選択の瞬間
「えーと、ここはさっき通った気がするなあ」
T字路の突き当たりでたちどまり、首を左右に振る。
「次は左へ行ってみるか」
僕は何かを思い出すのが苦手だ。記憶力が弱いから。
でもそれ以上に、その瞬間、瞬間の考えで動きたい。
「あれ、ここはさっき来たよ」
でも、それでうまくいかないこともある。
記憶は大事。経験も大事。
でもそれはみんな過去のものだ。
目の前に現れた、新しい瞬間に、
初々しさをまとった自分の感覚で対処したい。
そんな風に思っているけど、思っていること自体、
その瞬間に過去になっている。
それに思い出していないだけで、
瞬間的な考えや動きの中に、記憶したことが、経験したことがきっと包まれている。
何度も曲がり、突き当りを戻り、坂道を登り、別れた道を選ぶ。
「あ、ここは初めてだぞ」
目の前にまっすぐ長い道が現れる。
その先は黄色く放射状に輝いていた。
「よし、こっちへ行ってみよう」
※年賀状に書いている、干支をテーマにしたミニミニ小説です。
今回は子(ねずみ)がテーマです。選択の正しさは後になってみないと分かりませんが、
その都度じゃあどうしようって考えるしかありませんよね。
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