見出し画像

黄金のたてがみ

 三日三晩走り続けてたどり着いたのは、小高い森の中にある小さな学校だった。
 辺りは、ゲートに入った瞬間のように静寂に包まれている。
「ボクはリース。キミは誰?」小さなリスが彼に訊いてきた。周りには様々な動物が集まっている。
「ボクは馬。人間からはマークって呼ばれてたよ」
「人間? マークはどこから来たの?」
「ええと、街の競馬場……」大きな歓声が頭の中でこだまして、周囲の木々のざわめきと混じり合う。
「競馬場って、人間が集まって遊ぶとこでしょ。どうしてここへ?」カリンと自己紹介したシカが声を出した。
「ボク足が遅いから。父さんは立派な競走馬だったし……」
「それで逃げ出してきた。二世問題ってやつだね」リースの言葉に周りの動物が一斉に笑った。
「離れることで見えることがあるよね。かかわりとか、役割とか」リースの声が変化する。
 調教師の顔が浮かび、仲間の馬がその中を通り抜けていった。
「でもね、ちゃんと見ないといけないのは、自分の色だよ。そして自分の音もちゃんと聴くんだ」
 リースの顔に(まじめな話だよ)という文字が見える。
「自分の……」親の血を受けたボクが持っていた色や音。生きて行く中で創られた色や音。その変化。 すうっと焦点が定まっていく。
「やっぱり戻るよ」
「レースにまた出るつもり?」
「いや、まずみんなと話してみる。自分の気持ちを。あと父さんとも」
 それが良い、それが良いと声が重なる。戻る前に教えてほしいことがあるの、とカリンが言った。
「こんど人間が転校してくるんだ。人間のことを教えて」
「いいよ、でも人間って言ってもボクらみたいにいろいろだよ」
 木々の間からもれる光がオレンジ色に変わる。その色はマークのたてがみを黄金色に輝かせた。

※年賀状に書いている、干支をテーマにしたミニミニ小説です。
今回は午(うま)がテーマです。
昔から色々な動物が仲良くしている話が好きですね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?