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【短編】襟巻の狐【ホラー】

昔々、男が、妻に不義理をしたことを詫びるつもりで高価な贈物をすることにした。
狐の顔のついた、毛皮の襟巻である。

「いつも構ってやれなかったけれど、これでお前も少しは堂々と俺の妻らしく振る舞えるだろう」
質素な外見の男の妻は、その豪奢な贈物に目を丸くしていたが、しずかに礼を言った。

それからである。狐の襟巻をもらった妻は見違えるように活発になり、婦人会だの外の仕事だのと出かけるようになった。
「まあ、俺はこの町の名士だからな、妻にもその一角をに担ってもらわなければ仕方あるまい」
男はそのように考えていた。
やがて、段々と妻の外出時間は長くなっていった。

「どうしたんだよ。ガス燈がもう点くような時間じゃないか」
「ごめんなさい。お友達と帰りに劇を観ることになってしまったものだから」

夕飯の支度に行ってしまった妻の瞳は、以前より艶々と光を増すようになっていた。
「あいつ、一体外に何しに出かけてるんだ」

放って置かれる立場になると、今度は妻の挙動が気になって仕方ない。
ついに、男は一日仕事を休んで、妻の行動を探ることにした。

妻がその日入って行ったのはミルクホールだった。

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