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「トッレートレトレトッレー」No.15

                                             15,
「今回、折角頂きましたこのご縁に感謝し、この話を全て私共の胸の内にひた隠し、一切表に出さずに事を進めれば、あなた方の犯した罪、国民、府民、市民の眼を欺こうとした罪を、世間にその事実を知られないよう我々の手で処理しようと決めての産廃物処分費用、なんです。お解り頂けましたでしょうか」
プッシの声、
「お、よく云うた。その調子やで」
眼前の二人、椅子から立ち上がると、机に額を付ける程に腰を曲げて感謝、謝罪の意を表した。
プッシの声、
「もうこの際、一気にこの話、進めてまえ」
皆友夫婦は机に戻り、椅子に座り直し、椅子深く、ややふんぞり返り気味に座って前の二人を睥睨した。
「ご理解頂けましたようで、私も、この事実が世間に知られる前に処分出来ればと切に願っていましたので、ほっとしております。いずれ、今回の砒素の件につきましては、土質調査結果の詳細をお持ちしますが、その前に、お二人様に、是非、ご了解頂きたいことが」
プッシの声、
「そうや、それでええ、後は、打ち合わせ通り、教えた通り、口にすればええんやで」
「この砒素に汚染された土、誰かに気付かれる前に処理しなければなりません。勿論、お二人の手を煩わせれば、マスコミの腐った鼻に嗅ぎつけられてしまう恐れがあります、後々のことを考えましても、ここは一気に私どもの手で処分を進めなくてはなりません。
  先に、申し上げておりますが、私共に、某有力諸団体、諸宗教団体、その他有力政界、財界関係者から多額の寄付が約束されていますが、事ここに至り、緊急を要する事態となりました上は、汚染土の処分は待った無し。そこで、絶ってのお願いですが、先に提示させて頂いております廃棄ゴミの処分費用、2億8千万を今日か明日にでもお振込み頂けないでしょうか。そのお支払いを受けてすぐ業者に前払いして、迅速に処理を進めたいと思います。いかが、でしょうか?」
プッシの声、
「お、よう出来た、よう出来た」
 
  皆友夫妻、内心嬉々として、跳ねて空を飛びたい程に、今しがた終えたばかりの会談の成功を喜んでいた。そそくさと超高層ビル合同庁舎の駐車場へと、二人はスキップしながら自家用愛車ダイハツミゼットに乗り込んだ。
  この二人の、子供のようにはしゃぐ姿を、超高層ビル最上階、最上級役人専用会議室の窓から、一人の超上級国民役人が見下していた。野金だった。
  会議室の扉が開き、黒塗りと白木の二人が顔面蒼白に恐る恐る入って来た。二人は最上級国民野金に手で招かれて窓際に立ち、眼下の駐車場から出て行くミゼットを見送った。
車体の腹に、
「~記念皆友学園付属幼稚園」
と大書してある車が、危なっかし気に大通りの大量の車列に紛れて走る姿を忌々しく見ていた。
  黒塗りが、会議の結果を報告しようと、長机に座りかけると、超上級国民役人はそれを制して、云った、
「君の話は、その顔色を見れば、結果は判る。どうせうまく丸め込まれたんだろう、ん?聞くまでもない、全て却下、する。走り去っていく二人に電話して、全部却下された、と伝えてやるんだ」
「ですが、非常な大事な、飛んでもない毒物が、あの土地のゴミの下の土壌から検出されたと」
「そうか、そんな話を持ってきたのか、あの二人は。そんなもの、有る筈が無い、あるとすればどうせあの二人に雇われたアホが夜中にこっそりと撒き散らしに来るに違いない。全て虚偽だ、奴らの云うことすること、全て子供だましの幼稚な手品だ。
いいか、今夜から2,3日、あの空き地に警官を張り込ませろ、薄汚い、どうせ褌一丁のあほ二人がのこのこ現れて、穴を掘って、白い粉を撒く。間違いない」
 
翌朝。
皆友は、朝一番、銀行ATM開始と同時に箱の中へ入り、通帳を差し込んで残高を調べたが、2日前と同じ、残額37円のまま、何も印字されずに通帳は突っ返された。
それでも、
(あ、そうや、まだ、時間、早すぎるか。そりゃそうや、黒塗りが振込を会計係に命じるにしても、会計係職員は未だ役所に着いてない、出勤途中だわな)
と焦る気持ちを宥めて、その辺りを小1時間、天王寺動物園の熊のようにうろうろして、再度記帳を試みた。
が、何一つ記帳されずに通帳は跳ね返されて飛び出て来た。
(そりゃ、そうや、なんぼなんでも、まだ無理やろ、会計係員に振込伝票が回って来ても、
公務員のこっちゃ、先ずは、備え付けの朝刊を読んで、茶をシーハーシーハーと啜って、隣の役人と、昨日の野球、エラーして、逆転されたショートの平を先ずボロッ糞云わんと気が済まん、わな)
 
  しかし12時は過ぎ、14時を回り、遂に無情にも、15時を回った。皆友の体が痙攣したように震え始めた。
明日、だった、手形の期日。明日に成れば、明日に期日を迎える手形が、口座にそれ相応の残金が無ければ…想像するだに、皆友は目が眩んで立っていられなくなった。
  崩れ落ちそうな体を何とか気力振り絞り、立ち上がり、携帯を取り出して、黒塗りの電話番号を検索して、発信しようとすると、手の携帯が鳴って、驚いた皆友は携帯を落しそうになった。
  画面には、黒塗り、と文字が。皆友は、咄嗟に、茶川、あいつ、
「ごめんごめん、経理部の担当が、手配が遅れて、今日の振り込みに間に合わなんだ、と今連絡来た、何してんね、と怒っといた、明日、朝一番に送金するよう手配させといた、ごめんやで」
そんな連絡だと確信して、何だか心が和み、
「あ、茶川さん、電話、おおきに、今日の送金、間に合わんかったんや。まあ、ええで、明日の朝一番、でも。せやけど、朝一番、やで。殺生やで、わし、今日一日、ATMの前、檻の熊みたいにうろうろ」
「茶川ではありません、白木、です。茶川は、東京に出張です。代わりに私が。
皆友さん、今回の件、全てご縁がなかったことになりましたので、それをお伝えしたかった、だけです。
私と茶川、警官2人と、昨夜一晩、蚊に食われながらも、あの空き地で見張っていましたら、ふんどし姿の本当にあほそうな顔した男2人が、褌姿だから男だと判っているでしょうが、見張っていますと、その男2人、手にぶら下げたビニール袋の中の白い粉を、穴の底に撒き散らし始めましたので、警官が飛び出して2人を羽交い絞めにして署に連行し、持っていました袋、調べますと猛毒の砒素、だと判りました。
問い詰めますと、教祖がどうの、300年前がどうの、八丈がどうのこうの、と訳の分らぬことを口走るばかりで、埒が明かなかったのですが、ただ、はっきりしていますのは、私たちが事前に採取した土からは一切、砒素ようのものは検出されていませんでしたので、全て、これは、始めっから終りまで、あなたが仕組んだ詐欺だと判定致しました。
次いでですから、私の、あなた方ご夫婦との初対面の印象を申し上げておきますと、私は毎日、この部署に配置されまして以来、こうして皆様の陳情受付を担当して参りましたが、その件数、飛んでも無い数と成っておりますが、お陰様で、ひとさまの顔を一見しただけで、その人相を観て、これは嘘か誠か、特に、私共をペテンにかけようとの悪意を持って相談に来られているのか、すぐ見抜くことが出来るようになりました。
悪意の、即ち、ペテン師、詐欺師、には2通りの判断基準を確立しておりまして、第1の例は、大衆を集め、壇上に立ち、腕を組み、人びとを睥睨し、いかに有利か、いかに労せずして金儲けができるか、その架空の儲け話に人々を釣り上げる、ただこれは更に2種類の型に分類されまして、1つは投資勧誘型、もう1つは霊感商法、これらの類は何れ、破綻し、雨にも負けず風にも負けず、やっぱり夜明けは眠たいな、みたいに自転車に乗って営業、布教活動するようになり、前輪がパンクして前のめりにこけて、その結果、被害緒額は莫大なものとなります、
今1つは、おとなしそうな、穏やかそうな、一見、全くいい人、誰に聞いても、あの人、ええひとでっせ、と評価されるひと。例を挙げますと、八眉に、口の周りに髭、例えば平参平、さんタイプの顔、冗舌に喋り、ひとの疑念を煙に巻くタイプ、大体関西人の殆どがこの人相、この手の詐欺師的素質を内面に有しております。一件、お人好しに見えるひと、ですね。所謂る寸借詐欺、ですね、電車賃貸してくれ型ともいいますが、被害は比較的少額となります。
今回も、あなたと初対面の時、百パー、この第2例、の第2項に相当する寸借詐欺師、電車賃ペテン師かと判断していたのですが、意外と国家的教育理念を持ち合わせ、そこそこに正論も吐く、そこそこに正、悪の区別が出来る方かな、と思い改めていましたが、やはり、金の無いは首が無い、に等しい、と彼の毛沢山が申していました通り、やはりあなたもその天性の本性が、あと一歩のところで、露われてしまいました。
はっきり宣告しておきます、これ以上、私共に対し、詐欺まがいの真似をされると、告訴します」
と云って、電話を一方的に切られ、皆友は、ダイハナの大助のように、口を開けたまま、暫く呆然と立ち尽くした。

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