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センターポールアスリートとの出会い⑫ 競技用車いすに乗ると人格が変わる人 若山英史②


 初めて目にした車いすラグビーの激しさに圧倒されたのが前回のお話です。
今回は、競技用車いすに乗ると人格が変わる、若山英史選手a.k.a こち亀バイクの本田 から紹介をしてもらった映画を観るところから始まります。
前回までのお話



荒くれ者たち


映画のタイトルは”マーダーボール”
車いすラグビーを題材にした映画で2002年から2004年のアテネパラリンピックまでのアメリカナショナルチームとカナダチームの軌跡を追うドキュメンタリーです。

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(画像をクリックするとYouTubeにある字幕予告に飛びます。)

ドキュメンタリー映画なので勿論、ストーリーも出演する選手も実録で本物です。
この選手達が、揃いも揃って荒くれものばかりなのです。
作中では車いす同士で取っ組み合いの喧嘩がはじまります。

登場する面々は交通事故で酒気帯び運転の車に激突して車いすになった選手、子供の頃に患った髄膜炎が原因で車椅子生活になった選手、喧嘩が原因で車椅子になった選手と生い立ちは様々です。

この映画では一度死に直面した選手たちが、車いすラグビーという競技と出会い、競技を通じて自分と向き合い、試合だけではなく社会とも戦っている様にも感じ取れました。
今まで私が観てきた障がい者を題材にしたドキュメンタリー映画、ドラマでは”障がい者を良心的で可愛そうな人に描きたがる傾向”にありましたが、この作品ではその真逆で車いすに乗った荒くれ物が世界一を目指して戦う姿が描かれていました。


コートでは自分を解き放てる


改めて翌週の練習前に時間を作ってくれた若山選手の第一声は
「やばかったでしょ」
でした。
「障がい者=大人しくて優しい訳ではないですからね。実際は酷いのもいるから笑」
確かに、足を失っても車いすになっても、今まで会ってきた選手たちは唯一無二です。体の機能に違いが多少あるだけです。
競技に取り組む姿勢はオリンピックだろうとパラリンピックだろうと境界線は無かったのです。

若山選手は続けて自分の経緯を教えてくれました。
「僕もね。元々車いすだったわけではないから、しばらくは受け入れられなかったですよ。頸椎損傷って障がいの中でも重い分野なんですよ。手にも障がいが残りますから。
だから、もう”大人しく生活するしか無いのかな”って自分で決めつけてしまいそうになった時に出会ったのが、マーダーボールだったんですよ。」

この車いすラグビーは車いす種目で唯一車いす同士のコンタクトが認められていて、プレー中に相手チームの選手をタックルして転倒させたらナイスプレーです。(タックルの中でも後方から追突するタックルは危険タックルで禁止されてます。)
日常生活では車いすユーザーは誰かのサポートを必要とする機会は決して少なくはありません。
しかし、この車いすラグビーはコートに出たら相手選手が物凄い形相で潰しに来る。もしくは潰しに行かなければいけないシーンがあります。
コートの中では自分で自分の身を守るしかないのです。
そのスリル感に魅了されて若山選手は競技を本格的にスタートしたのでした。


ローポインターの美学


若山選手は出場する選手の持ち点(障がいの程度を示す点数)が1点。ローポインターと呼ばれる重い障がいクラスです。
軽度の障がいの選手と比較しするとスピードやタックルの強さなど劣る部分はどうしても出てくるはずです。
そして、若山選手を含めローポインターと呼ばれる選手の車いすは、なんだか先端にカブトムシの角のようなバンパーが付いています。

「確かに身体的能力は劣る部分ありますよ。僕は派手なタックルもしないし、スピードも障がいの軽い選手と勝負したら劣るでしょうね。
でもね、田中さん。考える思考力はハンデ無し。頭使ってゲームを組み立てると、負けないんですよ。
「相手チームのコースを塞いだり、長いバンパーで相手選手をひっかけて止めるんです。僕の方が障がい重いはずなのに相手選手何にも出来なるなるんですよ。フフフ。」
若山選手は意地悪そうな顔で話します。

なるほど、このカブトムシのようなバンパーは相手選手の車いすに丁度良く引っかけることが出来る構造になっているのです。

「どうやってプレーをしたら相手選手が嫌がるか、そして自分のチームが活かされるかを考えてプレーするのは楽しいですよ。
勿論激しいプレーが魅力の競技ではありますけど、迫力以上に緻密な計算と戦術が必要不可欠なのが、この車いすラグビーなんです。

後々分かるのですが、若山選手は洞察力が以上に長けており、研究熱心な人でもありました。
詰将棋の様に常に先の手を考えているのです。
(以前、一緒に大相撲を観ていたのですが、その時も勝利力士の試合の運び方を事細かくロジカルに解説してくれました。)

この種目は迫力あるハイポインターに注目が集まりがちではありますが、ハイポインターの力だけでは勝つことは難しく、それぞれの役割を全うしたチームが勝利できるのです。

そして、若山選手は車いすラグビーを愛しており、多くの方に認知してもらい、会場で迫力や魅力を感じ取ってもらいたいと心から望んでいる選手でした。

私も、そんな情熱を持った若山選手を多くの方に知ってもらいたいと同時に、若山選手のローポインターの美学を伝えていきたいと願い、是非サポートをさせて貰いたい旨を伝えました。
こうして、一番初めの車いすラグビーサポート選手として加わったのでした。


つづく