【小説】 ダブルピースで決めっ! 6
(あらすじ)
偽名を使いアルバイトを始めた主人公。要領がよく作業が早いため、博士君先輩やチャーリーおじさん社長に気に入られ、次々と新しい作業に就く。しかし、その工場で作られているものには秘密があった。くだらなさ満載のナンセンスSFです。
以前の話は以下より
6日目
六日めの部屋はね、ちゃんと機械が並んでる部屋だったんだわさ。それはもうちゃんとしてるっぽい機械でね、もちろん初めて見る形をしてたんだ。よ、その機械は。ね。しかも大きな四角い機械が三つ連なっているんだよ。
その三つの機械は、ベアでつながっているんだけど、全体をうすっらと白い透明な、でもぽっこりと青いイナズマな、それでいてがっぽりと赤いヒデカズな、っていう、良い加減な色合いをしたプラスチックのカバーに覆われてるのさ。機械はずっとピカピカとランプが点滅していてね。ガシーン、ゴシーンって大きな音を立てながら、ワタシの心の奥底にある優しさの欠片を揺さぶるぐらいの振動がずっと続いていたんだよ。すごいなあ、がんばってるなあ、って感心したんだわさ。
そういえば、この部屋にはね、一人だけ作業いている人がいてね。でも、困ったことに何度聞いても名前がね、覚えられなかったんだよ。最初に挨拶したとき、自己紹介してくれたときはね、ちゃんと覚えてたはずなのに、すぐに忘れちゃってね。もう一度教えてもらった瞬間はちゃんと覚えていたはずなのに、またすぐ忘れちゃって。へへ。
たしか、オテなんとかっていう名前なんだけどね。オテテツナイデだったような、オテヲハイシャクだったような、それともオテアライハドチラデスカだったか、オテラヘノミチハコチラデヨロシカッタデショウカだったかってね。どれもありそうな名前でしょ。だから覚えられないんだと思うよ。しょうがないからホーラオテッって名前にするよ。
ホーラオテッさんは、実はオクラ入りさんの弟だったんだよ。オクラ入りさんの。
でね、そのことを、その日の昼休みに食堂でクリームパンを吊り終えたオクラ入りさんから聞いたんだ。
「あいつは、ちょっと引っ込み思案だからなあ。お前からいろいろ話しかけてやってくれよな」
「ハイ、わかりましたっちゃ」
「プライベートな質問はほどほどでな」
「ましたっちゃ」
「時間ができたら、見に行ってやるよ」
「たっちゃ」なんてやりとりがありまして。
午後になって、オクラ入りさんのアドバイスを生かすときだ、と勢い良く話しかけようとしたらね、その間もあたえてくれず、ホーラオテッさんからいろいろ話してきてくれたんだわさ。きっとホーラオテッさんは引っ込み思案じゃなくて、オクラ入り兄さんの前だとおとなしくしてるんじゃないかなあ。あるでしょ。オオカミの皮を被ったシツジ、って言うんだっけ。化けの皮を被るネコ、って言うんだっけ。そんな感じでさ。
ホーラオテッさんはね、工場で働いてちょうど十年なんだって。十年前に、なんとなく偽装結婚してから、オクラ入りさんの紹介で工場で働くようになったんだって。入社試験はね、オクラ入りさんが代わりに受けてくれてね、二年目で今の作業になったんだって。そう、その部屋の作業っていうのはね、別の部屋からベアに乗ってやってくる人からナカトミノカタマリを受け取って機械の中へ流すことなんだよ。オクラ入りさんここでも登場。
実はオクラ入りさんがね、朝からすでに回転しながらナカトミノカタマリをホーラオテッさんに渡していたんだって。この前の部屋のとなりにホーラオテッさんがいたんだって。気がづかなかったな。盲点をづかれたなあ。濁点をづけられたなあ。てねねね。受けとったナカトミノカタマリは、機械につながってるベアの上に置くと、後は自動的に機械に吸い込まれていくんだわさ。
「さっきはナイスアドバイスをどうも」回転している途中のオクラ入りさんに声をかけたんだけどね、オクラ入りさんは「ホーッ、ヘーッツ、ホハヘハア・・・。あかん、喋れへん・・・」ってな感じでね。お疲れの様子だったんで、代わりにホーラ、ポチ、オテさんに聞いたんだよ。
「あの方お兄さんですよね」
そしたらね、「いや、知らないよ、知らないおっさん」って、ホーラオテッさんは知らないふりしたんだよ。知らないふり。フリフリ。なんでだろう、分かる? 恥ずかしかった? ああ、そうかもね。まあ恥ずかしいと言うならそれでいいけど。なんとなく、兄弟じゃない気がしたけどね。偽装兄弟。ね。
その日の作業なんだけど、結局ずっと見ているだけだったんだ。だってね、オクラ入りさんは、もう最初からバテ気味でね。やっぱりたぶん弟のハーイオスワリさん一人で十分だったんだわさ。だってなかなかオクラ入りさんは回転してきてくれないから。
ワタシは早さ自慢もできずにね、機械のそばによって、記念写真を何枚も撮って今日の作業終了。ちょっと申し訳ないわよね、そうよね。ヨネニョネ。
それでね、作業が終わった所にちょうどチャーリーおじさん社長が来てね。チャーリーおじさん社長の話ってしたっけ? ああ、してた? そう。もみ上げがこう長くってね、鼻の下のひげがモワッとしてて。知ってる? ああ、そう。タケノコも? ああ、そうなの。ちっ、いつの間に。じゃあ、チャーリーおじさん社長の息子の話は、知らないでしょ。
チャーリーの息子はね、小学校のときはトランポリンの選手だったんだけどね、トランポリンの上で、トランとか、ポリンとかやってるうちにね、両腕がトリントリンとなってね、そのうち両足がポランポランってなってしまったんだ。それで仕方なく中学校からは、スリンスリンとコワンコワンしたんだって。で、今に至る。タルーンタルーン。ね。
どう、知らないでしょ。そりゃそうだよ、今ワタシが作った話だからね。チャーリーの家族構成なんかしらないもんね。え、なんでそんな作り話するのかって? そりゃあんたはんが、何でも知ってる、知っている、知ったかぶりするからですよ。そうじゃなきゃ、チャーリーの息子がタイムマシンを作ったなんて言うわけないでげしょ。げしょ。タイムマシンなんて言ってない? ああそうさ、何も言ってないだわさ。ワタシは何も言ってないだわさ。まあ、いいや、こんなところで。ね。ぬ。の。
話を戻すよ。チャーリーおじさん社長はね。ワタシの仕事を見てもいないのに、「ハジメ君は仕事が早いから明日から別の仕事をやってもらうよ、タケノコ、タケノコ」ってな感じで何かを言ったかのようにね、ワタシの手を引っ張ってね、そのまま別の部屋にワタシを連れていったんだわさ。それが昨日のこと。えっ、電池が切れそう? ああ、ケータイの。そうなの。でも。もうすぐだよ、ボタンの話は。電池切らせずにうまいことやりくりして聞いてよね。ねねね。そこの部屋へ行ったところで、六日めの作業は終了。
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