チョキ（6点）、パー（3点）にそれぞれ点数が設定されていて、ジャンケンに勝つと規定の点数が得られる、という追加ルールが設定されているのだ。
それぞれの手の強さ（勝ち負け）は均等で、なおかつチョキは勝利時には圧倒的なアドバンテージ（グーの3倍、パーの2倍）があるのだから、当然誰でもチョキで勝ちたい。チョキ一強のゲームだ。これは「ジャンケン」以上のクソゲーなのではないか？

もちろん、そうはならない。誰もがチョキで勝ちたいからこそ、グーを出すことで勝率は上がる。グーでは3回勝ってもチョキ1回分の点数しか得られない。しかし、チョキだけを出し続けているプレイヤーは、グーだけを出し続けるプレイヤーに絶対勝てない。
元のゲームより不平等になっているにも関わらず、ゲームとしては間違いなく面白くなっている。いわば、《ゲーム性》のあるゲームとは、本質的に不平等であるとも言える。
ゲームを批判するときに、ゲームバランスが悪い、という言葉を使うのならば。その「バランスが悪い」が、本当に《ゲーム性》に悪い影響を与える不要な不平等さなのか、ということを説明できなければならないだろう。

グリコのおまけ

ところで、私の子供時代の環境では、「グミ・チョコレート・パイン」は、「グリコのおまけ・チョコレート・パイナップル」というゲームになっていた。（古くは「グリコ・チョコレート・パイバップル」であったとも言うが、それは一旦置いておいて欲しい）
これは点数がグー（7点）、チョキ（6点）、パー（6点）になった「グミ・チョコレート・パイン」だ。当然クソゲーである。グーを選び続けるほどの差がない一方で、グーには明確なアドバンテージがあるため、リスクとリターンがボヤけてしまっているからだ。

そして、この手の修正というのは、しばしば実際のゲームでも「ゲームバランスの調整」として加えられがちだったりする。
もっとも、それによって《ゲーム性》は下がることが、ゲームとして悪くなることとは限らない。《ゲーム性》の高いゲームは、駆け引きの上手いプレイヤーばかりが勝つゲームになってしまうからだ。
適度に運良く勝てるようにして「いい気にさせる」ことや、適度に不運に負けるようにして「言い訳を与える」ことが、よりポピュラーなゲームには必要だったりするからだ。

結論

そんなものはない。