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フットボールと観客 〜無観客試合で失われたサポーターの存在意義〜


• はじめに

  世界規模の新型コロナウイルスの感染拡大の影響でJリーグは2/23の第1節より、プレミアリーグは3/9 に行われた第29節よりそれぞれおよそ4ヶ月の中断を余儀なくされた。その後も欧州各国リーグは無観客で、Jリーグは観客の人数を制限して試合を行うなど本来のレギュレーションとは程遠い中で試合を行なっているというのが現状である。
 

 リーグが無観客で再開されることが決定された際には選手たちが、かつてと同じようなプレーを見せてくれるのか。無観客という状況の中怠惰なプレーが数多く起きてしまうのではないか。という懸念の声も少なくなかった。しかしその懸念もただの杞憂となり、それどころかチャンピオンズリーグやFA杯決勝など選手たちは数多くのインテンシティの高い試合を我々に見せてくれた。


 こういった無観客の状況が続くことをサポーターは強く反発するだろうが、果たしてクラブはサポーターほど反発するのだろうか。値上がりし続ける放映権の問題を踏まえて考えていく。

•  放映権の増大とクラブ収益


 数年前から世界各国で報じられている事案がある。クラブと地元サポーターの関係性である。デジタル化が進む現在において今や世界中で欧州5大リーグの試合を目にすることができる。そういった状況に比例するかのように放映権は値上がりを続け、ほとんどのクラブの収益の半分以上を占めるようになった。観客収入がなくても収益に問題が発生しないクラブは多く存在してしまっている。現に19/20シーズンでは年間で36億200万ユーロ(約4180億円)《※以下貨幣の表記を円で統一》もの収入が国内外の契約を合わせて入ってくることになる。中国企業PPTVが226億円の支払いを滞納し契約破棄となったニュースは2週間ほど前に流れたが滞納分を放映権による総収入から単純な引き算をしても約4000億円といまだに莫大な数字を維持している。


 プレミアリーグにおける放映権料の分配は一定料を等分配し、イギリス国内の生中継の回数やリーグ順位を加味してボーナスが加算される仕組みである。18/19シーズンにおいては約3413億円の収入があり各クラブに約115億円+ボーナスが分配された。クラブ収入は、そこに広告費やマッチデイ収入が加算され計上されているが、スタジアムの規模や参加しているコンペティションの数によって差が出てきてしまうのは明白である。

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 上記の表は18/19シーズンの総収入における放映権が占める割合を示した図である。ビッグ6+リーグ内で最もスタジアム規模の小さいボーンマス、降格したハダースフィールド、自分が応援しているクリスタルパレスで比較をした。表で示すことで、いかに中堅、下位クラブが放映権料に依存しているかがより明確にわかる。つまり異例のシーズンとなった昨シーズンは是が非でも完了させなければならないシーズンだった。また、これだけの大金を放映権料としているプレミアリーグはシーズンを完了させなければ契約違反として1000億円もの違約金が発生していた可能性があるとイギリス誌『times』は報じている。無観客でのリーグ再開の判断はクラブ、リーグ共に最善かつ必要不可欠な策だったのだ。

• 無観客試合はいつまで続くのか

 では、いつになればスタジアムに足を運ぶことができるのだろうか。19/20シーゾン終了時には、10月ごろには徐々に観客を入れて試合を行うことができるという見通しが立っていた。実際にチェルシー対ブライトンのプレシーズンマッチではアメックススタジアムに2,500人の制限付きではあるがサポーターを入れて試合を行なっていた。      

 しかし、イギリスのジョンソン首相は国家統計局(ONS)よりイングランドの9月の第1週の新規感染者数が3万9700人と8月の最終週に比べ1万1000人増加しているとの報告を受けた。これを受け、再び国内での感染者数が増加しているとの見解を示し7人以上の集会を禁止するなど規制を強化することを発表した。

 当然、スタジアムにサポーターが入れるはずもない。またSky sportsのどの衛星放送に加入をしていない現地サポーターは試合を見ることすらできない。ここから冬に向かい、コロナウイルスは第2波が来ると予想されている中で再びロックダウンが発動される可能性すらある。そういった状況下に置かれた中で今シーズンもリーグ戦自体は多少の中断はあろうと完遂するだろうが、サポーターを入れて実際に試合を行うことができるのは2021年春以降となってしまうのではないかと予想している。

• サポーターの意義とマッチデイ収入

 仮に2021年春に観客を招き試合を実施したとして、果たしてサポーターはどれほど集まるのだろうか。プレミアリーグでは度々チケットの値上がりが問題視されている。現在は発売をされていないが、アーセナルは17/18シーズンの年間シートで最安値ですら13万3000円と相当な高値を記録しており、それに加え『BBC』が18歳から24歳のサポーター1000人を対象にして行なった調査では82%がチケット代の高騰でスタジアムから足が遠のいているという結果が出ている。

 また、19/20シーズンのチケット平均価格は4300円とリーグは公表しており値下がり傾向にあるように見えるが、リーグやクラブ側の立場としてはダービーマッチやビッグマッチだけでなくどの試合にも集客があって欲しいと考えている。このこと自体は不思議な話ではなく、むしろ当然の話なのだが、ビッグマッチやダービーマッチはやはり値段が相当高い。19/20シーズンの元旦に開催されたアーセナル対マンチェスターユナイテッドのゲームでは2階のコーナー席でさえ1万1500円もかかっているという投稿も見かけた。我々日本人など観光客にとっては払えない金額ではなく、思い出にという意味では快く出せる金額(価値観は人によって違うのでなんとも言えないが)だが、現地サポーターにしてみればこれは高いのではないかと思う。対ビッグ6を5試合ホームに迎えるのに加え、カップ戦でも対戦する可能性を考えると10万円弱は全試合見にいくのにかかってしまう。各クラブのマッチ代収入の平均は10%強であるにも関わらずサポーターにこれだけの負担を強いている。

 そして現在、無観客試合が依然として行われているが日本で見ている限り観客が入っていたころとスタジアムの雰囲気を除いてなんら変わりはないように思う。試合のクオリティや選手のゴールセレブレーション、激しいプレーに対する感情の表し方さえもなんら変わりはない。現にPSG対マルセイユのダービーマッチはそれが良いか悪いかは別として5人の退場者を出し、観客がいないながら熱い試合を見せてくれた。果たしてコロナウイルスが収束した後に、サポーターはスタジアムに行くべきなのか。衛星放送に加入し、月払いで試合をテレビ観戦をした方がサポーターにとっては安く済む。クラブやリーグとしても加入者が増えた方が放映権料を値上げしてさらなる収益につながり喜ぶのではないかとまで考えてしまう。

 再びサポーターがスタジアムに入ることができるようになった際に、クラブはチケット価格を見直すべきだと思う。下位クラブやローカル色の強いクラブこそチケット代を積極的に値下げをし地元サポーターを受け入れるべきだ。他のクラブが値下げをすることにより、ビッグ6やロンドンに本拠地のあり、オリンピックでも使われるなど高額なロンドンスタジアムを使用しているハマーズ(どうやらパレスのある南ロンドンは比較的低所得者層が多いらしくチケットも高くないらしい)のサポーターたちに値下げ運動を起こさせ、よりクラブに足下に目を向けさせるべきだと自分は考える。

• 終わりに

 フットボールが誰のために行われているのかということを考えたときに、現地に足を運び応援してくれるサポーターのためだということが当然とされていた。しかし、衛星放送やネット媒体が世界中に普及し誰でも、どこにいても比較的安価に試合を見ることができる。それに加えてこのコロナ禍で選手や監督は自身のためにフットボールをしていた。サポーターが現地にいなくても素晴らしいプレーを披露し、画面の向こうのサポーターを意識してプレーをしているかと言えば必ずしもそうではない。

 だが、クラブやリーグが選手や監督と同じようにサポーターに目を向けないようになってしまってはスポーツは衰退してしまう。世界で最も注目を集めるリーグの1つだからこそサポーターを大事にするクラブを応援していきたい。

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