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太極拳の基本姿勢、渾元椿(こんげんしゅん)について

太極拳の基本姿勢、渾元椿(こんげんしゅん)について

 太極拳は「用意不要力、以意導気」の術といわれます。「用意不要力」は硬い力を用いず、意識で気を少しも滞らせることなく、全身に遍く気を導き行き渡らせる術でもあります。また、「捨己従人」、「後発制至」、「以静制動」としての護身の技でもあります。

 用意不要力は太極拳を行うにあたって重要なことでありますが、言うは易し、行うは難しで、それを実行するには、中々困難な面もあります。それを可能にさせるには、まずは、正しい姿勢を意識して行うことが重要です。先代(佐藤金兵衛 翁)のテキストの1から4迄を解説しながら、基本に戻って更に深く気を導き、養生のみならず護身の技としての太極拳を身に付けて参りましょう。

1.尾閭中正(びりょうちゅうせい)

尾閭は、荘子の秋水より、大海の底に在って絶えず海水を漏らしている所という例えから、全ての川の出口、つまり排泄する所=肛門を示します。大海の水が常に均衡を保っているのは、出口が開閉すること=排泄が継続して行われていること、それによって常に気が流れ、遍く巡り、永遠循環の状態となるのです。尾閭=尾っぽの意味でもありますので、人間の場合は尾骶骨を丸く下の方向へ落とすことでその姿勢になります。この時、両掌を臀部に当てて撫で降ろすようにすると、自然に力が下へ落ちて尾骶骨が下に下がります。この時お尻の中央を強く押し出して、臀部に力が入らないように注意してください。次に、少し肛門を締めるようにして、ほんの少し斜め前に出し、意識して尾骶骨を下に、「百会」を上に引き上げて、お互いに力を引き合うように引っ張り合うと、腰椎の2、3番間辺り=ウエストラインが中心点となって重心が下がります。この重心が下に下がった状態で立つことで、身体内を丸く、気を円滑に循環させ得る身体の状態となります。更に舌先を上顎に当て口を軽く閉じてゆっくり呼吸することにより、気が繋がり、循環を促します。気を静め、心を整えるのに最も重要なことですので、しっかり体感できるようにしてみてください。

2.虚領頂勁(きょれいちょうけい)

頸筋の力を抜き、虚にします。この時、頭の天辺を真上に向けますが、天辺の点は「百会」というツボにあたります。身長を測定する時に当たる点になります。「百会」を天に向けると、顎が引けて反って頸部に力が入ってしまいます。そこで、まずは顎を引いてから「百会」を上に引き上げるようにすると良いでしょう。それでも力を抜く=虚の状態にはなれていないかもしれませんね。

頂という漢字の意味は天辺の意味もありますが、二匹の牛が各々の角を突き合わせている状態から、お互いが同時に力を行使する状態を示しています。頸部に力が入って抜けないのは、下顎と「百会」の二点でお互いに引っ張り合っているからです。よって、尾閭中正の姿勢を保ちつつ、尾骶骨と「百会」の二点で引っ張り合うように意識することが大事です。

3.沈肩垂肘(ちんけんすいちゅう)

 肩を落として、肘を垂らします。肩の関節は腕の根節であり、肩の力が抜ければ、自然に腕の力も抜けます。しかし、思い切り肩の力を抜くと、その重みで下顎が上がり、重心が後退して腰が反ってしまいますので、要注意です。それを防ぐためには、両腕を少し広げて脇を開け、肘をやや内側から外へ向けるように解き放つと、肘が垂れさがって指先が緩むのを実感できます。根から抹消へ、肩、肘、手首、指関節へ向かうように力を意識して抜くようにしてみてください。それに加えて、肩を後ろから前に持ち挙げてゆっくり落とすようにすると、より肩の力が抜けて、重心も下がり心もゆったり落ち着いてくるのを感じられるでしょう。

4.含胸抜背(がんきょうばっぱい)

含む胸とは、胸に何か含んでいる、ちょっと残っているような感じ、というのでしょうか。私は胸の奥を下へ落として、包むような感じだと思っています。この姿勢を作るのに溜息をつくようにと教えていますが、両掌を重ねて胸の中心に当てて、ため息をつくと、胸に含んだ溜まった何かが背中の方に抜けて行くのが判ります。これが正に含胸抜背です。胸が詰まっていれば力が前に行き、胸に力が入れば背=肩甲骨が近づいて縮み、その力は更に上へ、頸から頭へとどんどん上がっていってしまいます。では、上手くため息が付けないという人は、どうすればよいでしょう。それは亀のようになることです。下顎を引き、亀のように背を丸めて肩甲骨間を大きめに開いて、脱力しつつそこから息を吐くようにします。背中から吐き出す、そんな感じで意識してやってみてください。この続きのテキスト5、6は重複しますので、省略します。 

この基本的な姿勢は、用意不要力=無駄な力を用いず、捨己従人=受入れて流す。以静制動、中正円滑である永遠潤滑の太極拳の極意を体得するための最も重要なことですのでしっかり頑張って参りましょう。


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