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「トッレートレトレトッレー」No.13

 
 
              13,
  「黒塗り」こと茶川と秘書役の白木、開発部会議室で、問題の土地地下ゴミの調査結果を聞いていた。
「初めにこの写真見て頂けますか?」
黒塗りは写真を手に取り、目を凝らして見る。雑草伸び放題の空き地に、ぽかんと、その幅2米、長さ3米の長方形に、雑草が抜き取られて、空き缶も、犬の糞も無く、そこだけが地面がはっきり見えている。だが、この写真を見ても黒塗りには、何も連想させるものはなかった。調査のため、調査員たちが雑草を毟り取り、糞をしにやってきた野良犬を追い払った結果、だと思っただけであった。
  こちらも、ともう一枚が手渡された。その写真には、土を被さった、ゴミに芥、空き缶に、ペットボトル、自転車の車輪に、割れた便器、ひしゃげた洗濯機に、壊れたラジカセ等が映っている。あらゆる種類のゴミがその長方形の穴にぎっしりと埋まっている。
  黒塗りは写真を見てがっくりと肩を落とした。それを見て調査責任者が云った、
「これ、深さが1米で、これから計算しますとゴミの総量は、2トントラックで1台分、軽四トラックで運びますと、2往復した勘定となります。うちの軽四トラックで、南港のゴミセンターまで運んだ場合、小型ショベル使っての掘り出し費用と運送費、償却費用、途中コンビニに寄ってあんパンと缶コーヒ、作業員2人、運転手1人、計3人分買ったとして、〆て、これだけ費用掛かります」
  黒塗りは、調査員が差し出した算定書を虚ろに見て、再び、がっくりと項垂れた、
「そうか、やっぱり2億8千万、か…」
「あの、課長」
と横に座る白木が、心配そうな顔で、黒塗りの袖を引っ張った、
「何、見ているんですか?2億8千万、て数字何処にも書いていませんよ。
¥280,000,―、ですよ、良く見て下さい」
黒塗り、目を擦りながら見直して、目を丸くした、
「28万円?君、桁、間違ってるんじゃないだろうな?0、三個、書き忘れた、とか」
「課長と一緒にしないでください、失礼な」
黒塗り、改めて算定書を読み返す。調査責任者が、袋から別の2枚の写真を取り出して机の上に並べた。
「この一枚、それとこっちの一枚、見比べて下さい」
黒塗りは怪訝な顔をして、2枚の写真を、調査員から拡大鏡を借りて見比べる。
  片方は、普通にゴミ全体の写真、もう一枚は自転車の車輪の写真が拡大されて映っている。黒塗りは何度見直しても、特に違和は感じなかった。
その様子を馬鹿にした気に見守っていた白木が、腹立たし気に云った。話の進展には全く無関係ですが、申し添えますと、直属上司に対し、こんな口調で喋ったのは白木には生まれて初めてのこと、でした。
「この拡大写真に映っています、この自転車の車輪と同じものが、この埋まったゴミの中にも映っているんですよ。自分で捜して下さい」
  白木の予想外の剣幕に押されて、黒塗りは2枚の写真を、まるでウオーリを捜せ、みたいに、拡大鏡を右に左に振って見比べる。
「あ、見つけた、これや、ここに同じのが映ってる。これだろ?」
ウオーリを見つけたこどものようにはしゃぐ黒塗りを白木は冷たい視線で見据えて云った、
「それだけ、ですか、気が付いたの?ここを見て下さい」
白木は拡大した写真の、車輪のカバーに貼り付けた、何処かの学校の登録標を指さし、そしてもう一枚、ゴミ全体を映した写真の中の、自転車の車輪、そのカバーを指先で示し、黒塗りの持っている拡大鏡を無理にその上に移動させた。
  それでも、黒塗りは、意味が分らない様子、溜まりかねて白木が怒鳴った。話の展開に全く無関係ですが、ひとこと申し添えますと、ひとを怒鳴りつけるなど、白木の人生で初めてのこと、でした。
「あ、ほんとだ、同じ番号じゃないか。奇遇、だね」
白木は呆れたふうに、そっぽを向いた。これも、白木の人生に於いて、ひとの話に…以下同文ですので、後略。
黒塗りは、口を尖らせて不平を云った、
「埋まったゴミの中からこの自転車の車輪だけを掘り出して大写しに写真を撮った、だけじゃないの?これが、どうかしたの?」
  調査責任者が、うんざりしたげな顔をして、もう一枚の写真を机の上に放り投げた。
それは、生え放題の雑草の中に棄てられた同型、同色の、同じ車輪、掘り出された車輪と全く同じ、ものだった。
「これは、先日、課長に命じられてあの土地の評価額算定のために測量に行った時に撮影した写真の中の一枚、です。よく見て下さい、自転車の登録標、同じ番号、です」
「え、どう云うこと?」
「まだ、これ以上、説明、必要、ですか?」
調査責任者は席を立ち、会議室の扉を叩きつけるように閉めて出て行った。
読者の皆様、また落語会ご来場の皆さまの殆どの方にはもうお判りでしょうが、一部、どうやら意味不明の方がいらっしゃるようですのでご説明します。
 要するに、埋められていた自転車の車輪は、その以前から、少なくても数週間前には空き地に捨てられていたものが、新たに掘った穴に埋められていた、即ち、詳細、精緻に調べれば、穴に埋められていたゴミの全ては、この車輪同様、空き地の金網フェンスの近くに棄てられていたものを、誰かが、或る特別な意図をもって、穴を掘って埋めたもの、と云うことです。

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