市民が創るウエルビーイングな街。
先日、デンマークの健康都市ネットワーク「Sundby Netværket」が主催するウェビナーに参加しました。このウェビナーのテーマは、ウエルビーイングエコノミーとWHO(世界保健機関)の欧州部が推進している「健康都市」の取り組みとその成功事例でした。都市開発や公共政策の決定において、市民がどのように関与し、その力を発揮できるかについて再考する貴重な機会となりました。
ウェルビーイングエコノミーと市民参加
「ウェルビーイングエコノミー(Wellbeing Economy)」とは、経済成長や利益追求を最優先にする従来の経済モデルとは異なり、主に人々の健康や社会的つながり、そして持続可能な社会を目指す経済モデルです。このモデルでは、GDPのような単一的な指標だけでなく、健康、教育、環境保護、平等などの幅広い指標が重視され、政策決定が行われます。
Sund By Netværket (sund-by-net.dk)
Wellbeing Economy Lab | WELA
私は健康増進部門の自治体職員として働く中で、このウェルビーイングエコノミーの重要性は年々高まっていると感じています。特に、環境問題やメンタルヘルスといった複雑な課題が重なり合う現代社会では、こうした包括的なアプローチが必要不可欠ということが、このウエルビーイングエコノミーへの期待を高めている要因の1つでもあります。
具体的に行政側ではどのようなアプローチがされているのかというと、市民自身が自らの生活に関わる政策や予算に直接的に関与し、その結果を共に創り上げる機会を提供すること。真のウェルビーイングな都市の実現には住民自身の力を活性化する取り組みがとても重要な要素になっています。
市民の力とコミュニティの強化
市民は都市開発や公共政策に関与することで、単なる受け身の存在から、都市を創り上げる「当事者」としての役割を果たすようになります。この「市民が自分事として政策づくりにかかわること」が、コペンハーゲンをはじめとする多くの北欧の都市で、住民の力を引き出す手法として導入されています。市民が地方政策に対して発言権を持ち、実際にその意見が政策や街づくりに反映されることで、自治体の透明性と説明責任が高まります。また、市民が協力して地域改善に取り組むことで、コミュニティの絆が強まり、地域に対する帰属意識が深まります。
例えば、アイスランドのレイキャビクでは、市民が主導する「参加型予算制度」が2011年より導入され、住民が自らの地域の課題解決に関与しています。この制度により、住民は公園の整備やインフラの改善、コミュニティ施設の設立などに関する提案を行い、予算配分に影響を与えることができます。こうした市民参加のプロセスは、地域の活性化だけでなく、住民同士のつながりを強化する手段としても非常に効果的といわれています。
Better Reykjavik - Citizens Foundation
コペンハーゲン市の取り組みと市民参加
コペンハーゲン市でも、住民が地方政策に参加できるデジタルプラットフォームを活用した取り組みが進められています。この新しい仕組みにより、住民は自らの提案を市に提出し、他の市民と議論することができます。2025年度の予算においては、このプラットフォームを通じて市民から提案された「アルコールや薬物中毒者の家庭で育った市民に対する治療保証プログラム」が採用されました。この治療保証プログラムは、14歳から35歳までのアルコールや薬物中毒者の家庭で育った市民が対象となり、180日以内に治療プログラムが提供されるという内容です。プログラムが効果的に実施されるためには、市からの補助金が引き続き提供されることが前提となっていましたが、この提案に対しては2500人以上の市民の支持がプラットホーム上で集まったため、8月の市民議会にかけられ採択、9月の2025年度予算会議でも予算を得るという運びになり、プラットホームからの提案に予算がつく初の事例となりました。
Forslag: Behandlingsgaranti til københavnere der er voks... | Københavns Kommune (kk.dk)
この1例は市民の提案とはいえ、なかなか専門的な提案ともいえますが、このように市民が直面している問題に対して具体的な解決策を提供する事例を重ねることで、長期的に地域社会にも大きな影響を与えることが期待されています。
終わりに
市民参加型の政策は、デジタルプラットホームを持つ前から、コペンハーゲン市にとって長い歴史を持つ取り組みであり、今後もさらに進化していくと思われます。デジタル時代の到来により、市民が政策に関わる手段は広がりつつありますが、その根底にあるのは「市民の声が街を創る」という理念。この根本的な理念が、ウエルビーイングエコノミーを形成していく土台としてとても重要だと再認識しています。
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