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「トッレートレトレトッレー」No.6

            6,
『むか~しむかし、この辺りに一人の、大層貧乏な男が居ました。男の名は、皆友、皆友は、或る小さなそろばん塾の先生として働いていました、が、本来、皆友は、
(俺は、こんなところで燻っているような人間ではない、俺は、大きな会社を作って、世界を股にかけて仕事する人間だ)
と、常から周囲に法螺吹きまくって、誰からも好かれていませんでした』

「何や急に、むか~しむかし、みたいな調子になって」
「この話に出てくる強欲共の関係者が殆どがこの時代、未だ生きてて、話がつい今過ぎて、話が生々しいなって、聞く者にまだ毒毒しい聞こえるんで、その毒をちょっとでもやわらげようと思うて、こんな話し方してんねや」
 
『それでも人間の世界はどうにも解せぬ世界、蓼食う虫も好き好き、て云うように、そんな男に、ちょっと擦れ違っただけで一目惚れした女が居ました。名前は洋子、女の家は、昔から幼稚園や保育園を複数経営していて、洋子はその経営者の一人娘の、顔はそうやないけど、お金持ちのお嬢さん、でした。
  洋子は、或る日、皆友を誘って、公園に行き、二人で洋子手作りの弁当、食べながら、皆友に云いました、
(うち、こうやって、毎日、あんたにお料理作って作って、食べさせてやりたいなあ)
と少女のようにはにかんで、それらしく頬を赤く染めてみました。皆友は、洋子の体から溢れる金持ちの匂いに、ころりとその一言でおとされてしまいました。
  夫婦に成って暫く一緒に遊んでいましたが、或る日を境に、恐ろし気な男達が、家に昼夜関係なしに訪ねて来て、玄関扉を激しく叩き、蹴り、開けると土足のまま家の中を歩き回り、そしてこう云うようになりました、
「金かやせ、金かやせ、耳揃えて返さんかい」
父親を問い詰めますと、最近、子供の数が減った上に、近くに新しく2件も幼稚園、保育園が出来てそっちに子供奪われて、更にこの三年、コロナ禍で経営が苦しくなってしまった、と云いました。
  皆友は、それなら俺が、と銀行や役所に当座の資金融通、返済猶予を頼みましたが、何処もつれない返事、このままではもう次の手形決済日まで持ちこたえられないところまで追い詰められました。
そんな時に、夜中、寝ている皆友の耳に、ひとの声が聞こえて来ました、
(汝、悩む莫れ、是よりワレの云う神社に出かけ、そこで神のお告げを聞き、幟や小道具を受け取ってくるがよい)
皆友は夢か幻か、タダの空耳か、溜まった耳糞が剥がれ落ちた音か何であれ、藁をも縋りたい。早速に妻の洋子と連れ立って、枕元で聞こえた通りの神社を訪れますと、本殿の祠の中がほんのり明るく、隙間から覗いてみると、これぞ正しく天女かと、すらりと細い、殆ど全裸の体に、薄いピンクの透け透けのネグリジェを着た巫女が腰をくねくねさせて踊っているではあ~りませんか。
 皆友は余りの美しさ、その妖艶、官能的な踊りに涎を垂らして見惚れていましたが、ふと、この女、どっかで見たような気になりましたが、洋子にいきなり禿げた頭をどづかれ、記憶がすっ飛び、はっと我に返り、祠の前にぶら下がった小さな鈴を鳴らしますと、祠の扉が勝手に開き、そこから神主の姿をした神様が現れました、
(あ~、ワレこそは)』
 
「ちょっと待て、黙って聞いてたら、そのくねくね踊る巫女はキャバレーで働いてるお花坊やろ、ワレ~て云うて出て来た神様はお前やないけ。ほな、お前ら二人、早うから、この案件に関わってる云うことやないけ」
「せやから云うたやろ。白木の話で、白木の自殺する7,8年前に関わってくれたら丁度ええ、云われてたんで」
 
『神、告げて宣わく、
 (明日より、「一統」と書いたこの幟と垂れ幕を園の入り口に掛け、園児ら朝礼の時に、必ず国旗を掲揚させ、礼拝し国歌を斉唱させ、降園時には、十二の徳目を大きな声で唱和させるが良い、先ずはそれからじゃ)
  数日して、皆友と妻・洋子は、剣菱と銘した一升瓶の酒を抱えてやって来て報告しました、
(教えて頂きました通り、翌朝から、授かりました幟と垂れ幕を園の入り口に掛け、国旗を掲げ、十二の徳目を園児、職員全員、唱和を始めましたところ、幼稚園入口まで来た恐ろし気な男達が、幟や垂れ幕を見るなり、すごすごと帰り、その日以来一度も、家にも寄り付かなくなりました。
その二日後には、近所に新しく出来た幼稚園の園長が訪ねて来て、明日からうちの園児、半分程お宅で預って下さいと頼まれました。
  これまで色んな占い師の託宣を聞いたり、魔除けの札を買わされたりして家じゅうべたべた貼っていましたが、何の神通力も有りませんでした、却って余計地獄の底の深みにはまってしまいました。あれはどんな御まじないなんでしょうか?)
「この世で一番恐ろしい、降魔の札、じゃ」
(三か月後には、もうやけくそに濫発致しました約束手形が決済期日を迎えます、その日が来ますと、私ども、全てを失い、命までも失います。これからは、どんなことでもします、どうか、私共の窮状をご理解頂き、何んとか何とかなりますよう、次のお告げを賜りますようお願い申し上げます)
「神、告げて宣わく、
(ならば、再び、~月~日、~時24分に、この紙に地図書いた社祠に参詣し、鈴を四度鳴らして、寝ているワレの目を覚まして起こし、寝惚け眼でワレが申すところを承れ)』
            
「で、この~月~日が、明後日となっているのじゃ」
「聞くけど、その~月~日の~時まではええわいな、その~24分て細かい指定は何んやね?」
「意味はない、ただ真実味、リアリティ感、付けよう思うて恰好付けてみたかった、だけやね。そない一々ツッコミ入れるな、ワレのこと長い付き合いや、良う知っとるやろ」
「知りとうないわ」

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