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縁切
ここは縁切寺として有名だ。
妻子がありながらわたしを手離さない男、そしてその男から立ち去ることのできないわたしと。もう神頼みするしか無いのだ。いや、それは言い訳なのは分かっている。一陣の風が葉擦れの音と共にわたしを打ちつける。神の所為にしようとしているわたしへの戒めか。
玉砂利に足をとられながら小さな祠の前に立つ。新旧混ざった無数の絵馬で撓んだ縄に、わたしもひとつ絵馬を結ぶ。仲間ができたと、ガラガラと唸るような音をたてて無数の絵馬が嗤う。耳障りなその音から逃げるようにわたしは絵馬から手を離し、踵を返す。
家に着くまでに相手に会わなければ縁が切れるという。わたしは方違をするような気分で、何処へ行くのかよく分からない各駅停車に乗り込んだ。長閑な田園をノロノロと進む電車に、イライラしながらわたしは何故か男のゴツゴツとした長い指を思い出していた。
列車がトンネルに入ると、窓にわたしが映る。白い灯りに照らされたわたしは、目の周りが真っ黒で、まるで落ち窪んでいるように見える。わたしはそっと首に手をやる。締まる縄に抵抗しようと必死でわたしは自らの首に縦の筋を無数に付けたらしい。この白い首に惚れたのだと、男はよくそのゴツゴツした指で愛撫したのに。
そう、既に縁は切れていたのだ。
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