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童貞男爵

立派な髭を蓄えて、爵位を表す帽子を被っている。目は理知的で鋭く、鼻は気品高さを感じる。口元は締まりがあって貴族のプライドを感じさせる。身なりにはいつも気を遣い、鮮やかな色彩の宮廷衣装がよく似合う。腕にはアンティークのブレスレットを着け、王宮をただ歩くその姿すら様になる。彼は代々受け継いできた貴族一家の末裔。誇り高きその血を胸に、今日も優雅に過ごすのだ。しかし、彼には一つだけ秘密があった。そう、彼は何を隠そう童貞なのだ!

童貞男爵の朝は早い。一般市民とは違うのだからアラームなんてかけはしない。窓からこぼれる朝の光と小鳥のさえずりがアラーム代わりだ。今日もご機嫌に眠りから覚め、「あー我は今日も童貞なのかー」と一人でつぶやく。身支度を済ませると、童貞男爵は朝食を食べにみんなの前に姿を表す。人前では気高く振る舞ってイングリッシュマフィンを食べてはいるが、その目にはどこか悲しみを帯びている。

童貞男爵は意外にも電車で移動する。金なんていくらでもあるはずなのにめちゃくちゃ倹約家だ。なぜだろうか、童貞男爵は金の無駄遣いを悪だと思っている節がある。まあそもそも童貞なので遊び方を知らないところもある。電車の中ではいつも英単語帳を読んでいる。童貞男爵は今度TOEICを受けるらしい。

童貞男爵はタバコを吸わない。タバコを吸う貴族は全員バカだと信じて疑わない頑固さがある。だからといって葉巻も吸わない。葉巻を吸うのが怖いという臆病さがゆえに童貞なのだ。

童貞男爵は男爵のくせにどこか余裕なさげである。歩いてる時、常に少しだけ不安定だし、目もなんだか虚ろである。きっと自分に自信がないのだろう。

そんな童貞男爵と言えども社交界に生きている。舞踏会や晩餐会にお呼ばれすることはしょっちゅうだ。男貴族と喋っている時はえらく饒舌に喋り、気の利いたユーモアの一つや二つを飛ばしてみるのだが、女性に話しかけられた時のその態度の変わりようは見るに耐えない。目も見ずに社交ダンスをする貴族なんてこいつぐらいのもんである。

童貞男爵の日課はFANZAをパトロールすることだ。なんせ彼には金がある。最高級のプランである見放題chデラックスに月額8980円を毎月納めている。彼はその日、気に入ったショートカットの巨乳のギャルのビデオを選択し、自分の部屋の映画館ぐらいでかいスクリーンに映して見ていた。そんな情けない姿にもどこか気品を感じる。

彼は今は世間一般の童貞と大して違いはない。ただとにかく裕福で贅沢な暮らしができるだけだ。でも、そんなの彼は望んでない。早く大人になりたいという気持ちが日に日に強くなっていく。いつか彼が童貞じゃなくなって大人になる時、つまり真の意味での男爵になる時、私は彼にもう一度会いたい。その時はとびっきりのワインで乾杯しよう。

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