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50歳のノート「スタートアップ泥船航海記〜知ってる、わかってるの境界〜」



1年後に会社が沈むカウントダウンに入ったはずなのに、いつのまに日常が戻っている。
「地球滅亡の日まであと1年」と知っても人々は日常を続けるのではないかと思うほどだ。

あるエンジニアのチームリーダーと1on1をしていて「浮き足立つ人が居ませんね」と水を向けてみる。すると彼は、
「会社がどうにかなっても自分が大丈夫と思えるかだと思う」。
転職サイトからスカウトが来るのを見て自分はいつでもやっていけると確認しているのだそう。

「そうなんだ、私は自分に自信が無かったから不安だったのね…!」と思えるほど無邪気になれない。
他からの情報によると、彼はかつて社内で他のチームに異動し、異動先から「要らない」と返品されたそう。それも2チームから。さらに返品したチームのマネージャーは「彼は自分を肯定する意見しか受け入れない」と嫌がっていたそう。

そんなわけで抑止する人も居らず自分のやりたいことを好きなだけやって破綻するというのを繰り返していた。それは当然会社の時間イコールお金である。なので組織の赤字物件になっていた。

そんなわけで彼が勢いよく改善案をぶち上げポジティブなメッセージを発信してもそのまま受け取って付き合うととんでもない目に合う。彼の世界観は小学生男子の世界であり、一緒にやってくれる仲間は公園に自転車で集まって常に自分の言うことをきいてくれるモブキャラだ。

一方で、政治的にうま〜い人は「公園の集まり」に参加するふりをして「自分、仕事しています」という隠れ蓑にしたり小学生男子の力技の影響力を利用していた。

小学生がYouTubeで「学校は行かなくていい!」と発信し不登校をライフスタイルにしていたが、そんなキャラである。
なのでエンジニアの彼が「不安は自信が無いから⭐︎」と言っても小学生の提言みたいなものだった。

情報がミルフィーユ状に重なっているのでエンジニアの彼に「そうなんですねー!」と意味なし相づちを打って時間を稼ぎつつ、重なりをより分けるのに忙しい。
相手を信じるでもなく否定するでもなく、ミルフィーユのパイの下に気づくべき要素があるかも知れないのだ。

相手をのアラを見つけて自分が勝った気になるのは上の方のパイである。
勝利に興奮するし中毒性があるけれども、まだまだパイは重なっている。

政治に長けた同僚のYさんは、相手のアラを見つけて刺激したり、思惑をそそって相手を思うように動かして遊んでいる。ビニール人形遊びのようなものだ。ウルトラマン対怪獣みたいな。人形を動かして勝敗を決めてあげるのも自分なのだ。
(さらに恐ろしいことに、Yさんは人形遊びしている自分をも俯瞰して情報を集め続け、多角的に分析している…)

自分はそんな高等技はできないけど、見え方の層をより分けて、もっとわかるようになりたいという貪欲さがある。
なので決めつけたらもうミルフィーユにフォークが刺さらないのだ。
決めつけずに、今何が起きているのか、自分のどんな思い込みに気づいて行くのかを知りたい。
自分をアンロックして行くのが好きなのだ。

ゲーム「バイオハザード」に研究所の研究員が残したメモが登場する。
研究員の身の回りで異変が起き始める。不審に思った研究員が状況を知ろうとするが既に…。

主人公レオンが残されたメモを少しずつ集めて事態を知って行く。
プレイしている側は「うん、ウィルスが生物に異変を起こしてバケモノになったわけですね」の一言になってしまう。

プレイしてる視点でマウントとるのもおかしい。主人公レオンが「研究員、気づかないなんてバカじゃね?」と鼻で笑うのも変である。
研究員も異変に気づいたけど必死に走り回っているうちに手遅れになった。それも笑えない。
カメラを引いて行くと、研究員も必死、バケモノを倒す主人公レオンも必死、レオンを勝たせようとしているプレーヤーも必死。
なんならゲームで気を紛らわせたいほど、プレーヤーの日常が苦しいのかも知れない。

Yさんは俯瞰的に複数のカメラで情報を得て把握する。さらに異変を深掘って知ろうとして情報を集め続ける。同時に自分のバイアスが入らないように自分自身を分析し続けている。

それに憧れるのだけど、自分としては研究員のメモを集めて事態を知って行くスタイルにワクワクする。(これが小学生心なんだろう)。
バケモノに追われてワーワーキャーキャーして無駄死にするのがせいぜい自分なんだろう。

そんなモブキャラでいっか、と最近思えるようになった。
「自分それ知ってる」勝ち誇りマウントを見ても「いやそれもっと取り巻く情報の層があるんよね」と思いつつ何も言わない。
お山の大将になれるなんて幸せなことだと思う。お山の世界が守られているから。
お山と外との境界が壊されずに済んでいるのだ。

モブキャラの自分は会社という組織で遊べるYさんを知ってすごいぞと興奮していた。
そんなYさんはもはや泥船となった今の会社が沈んだら、複数の会社で働くことを考え始めたそう。
モブい自分がウロウロしているうちにどんどんチャプターを先に進めている。

モブキャラどうすっかなあ、と思う。
時間切れで次のステージは来るので、そこでどうするか。
メモ集めでいいやん?と今は思っている。
今まで知らなかったこと、わからなかったことを知る。
次のステージでメモを見つけることを楽しみにしている。

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