見出し画像

センターポールアスリートとの出会い⑫ 競技用車いすに乗ると人格が変わる人 若山英史 ①

前回の投稿から少し時期は前後しますが本日は”マーダーボール(殺人球技)”とも呼ばれるパラリンピック種目で活躍する選手との出会いとなります。
二回に渡ってお届けします。ご覧ください。

前回までのお話

殺人球技(マーダーボール)

車いすバスケットボールに関しては、選手も増えてきたので競技のルールやプレーする選手の障がいの事も理解してきました。
しかし、もっと他の種目も知らなければならないと、インターネットで調べていると、車いすバスケットボールと似てはいますが、異なる車いすスポーツを発見しました。
随分ゴツゴツした車いすで、タイヤはジンギスカンの鍋ように覆われています。選手はゴム手袋をしています。

どうやらその競技はウィルチェアーラグビー(現在は車いすラグビーという呼称です。)と呼ばれているスポーツでした。
ラグビーというとフィールドの選手同士が激しいコンタクトがあるスポーツで、どうやら車いすラグビーも”激しいコンタクト”が魅力のスポーツだそうです。
しかし、私は
「いやいや、怪我して車いすに乗っている人がタックルしたらまた怪我するから危ないでしょ。」
と、呟きながら、更に競技の事を調べてみると別名”殺人球技(マーダーボール)”とも呼ばれているそうです。
「誰がそんな物騒な名前つけたんだ・・・。」色々突っ込みどころがありましたが、気になって仕方がありません。

観に行ける場所は無いかと探してみると、どうやら新横浜に”横濱義塾”というチームが活動しているそうです。
当時私が拠点にしていた町田駅からであれば新横浜は電車一本で20分です。
facebookでチーム代表の方と連絡を取り合って、見学に伺うことになりました。

車いすに乗ると性格が変わる人

”横濱義塾”という名前からは、有名な漫画”魁!男塾”を連想しました。
江田島平八のような塾長(監督)や荒くれ者ばかりで、ガチガチの軍国教育チームで見学者にも容赦しない感じだったら、すごく嫌だなぁと思いながら、会場である横浜ラポールに到着しました。

体育館に着くと既にチームメンバーの皆さんは到着しており、連絡を取り合っていた代表の方とご挨拶ができました。
チームの皆さんはとても物腰が柔らかい。一安心です。

選手たちが乗っている車いすも実物を間近で見せてもらい、重量感やタックルで付いたであろう無数の傷があります。
映画”マッドマックス”や”北斗の拳”に出てきそうな、車いすです。
この、強烈なインパクトのある車いすを使用してプレーするのですが、車いすラグビーの選手たちは下肢切断の選手は殆どいなく、車いすバスケットボールの選手と比べると障害の状態も少し重そうでした。

きっちり髪の毛をジェルで8:2分けしている優しそうな選手が
「僕たちラグビーの選手は頸椎損傷、首の骨を怪我している選手が多いんです。車いすラグビーの選手は四肢麻痺と言って上半身にも障害がある選手しか試合に出れないんですよ。」と詳しく教えてくれました。

つまりはこうです、

”選手は四肢に障がいがある”
”バスケットボール同様、プレーヤーに障害に応じた持ち点がある”
”コートに出れるメンバーは4人で、持ち点の合計が8点以内”
”ルールはシンプルでボールを敵陣のラインを通過すると点数が入る”
”車いすスポーツで唯一車いす同士の接触”タックル”が認められている”

親切にその8:2分けの選手は教えてくれました。

そうこうしているうちにチームの練習が始まります。
選手たちは車いすをタイヤの側面にうまく押し付けて漕いでいます。
グローブをしている理由は、タイヤを握る握力が無いので、摩擦抵抗が高いグローブをタイヤの側面に押し付けて漕いでいたのです。
「なるほど」と、感心して見学していると。

ドカーン!!!

と強烈な音が体育館に響き渡ります。
交通事故に近いようなその炸裂音と衝撃音、これが車いすラグビーのタックルです。
唯一、車いすスポーツの中で故意的に車いす同士の接触が認められているこの競技が何故”マーダーボール(殺人球技)”と呼ばれているのか理解しました。

それから、シチュエーション別の練習と実践形式のゲームになったのですが、先程までニコニコと笑顔だった8:2分けの人が、厳しい表情でチームメンバーに指示を出しているのです。
鋭く厳しい表情と怒号に、”バイクに乗ったら性格が豹変するこち亀の本田”と重ね合わせたのでした。

この選手が若山英史選手だったのです。

練習を終えると若山選手は、優しいお兄ちゃんに戻っていました。(一安心です。)
若山選手は当時28歳で、車いすラグビーの中では障害が重いと位置づけられるローポインターとして活躍している選手とのことでした。
日本代表としても活動し、2012年のロンドンパラリンピックにも出場しています。
国内の所属チームは横濱義塾ですが、静岡の自宅から新幹線で新横浜迄、毎週通っているとのことでした。

「田中さん、初めての車いすラグビーヤバかったっしょ。僕ねえ、車いすラグビーの映画観てこの競技始めたんですよ。ちょっと古い映画だけど、時間あったら観てくださいね。」

どうやら、車いすラグビー題材にしたドキュメンタリー映画があるそうです。
名前もそのままの”マーダーボール(殺人球技)”
若山選手から進めて貰ったそのDVDはメジャーな映画ではないのでレンタルビデオショップで殆ど出回っていなく、何件も尋ねた記憶があります。
ようやく借りることができた私は、自宅に戻り早速再生ボタンを押します。
そこで目にしたのは車いすの男性同士が取っ組み合いの喧嘩をしているシーンでした。つづく