suicide girl
スーサイドガール。あの娘は跳んだ。美しく空を舞った。
あの娘は元彼の影響で聴き始めた音楽を今も聴き続けている。きっとその音が未練に変わっているんだろう。
夏の陽に照らされて草木がざわめく。風が吹き抜けてスカートがヒラヒラする。丘の上から川を見下ろしながら自転車を漕いでいく。彼女のAirPodsからはtetoの「9月になること」が流れていた。武闘派の体育教師に「遅いぞ」と軽く怒られながら、ホームルームが始まるギリギリに到着するのはいつものことだ。
完璧な跳躍がしたい。自分を安売りしたくはない。でも周りに流されてしまう。図書館で彼氏と勉強していた16歳から17歳。単語も公式もまるで頭に入らない。
自分の強さも弱さも全て愛してくれるような人に出会いたい。心の内まで見透かされるような瞳に見つめられたい。切望しても辿り着かない理想郷を夢見て今日も眠る。
成績は大して伸びないけど、自撮りの技術だけは格段に上手くなっていった。決してクラスで目立つタイプではないけれど、承認欲求だけは人一倍強かった。何度も撮り直してできた究極の一枚を、まるでたまたま撮れたかのようにInstagramにアップする。
「ありがとう」の数より「ごめんね」の数の方が年々増えている気がする。裏切ったり裏切られたりを繰り返している。
灼熱の暑さでビルとビルが揺れている。扉を開けた瞬間、強烈な熱波に身を押し返される。夢中で飲むポカリスエットがすぐに汗に変わる。朝から晩まで文化祭の準備をしている。発注通りに看板にペンキを塗っていく。気だるそうに作業する向かいの男子よりずいぶん手際が良い。
漠然と満たされてない感覚がある。将来私はどうなるんだろう。毎晩考えている。友達もそれなりにいる。まるっきりモテないという訳でもない。学校にも毎日行っている。だけど何かが足りない。その欠如している部分を言葉にすることができない。だから、悩みを他人に伝えられない。
やっと分かった。これはもう論理でどうこうできる問題じゃない!今私に必要なものは没頭と熱狂だ。理性を捨てろ!感覚で跳ベ!見る前に跳ぶ、跳躍、高く、高く、高く。ロジカルシンキングなんてここにはいらない。現実を超越して今ここに私だけ、誰よりも高く跳んでいるその一瞬の煌めき、忘れるもんか。頭の中なんてぐっちゃぐちゃのまんまだ。混乱してる内に思い切って跳んでしまえ。最高到達点に届いた瞬間に「好きだよ」って言えたなら、もうどうなったって構わない。そうするとすぐに、重力の手によって終わりなき夢に引きずり込まれていく。潮の匂いを吸い込んで無敵になった私は、風すらも味方につけて絶望を殺しに行く。倫理も宗教も法律も届かないところで待っててね。
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